交通事故の被害者は,加害者だけでなく「運行供用者」と呼ばれる人にも損害賠償請求することができます。
当コラムでは,運行供用者責任とは何か,運行供用者責任の要件などについてご説明いたします。
目次
1 交通事故における運行供用者責任とは何か?
⑴運行供用者責任とは
運行供用者責任とは,加害者以外に「運行供用者」と呼ばれる人に対しても損害賠償請求することを可能にする制度です。
例えば,友人に自動車を貸して,その友人が事故を起こすと自動車の持ち主も運行供用者責任を負う可能性があります。
⑵運行供用者責任と民法709条に基づく損害賠償請求の違い
運行供用者責任では,民法709条に基づき損害賠償請求する場合よりも被害者が立証する事項が簡単になります。
民法709条に基づき損害賠償請求する際,被害者は「加害者に不注意があったこと」を立証しなければいけません。
これに対して,運行供用者責任を追及する際,被害者は「加害者に不注意があったこと」を立証する必要はありません。
そのため,被害者にとっては,容易に損害賠償請求することができるのです。
2 交通事故の被害者が運行供用者責任を主張する場合の要件
自動車損害賠償保障法
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
運行供用者責任は,自動車損害賠償保障法3条に規定されています。
交通事故の被害者が運行供用者責任を主張する場合の要件は,⑴運行供用者性,⑵運行,⑶運行起因性,⑷他人性です。
⑴運行供用者性
①運行供用者とは何か
裁判例によると,運行供用者とは,「自動車の使用についての支配権を有し(運行支配),かつ,その使用により享受する利益が自己に帰属する者(運行利益)」です(最判昭和43年9月24日 集民92号369頁)。
つまり,
(ア)運行支配 (イ)運行利益 |
の両方が認められると運行供用者にあたるのです。
(ア)運行支配の要件が認められるのは,交通事故を防止すべき立場にある者です(最判昭和50年11月28日 民集29巻10号1818頁)。
また,(イ)運行利益の要件が認められるのは,運行を全体として客観的に観察して運行供用者のためにされている場合です(最判昭和46年7月1日民集25巻5号727頁)。
先ほど,(ア)(イ)2つの要件が必要だと述べましたが,通常,自動車を運行支配している者は自動車の運行により利益を得ています。
そのため,(ア)運行支配の要件が認められると,運行供用者だと判断されることが多いでしょう。
②運行供用者とはどのような人か?
(ア)レンタカー業者
レンタカー業者は車を貸す際,利用者が運転免許を持っているかを審査し,使用時間は短時間,料金は低廉でない,ガソリン代は利用者負担,利用者は予定利用期間・走行区域等の遵守義務を負うことが一般的です。
この場合,レンタカー業者は自動車に対する運行支配・運行利益を有していると考えられるので,運行供用者にあたります。
(イ)自動車の貸主
自動車を無償で貸した場合,貸主が運行供用者にあたると判断された事案,運行供用者にあたらないと判断された事案の2種類があります。
貸した期間が短く,予定された期間内に事故が発生した場合には貸主も運行供用者にあたると判断されやすいです。
(ウ)泥棒運転
自動車を盗まれて,窃盗犯人が事故を起こした場合,所有者に責任が認められることがあります。
公道などにエンジンキーをつけたまま駐車していた自動車が盗まれ,その自動車で事故が起こった場合には,所有者が運行供用者にあたると判断された裁判例があります(最判昭和57年4月2日 判タ470・118)。
⑵運行
運行供用者責任は,自動車の「運行」によって他人の生命・身体を害した場合に生じます。
運行とは,「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いること」(自賠法2条2項)です。
具体的には,自動車に固有の原動機,走行装置,ドア等の自動車の構造上設備されている各装置,ダンプカーのダンプ,ミキサー車のミキサー等の装置をその目的に従って使用することです。
この考え方によると,エンジンが故障したために,ロープで他の自動車に牽引されながらハンドル操作やブレーキ操作を行いながら走行している自動車も,「運行」しているとされます。
⑶運行起因性
運行供用者責任は,自動車の運行に「よって」他人の生命・身体を害した場合に生じます。
運行に「よって」とは,運行と事故の間に相当因果関係があることで,これを運行起因性といいます。
⑷他人性
運行供用者責任は,「他人」の生命・身体を害した場合に生じます。
「他人」とは,「自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除くそれ以外の者」です(最判昭和42年9月29日 判タ211・152)。
つまり,「他人」とは被害者のことだと考えればいいです。
3 運行供用者責任の限界
⑴運行供用者が責任を免れるのはどのような場合?
