2017年に起こった,高速道路でのあおり運転が原因で停車中の車がトラックに追突された死亡事故。
記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
あおり運転を原因とする交通事故は,被害者が死亡する悲惨な結果となることもあります。
当コラムでは,あおり運転を原因とする交通事故についてご説明いたします。
1 あおり運転の定義と罰則
⑴あおり運転の定義
あおり運転とは,他の車両等の通行を妨害する目的で,一定の違反行為であって,当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをいいます。
あおり運転の対象となる一定の違反行為には以下の10類型があります。
①通行区分違反 ②急ブレーキ禁止違反 ③車間距離不保持 ④進路変更禁止違反 ⑤追越し違反 ⑥減光等義務違反 ⑦警音器使用制限違反 ⑧安全運転義務違反 ⑨最低速度違反(高速自動車国道) ⑩高速自動車国道等駐停車違反 |
⑵あおり運転の罰則
あおり運転をした場合や,あおり運転のせいで危険が生じた場合は罰則の対象です。
①あおり運転をした場合
(ア)3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 (イ)違反点数25点 (ウ)免許取消し(欠格期間2年。前歴や累積点数がある場合には最大5年) |
②あおり運転のせいで危険が生じた場合
(ア)5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 (イ)違反点数35点 (ウ)免許取消し(欠格期間3年。前歴や累積点数がある場合には最大10年) |
また,相手が死んでもかまわないと考えてわざとあおり運転を行い,被害者を死亡させたら殺人罪が成立することもあります。
2 あおり運転による交通事故での慰謝料の請求方法と注意点
⑴あおり運転による交通事故での慰謝料の請求方法
あおり運転が原因の交通事故でも,被害者は傷害慰謝料(入通院慰謝料),後遺障害慰謝料,死亡慰謝料を請求することができます。
慰謝料を請求する方法は,通常の交通事故と同じです。
交通事故の発生→治療→症状固定・後遺障害申請→示談交渉→示談成立という流れになります。
なお,交通事故が起こってから示談金が支払われるまでの流れについては当事務所の次のコラムでもご紹介しているのでご覧ください。
⑵あおり運転による交通事故で慰謝料を請求する際の注意点
①相手のナンバープレートや車種,車の特徴を記録しておく
加害者が逃げてしまっては,慰謝料を請求することができません。
加害者の車両やナンバープレートを撮影する,スマートフォンや手帳にナンバーや車種などを記録するなどして,加害者を特定できるようにしておきましょう。
もっとも,あからさまに加害車両を撮影すれば,加害者を逆なでしてしまうおそれがあるので,状況をみて対応しましょう。
②あおり運転であることを立証する
あおり運転であることを立証するためには,客観的証拠が必要です。
ドライブレコーダー,スマートフォンで撮影した映像,防犯カメラ映像などが有用な証拠です。
ドライブレコーダーとは,車両に大きな衝撃が加わった前後十数秒の時刻,位置,前方映像,加速度,ウインカー操作,ブレーキ操作等を記録する車載カメラ装置のことです。
相手が「あおり運転はしていない」と主張しても,ドライブレコーダーの映像が残っていれば,あおり運転があったことを証明できます。
また,同乗者がいてあおり運転をしている車両の様子をスマートフォンで撮影していれば,これも重要な証拠です。
③加害者側の保険は使用できないかもしれない
自動車保険では,運転者に故意がある場合は補償の適用外となっているので,あおり運転が原因の交通事故では,加害者側の保険は利用できない可能性があります。
加害者側の保険を利用できなければ,ご自身の加入している保険を利用できないか検討しましょう。
なお,交通事故被害者が請求できる交通事故慰謝料については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
3 あおり運転による交通事故の慰謝料相場と裁判例
⑴あおり運転による交通事故の慰謝料相場
通常の交通事故と同様に考えることができます。
慰謝料には,自賠責基準,裁判所基準(弁護士基準),任意保険基準の3つの基準があります。
非公表の基準である任意保険基準以外の相場は以下の表のようになっています。
自賠責基準 | 裁判所基準(弁護士基準) | |
傷害慰謝料(入通院慰謝料) | 4300円×日数日数は,傷害の態様,実治療日数等を勘案して判断する。妊婦が胎児を死産又は流産した場合は,これ以外に慰謝料を認める。 | 入通院期間を基礎として,所定の表に従い算出する。通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容,通院頻度をふまえ実通院日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。傷害の部位,程度によっては,20~30%程度増額する |
後遺障害慰謝料 | 別表第1の1級:1650万円別表第1の2級:1203万円別表第2:1級は1150万円,14級は32万円 | 2800万円(1級)~110万円(14級) |
死亡慰謝料 | 被害者本人の慰謝料:400万円被害者の父母,配偶者及び子:請求権者1人なら550万円,2人なら650万円,3人以上なら750万円被害者に被扶養者がいる場合,この金額に200万円を加算する。 | 一家の支柱:2800万円母親,配偶者:2500万円独身の男女,子供,幼児等:2000万円~2500万円 |
あおり運転は,以下の慰謝料の増額事由に該当する可能性があります。
慰謝料の増額事由
①故意もしくは重過失
(ア)無免許 (イ)ひき逃げ (ウ)酒酔い (エ)著しいスピード違反 (オ)ことさらに信号無視 (カ)薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転等 |
②著しく不誠実な態度
⑵あおり運転による交通事故の裁判例
①大阪地判平18.7.26 交民39・4・1057
飲食店勤務(男・19歳)につき,加害者らの危険運転行為(正面衝突する寸前まで接近して急ハンドルで衝突をかわす行為)により加害車両と衝突して転倒後,加害車両の底部に巻き込まれたまま約212mにわたり引きずられ,後輪に轢過され死亡したもので,通常の死亡事故とは性質を異にするとして,本人分3000万円,父母各300万円,兄150万円,合計3750万円を認めた。
②大阪地判平18.8.31 交民39・4・1215
会社員(男・34歳・独身)につき,加害者が,被害車両に非常識な割込みをされたと立腹し,報復のために至近距離を保ったまま約400mにわたって加害車両で煽り行為を行い,被害者がほぼノーブレーキで先行車へ衝突するという事故を招いたこと等から,3000万円を認めた。
4 あおり運転の被害者が法律相談するメリット
⑴損害賠償金を得やすい
弁護士に法律相談し,依頼すれば,弁護士がそれ以降の対応を行います。
弁護士は過去の経験に基づき,適切な示談金を得られるように手続を進めるので,損害賠償金を獲得できる可能性が上がります。
⑵証拠収集を行ってもらえる
あおり運転が原因で交通事故が起こったことを立証するには,証拠が必要です。
何が証拠となるのかを判断するには,あおり運転に関する知識がないと厳しいです。
弁護士に法律相談すれば,証拠となるもの・証拠の集め方を教えてもらえるので便利です。
⑶示談交渉を代行してもらえる
弁護士に法律相談した後,依頼すれば示談交渉を代行してもらえます。
あおり運転の損害賠償金をもらうためには,示談金の額を決定する示談交渉が最重要です。
交渉事に慣れている弁護士が行った方が,示談交渉も上手くいくことが多いです。
5 まとめ
あおり運転は重大な交通事故につながる危険な行為です。
あおり運転に遭わないような運転をすること,あおり運転をされても相手から安全に離れて事故を防止することも大事です。
万が一,あおり運転が原因で交通事故に遭ったら,弁護士に法律相談して,加害者からきっちり慰謝料を受け取りましょう。あおり運転被害に遭い,慰謝料請求したいと考えていらっしゃる方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひご相談ください。