法律の世界には「時効」というものが存在します。この「時効」にもいくつかの種類がありますが、交通事故の場合は、加害者がひき逃げをした際の刑罰の時効や、被害者の損害賠償請求の時効があります。ここでは、被害者の損害賠償請求権の時効=示談の時効を中心にご説明をさせていただきます。
目次
1 交通事故の示談とは?
⑴定義
まず、示談とは交通事故だけで使用される言葉ではありません。一般的に、裁判手続き外で、民事上の紛争を当事者間で話し合いをすることにより解決することをいいます。
⑵ポイント
交通事故においては、被害者に損害(物が壊れたのであれば、買い替え費用や修理費用等、怪我をしたのであれば、治療費や通院の交通費、慰謝料等)が発生します。その損害を加害者に請求する手続きを示談といいます。そして、被害者と加害者もしくは加害者の加入している保険会社と、損害賠償金について話し合いを重ねて解決することを示談交渉といいます。示談は「当事者同士が双方合意の上」ということが最大のポイントとなります。
2 交通事故における示談の時効は?
⑴示談の時効に注意
交通事故の示談にも時効があります。時効が成立した場合は、一切の損害賠償を被害者は加害者側に請求することができません。加害者ないしは加害者の保険会社との交渉が上手くいかず、示談をしないまま放置してしまったり、何度も後遺障害の異議申し立てをしていたりすることで、時効が成立し、請求権が消滅することを注意しなければなりません。では、交通事故の時効はいつが起算点となり、いつ失効してしまうのでしょうか?
⑵時効の発生から失効までの基準
交通事故の時効は下記のどちらかです。
- ①被害者が交通事故により加害者及び損害を知った時から【物的損害は3年】、【人身損害は5年】
②交通事故発生日より20年
①については、元々物的損害と同じく、人身損害も3年とされていましたが、令和2年4月1日以降に改正され、人の生命や身体を害する=人身損害については5年の時効となりました。つまり、【物的損害は3年、人身損害は5年】ということです。ひき逃げなどにより加害者がわからないといった、特別な場合は②となりますが、それを除いては、基本的には①の時効が適用されます。
⑶損害賠償請求権の失効
交通事故の時効の起算方法は上記の①を基準にすると、事故発生日に被害者は加害者を知ることになるので、基本的には事故発生日が起点となります。なお、初日は不算入という概念が民法にはありますので、翌日からが起点となります。簡単にまとめると以下になります。
物損事故 | 事故発生翌日から3年 |
人身事故(後遺障害がない場合) | 事故発生翌日から5年 |
死亡事故 | 死亡した翌日から5年 |
加害者不明事故 | 事故発生翌日から20年 |
人身事故で後遺障害が残った場合については後程ご説明します。死亡事故の場合、即死ではなく幾日か経過してから、死亡するケースもあります。そういった場合でも、事故発生翌日ではなく、死亡した日の翌日から時効はスタートします。また、加害者不明事故の場合、後日加害者が見つかった場合は、【事故発生翌日から20年】と【加害者が判明した翌日から物的損害は3年、人身損害は5年】にあてはめて、早いほうの期間を時効期間としてとります。
なお、実際は「加害者が債務を承認した=支払い義務を認めた」日に時効は更新されます。つまり加害者ないしは保険会社からの支払いが続くかぎり、時効の起算日が更新され、新たな時効の期間が始まると考えられます。よって、実務上は以下のいずれかのうち一番最後となる日から5年(または3年)が経つと、被害者の損害賠償請求権は失効となります。
- ・治療費や休業損害、慰謝料の一部といった、被害者の損害賠償とされる一部を支払ったとき
・保険会社から金額の提示や支払い条件の提案などの通知があったとき
・損害賠償のことについて保険会社(ないしは加害者)と話をしたとき
簡単にまとめると「加害者側が支払う意思のあると認めた最後の日」から5年(または3年)が時効です。
⑷後遺障害が残った場合
さて、後遺障害が残ってしまった場合の、時効の起算日はいつになり、機間はどうなるのでしょうか?まず、起算日は【症状固定をした翌日】となります。後遺障害が残ってしまった場合の損害の確定は【症状固定日】であると考えられるからです。そして、人身損害にあたりますので、期間は5年となります。
3 示談中のトラブルとは?
⑴時効までに示談成立しそうにない
加害者や保険会社と話がつかず、示談交渉が終わらないまま時効の成立の日を迎えそうな場合は、時効を延長するという手段をとることも可能です。これを「時効の中断」といい、いくつかの方法があります。なお、この時効の中断は一般的な意味とは異なり、時効の進行が「終了」となります。よって、これまで経過した期間は【0】になり、振出しに戻ります。
①被害者の【請求】による中断
損害賠償請求権を、被害者が主張することで時効の中断が可能です。これを【請求】といい、請求の方法は、【勧告】、【調停】、【裁判】とあります。
勧告(催告) | 加害者や保険会社に配達証明付き内容証明郵便で、請求書等を送り、支払いを請求することです。これにより、6か月間の時効期間が延長します。勧告後、6か月以内に法的手続きを行い、請求をしなければ、時効は成立します。勧告を一度した後に、6か月以内に再度勧告をしたとしても、時効の中断の効力は生じません。 |
調停 | 簡易裁判所で裁判官や調停委員の仲介により、交渉で解決をしていきます。注意すべき点は、調停を取り下げた場合や調停不成立となった場合においては、1か月以内に訴訟を提起しなければ、時効の中断の効力は無くなることです。 |
訴訟の提起 | 損害賠償請求訴訟を提起することで、時効を中断できます。訴えが却下される場合、もしくは取り下げの場合は時効の中断の効力は無くなります。なお、提訴するには相応の準備期間が必要となるため、一度勧告をして時効を中断したうえで、提訴するようにしているケースが多いです。なお、判決確定後の損害賠償請求権は10年となります。 |
②加害者の【債務の承認】による中断
加害者側が損害賠償請求権を認めた場合においては、時効の中断が可能です。債務の存在を認める、という趣旨の書面に加害者側に署名・捺印をしてもらう他、一部の示談金を仮払いしてもらうことも方法の一つです。示談金の一部支払いにより、被害者が受け取った翌日より、時効が再度スタートすることとなります。なお、これはあくまでも仮払金なので、示談成立とならないように、書面を交わしておくようにしましょう。
なお、加害者の保険会社が、病院への治療費の支払いを行った場合、この行為も一部弁済として、基本的に時効の中断の事由として認められます。
4 時効については弁護士に相談をしましょう。
⑴時効について
時効の中断について、上記で述べてきましたが、被害者本人で行うにはなかなか難しい内容です。時効が成立してしまい、被害者が損害賠償を請求できなくなることが、一番避けなければいけない事態です。弁護士は、時効についても適正なアドバイスを行ってくれます。まずは弁護士に相談することをいたしましょう。
参考:交通事故後の示談交渉を弁護士に依頼した場合の費用はどうなる?
5 まとめ
交通事故における示談の時効について、ご説明をいたしましたが、いかがでしたでしょうか。示談の時効が迫ってくると、加害者の保険会社も示談をするよう迫ってきます。結果、被害者の方は焦って加害者の保険会社の言うとおりに示談をしてしまうこともあります。それでは、長年示談交渉を続けていた意味がなくなってしまいます。時効は確かにありますが、中断できるものです。
時効が近づいている方や心配な方は、交通事故問題を多く取り扱う、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。時効については弁護士に依頼をし、適正な手続きを行うことを強くおすすめします。