運行供用者は,①~③を立証すると,責任を免れることができます。
①運行供用者・運転者に過失がなかった ②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があった ③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかった |
⑵運行供用者が責任を免れた裁判例は?
①最判昭和45・5・22 判時599・27
深夜酒に酔って幅員約16mの目抜き通りの横断歩道でない場所をほぼ横断し終わったところで1,2歩後退した歩行者と,当該歩行者を認め,時速約10㎞に減速して進行していた自動車が衝突した事案で,自動車の運転者の過失を否定しました。
②最判平成3・11・19 判タ774・135
右折しようとする自動車が交差点内で停止しているのに,その停止自動車の後続車が停止車両の側方から前方に出て右折しようとして,反対車線を直進した加害車両と衝突した事案です。
この事案では,加害車両には,停止車両の後続車がその側方を通過して自車の進路前方に進入してくるまで予想すべき義務はないとして,加害車両の運転者の過失を否定しました。
③最判平成11・7・19 交民32・4・1008
自動二輪車が,道路中央線を越えて進入してきた対向の自動車と接触した後,対向車線に進出して対抗車線を走行していた加害自動車と衝突した事案です。
この事案では,加害車両には事故を回避することが著しく困難であり,加害車両の運転者の過失を否定しました。
4 運行供用者責任と自賠責保険との関係
⑴自賠責保険の対象となる者とは?
自賠責保険とは,自動車の運転者に加入が義務付けられている保険です。
人身事故を起こした場合に,保険金が支払われます。
自動車損害賠償保障法11条では,自賠責保険の対象となるのは,①運行供用者責任を負う自動車の保有者と,②損害賠償責任を負う運転者だと定められています。
①運行供用者責任を負う自動車の保有者
自動車の保有者が車を運転中に交通事故を起こした場合に,自賠責保険の対象となります。
②損害賠償責任を負う運転者
運転者とは,「他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者」です(自賠法2条4項)。
そこで,損害賠償責任を負う運転者とは,交通事故を起こした雇用主のための自動車の運転手やバス会社の運転手などです。
これらの者が交通事故を起こすと,自賠責保険の対象となります。
⑵運行供用者責任を負う者全員が自賠責保険の対象となるのか?
上述のとおり,運行供用者責任を負う者のうち,自賠責保険の対象となるのは,「自動車の保有者」のみです。
そのため,他人の自動車を盗んで事故を起こした者は,「自動車の保有者」ではないので自賠責保険の対象とはならず,自賠責保険から保険金は支払われません。
なお,自賠責保険の請求の種類と請求方法については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
5 運行供用者責任を追及するうえで弁護士に相談するメリット
⑴示談交渉がスムーズに進みやすい
一般の方が運行供用者責任を追及しても,相手は「自分は運行供用者ではない」と主張して,責任を否定される可能性があります。
しかし,弁護士は裁判例の傾向を把握しているので,適切な理由をつけて運行供用者責任を追及することができます。
そのため,相手方も責任を認めざるを得ず,早期に事件を解決できる可能性があります。
⑵適切な示談金を受け取りやすい
弁護士は,交通事故の示談金の相場を把握しているので,事故態様を踏まえて示談金の額を計算することができます。
そのため,被害者の受けた怪我などに見合った示談金を受け取ることのできる可能性が高まるでしょう。
6 まとめ
運行供用者責任という言葉を初めて聞いた方も多いのではないでしょうか。
運行供用者責任では被害者の立証する事項が簡単になるとはいえ,聞きなれない用語が多く,ご自身で責任追及することは難しいでしょう。
そこで,弁護士に依頼することをお勧めします。
当事務所の弁護士は,交通事故事件の経験が豊富です。交通事故被害に遭い,運行供用者責任を追及するか迷われている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。