交通事故の解決方法では,「示談」がメジャーです。
しかし,全ての交通事故で示談による解決がなされるわけではありません。
当事者がどちらとも譲り合わず,示談が不成立となることもあります。
その場合,いきなり訴訟を起こすのではなく,「民事調停」と呼ばれる簡単な方法があります。
当コラムでは,交通事故の民事調停についてご説明いたします。
1 交通事故の民事調停とは?
民事調停とは,当事者同士での自主的な解決が望めない場合に,訴訟のように勝敗を決するのではなく,話し合いで紛争の解決を図る手続です。
民事調停では,調停委員と裁判官が当事者双方の合意をあっせんし,簡易裁判所で行われることがほとんどです。
「民事調停」の他に「家事調停」もあります。
家事調停では夫婦間や相続など家庭に関するトラブルが扱われるのに対して,民事調停では不動産の貸し借りや交通事故など民事の一般的な紛争が扱われます。
なお,示談が難航した場合の対応,交通事故の裁判については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
2 民事調停の流れ
⑴調停を申し立てる
民事調停は,相手方の住所がある区域を管轄する簡易裁判所に申し立てます。
管轄の簡易裁判所は,以下の裁判所のホームページから調べます。
例えば,大阪市中央区にある難波を管轄するのは大阪簡易裁判所です。
申立書も裁判所のホームページからダウンロードすることができ,書き方や手続が分からなければ簡易裁判所の窓口で説明を受けることができます。
申し立てる際,申立手数料と郵便料金を納めます。
申立てがなされてから第1回期日が実施されるまでは約1カ月かかります。
⑵調停委員が指定される
大抵の場合,裁判官1人と調停委員2人からなる調停委員会が構成されます。
調停委員は,40歳以上70歳未満の人で,弁護士,医師,大学教授などの専門家などから選ばれます。
⑶調停期日が決定され,呼び出しがなされる
調停委員会が構成されると調停期日が決められ,申立人と相手方が裁判所に呼び出されます。
⑷調停期日が実施される
民事調停は,法廷ではなく調停室で行われます。
調停委員会が当事者の言い分を聞いたうえで歩み寄りを促したり,解決案を提示して調整を行います。
当事者が同席したくなければ,交互に調停室に入ってもらって進めることもあります。
各期日は1カ月ほど間隔があくことが多いです。
⑸民事調停が終了する
合意ができると調停が成立し,合意内容が調停調書に記載されます。
合意できずに手続が打ち切られても,裁判所の判断を決定という形で示すことがあります。
「調停に代わる決定」といい,双方が納得すれば民事調停が成立したのと同じ効果があります。
「調停に代わる決定」に対する異議申立てがなされた場合や,民事調停が不成立となった場合には訴訟を起こすことができます。
政府広報オンライン 身近な民事トラブルを話合いで解決 「訴訟」に代わる「民事調停」
3 交通事故の民事調停のメリット
⑴手続が簡単になっている
申立書に必要事項を記入し,提出すれば民事調停の申立てを行うことができます。
民事調停で使う書式は,以下の裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
⑵円満な解決を図ることができる
訴訟のように勝敗を決めるのではなく,当事者の話し合いで解決を目指すので,円満に解決できることが多いです。
⑶秘密が守られる
誰でも傍聴することができる訴訟と異なり,民事調停は非公開の手続です。
また,調停委員と裁判官にも守秘義務があるので,秘密が守られます。
そのため,人に知られたくないことも安心して話すことができます。
⑷早期解決ができる
2~3回の調停期日を行い,3カ月以内で解決することが多いです。
1年ほどかかる訴訟よりも早期に終了します。
⑸判決と同じ効果がもたらされる
民事調停での合意内容は調停調書にまとめられます。
調停調書は判決と同じ効力を持つので,相手がその内容を実行しなければ強制執行を申し立てることができます。
例えば,調停調書に金銭を支払う合意を記載していれば,相手が支払わない場合に強制執行の申立てが可能です。
⑹費用が安い
訴訟を提起したり,民事調停を申し立てるには,裁判所に手数料を納付しなければいけません。
民事調停は,訴訟と比べて手数料が安価です。
例えば,争いの対象額が100万円の場合,訴訟を提起するには1万円の手数料がかかりますが,民事調停の申立てには5千円で済みます。
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4 交通事故の民事調停のデメリット
⑴相手が出頭しないこともある
(不出頭に対する制裁)
第三十四条 裁判所又は調停委員会の呼出しを受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは、裁判所は、五万円以下の過料に処する。
民事調停法34条では,正当な理由がなく民事調停に欠席すれば過料が科せられるとされています。
しかし,相手方を強制的に出席させることはできません。
相手が繰り返し欠席し,民事調停での解決が困難だと認められると民事調停は終了してしまいます。
⑵話し合いがまとまらない可能性がある
民事調停は,当事者間の話し合いで解決を目指すので,妥協点が見いだせなければ調停不成立となります。
かけた時間と労力が無駄になってしまいます。
民事調停が不成立となれば,訴訟で解決することになります。
5 交通事故の民事調停を成功させるためのポイント
⑴申立書を細かく記載する
調停手続を円滑に進めるために,紛争の要点と背景事情をできるだけ書いておきましょう。
詳細な記載があれば,効率的に手続が進みます。
⑵証拠説明書も提出する
裁判官や調停委員に証拠内容を理解してもらうため,証拠説明書も提出しましょう。
これを提出すれば,証拠を出した意図を理解してもらいやすくなり,手続がスムーズに進みます。
⑶民事調停を申し立てる前に,相手方に調停で解決したいと連絡しておく
示談でも解決できない場合に行うのが民事調停です。
一方が民事調停を申し立てて,相手方がいきなり裁判所に呼び出されると激高することがあります。
相手方をなだめるのに調停期日を費やしてしまいかねないので,円滑に民事調停を行うために,相手方に断りを入れてから民事調停の申立てを行いましょう。
⑷自分の要望を伝えておく
調停期日では,自分の要望を伝えておきましょう。
双方の要望が分かっていれば,どこに食い違いがあるかが分かるので,民事調停での到達点が分かりやすいです。
⑸事前に弁護士に相談しておく
民事調停では譲歩も必要なので,ご自身の求める結果にどれだけ近づけるかどうかの見込みを聞いておきましょう。
また,弁護士が民事調停の手続を代理することも可能です。
加入されている保険に弁護士費用特約が付されていれば,費用の心配をすることなく弁護士に任せることができます。
6 まとめ
交通事故で示談が不成立となっても,民事調停を利用することができます。
民事調停には様々なメリットがあり,ポイントを踏まえて行えばとても便利な紛争解決手段です。
民事調停を弁護士に任せれば安心感がありますし,冷静に手続を進めてもらえます。
弁護士はポイントを踏まえて主張してくれるので,民事調停を有利に進めることができます。
民事調停を行うのであれば,弁護士に相談することをお勧めします。交通事故の民事調停を利用するか悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにぜひ一度ご相談ください。