交通事故後,怪我が治ったのに,手足の痛みや腫れ,発熱などの症状が残ることがあります。
これらはCRPSの症状の一例です。
当コラムでは,CRPSについて,ご説明いたします。
目次
1 CRPS(RSD・カウザルギー)とは何か?
交通事故で外傷を負うと,交感神経が緊張(反射)し,神経伝達物質・アドレナリンが放出されます。
アドレナリンが放出されることにより,血管が収縮され出血が止められます。
外傷が治癒に向かうと,交感神経の反射は消失し,正常な働きに戻ります。
しかし,交感神経反射が消失せずに続いてしまう場合があります。
交感神経が暴走すれば,血流障害,排泄・分泌機能の低下,活性酸素による組織破壊が起こります。
これらの状況が長期間続いたことにより,灼熱痛を生じるものをRSD(Reflex Sympathetic Dystrophy)といいます。
交感神経の異常がなくとも,交通事故後にRSDと同じ症状が現れることがあります。
これを,カウザルギーといい,RSDとカウザルギーをまとめて複合性局所疼痛症候群,すなわちCRPS(Complex Regional Pain Syndrome)と言います。
CRPSのうち, RSDはtypeⅠ,カウザルギーはtypeⅡと分類されています。
RSDは,捻挫,打撲の軽微な外傷が原因で起こり,カウザルギーは創傷,脱臼や骨折の神経損傷が明らかな外傷を原因とします。
【CRPSの症状】 ・焼けるような痛み ・うずくような痛み ・発汗の増加または減少 ・むくみ ・皮膚の色・温度の変化 ・皮膚の損傷 ・筋萎縮 ・筋力低下 ・骨量の減少 |
2 CRPS(RSD・カウザルギー)の診断基準は?
厚生労働省が作成したCRPSの判定基準は,以下のようになっています。
⑴病期のいずれかの時期に,以下の自覚症状のうち2項目以上該当すること。
ただし,それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
①皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化 ②関節可動域制限 ③持続性ないし不釣合いな痛み,しびれたような針で刺すような痛み,知覚過敏 ④発汗の亢進ないしは低下 ⑤浮腫 |
⑵診察時において,以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること。
①皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化 ②関節可動域制限 ③アロディニアないしは痛覚過敏 ④発汗の亢進ないしは低下 ⑤浮腫 |
参照:厚生労働科学研究こころの健康科学研究事業 複雑性局所疼痛症候群(CRPS)の診断基準作成と治療法に関する研究 平成19年度 総括研究報告書
3 交通事故でCRPS(RSD・カウザルギー)になったら後遺障害等級はどうなる?
交通事故が原因で,RSDやカウザルギーになった場合,後遺障害等級認定の申請を行い,後遺傷害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求できるようにしましょう。
RSDやカウザルギーになった場合,以下の後遺障害等級が認められる可能性があります。
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
4 CRPS(RSD・カウザルギー)の後遺障害等級の認定基準とは?
⑴カウザルギーの後遺障害認定基準
疼痛の部位,性状,疼痛発作の頻度,疼痛の強度と持続時間および日内変動ならびに疼痛の原因となる他覚的所見などにより,疼痛の労働能力に及ぼす影響・機能障害の程度を等級評価します。
⑵RSDの後遺障害認定基準
①関節拘縮 ②骨萎縮 ③皮膚の変化(皮膚温の変化,皮膚の萎縮) |
これらの慢性期の主要な3つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められるときに限って,カウザルギーと同じ基準が適用され,後遺障害等級が認定されています。
⑶裁判例
①CRPSを認定した裁判例
・自賠責保険では14級10号と認定され,被告は医師意見書を提出して骨萎縮がないとしてRSDであることを争ったが,放射線科専門医が,原告の右肘関節には萎縮性の変化が認められるとしていることから,骨萎縮を否定した意見書の内容を採用せず,RSDだとして障害等級を9級10号と認定した。 |
・自賠責保険では右肩関節機能障(10級10号),頸部の神経症状(14級9号)の併合10級の認定を受けた原告につき,「事故直後から一貫して頸部痛のほか,右肩の強い疼痛,可動域制限を訴えており,右肩関節の拘縮が著明で,X線写真上,右上腕骨に骨萎縮も認められ,主治医のみならず,厚生労働省CRPS研究班の班長も,自ら診察の上,右手の腫脹・冷感・皮膚色変化・爪の萎縮,右肩関節・右手関節・指関節の可動域制限,アロディニア,ネグレクト現象等を認め,CRPSタイプⅠ(RSD)であるとの確定診断をしていること等から,自賠責保険の3要件が認められるとして,右上肢にCRPSタイプⅠ(RSD)の傷害を負ったとして,障害の程度は9級に相当する」とした。 |
②CRPSを否定した裁判例
CRPSにより右肩から右手にかけて頑固な神経症状(12級13号)の後遺障害が残存したとの原告の主張につき,「原告の症状は,厚生労働省のCRPS判定指標には合致するものの,同判定指標は交通外傷による診断やその後遺障害の有無又は程度の判定に用いるのは適切でないこと,労働者災害補償保険の障害等級別認定基準における骨の萎縮は認められないことからCRPSが発症した結果,それによる後遺障害が残存したとまでは認定することができない。」とした。 |
後遺障害を認定する際は,裁判例でも,厚生労働省の診断基準ではなく,後遺障害認定基準が用いられていることが分かります。
5 交通事故でCRPS(RSD・カウザルギー)になった場合、慰謝料の請求は可能?
後遺障害が認定されると,加害者に対して後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。
認定された等級ごとに,後遺障害慰謝料の相場があります。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
加害者側の保険会社が提示する示談金は相場よりも低いことが多いです。
一方で,弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」と呼ばれる過去の裁判例をもとに設けられた基準に基づいて示談交渉を行うことができます。
「弁護士基準」で計算した方が,示談金が高くなります。
また,弁護士相手であれば,保険会社は訴訟に発展することを恐れ,態度が軟化する可能性も高いです。
そのため,弁護士に依頼すれば示談金の増加を見込めます。
なお,交通事故における慰謝料の3つの基準について,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
後遺障害逸失利益は,
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
の計算式で計算します。
基礎収入額は,事故前の収入をベースに計算します。
労働能力喪失率とは,後遺障害によって失われた労働能力の割合のことで,以下のように,後遺障害等級によって目安が定められています。
逸失利益が認められると,本来であれば段階的に得られたお金を一括で受け取ることになります。
そうすると,逸失利益を運用するなどして利益が生じるので,その分を控除しなければなりません。
そのため,労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数を掛け,あらかじめ中間利息分の金額を逸失利益から差し引きます。
労働能力喪失期間とは,交通事故が原因で生じた後遺障害の影響で,労働能力を失った期間を指します。
障害等級 | 労働能力喪失率 |
7級4号 | 56% |
9級10号 | 35% |
12級13号 | 14% |
14級9号 | 5% |
後遺障害逸失利益の計算は煩雑なので,弁護士に依頼した方が,正確な額を請求することができます。
なお,交通事故の後遺障害慰謝料の計算方法について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
6 まとめ
CRPSは,後遺障害と認定されるハードルが高いです。
また,CRPSの治療は長期化する傾向にあるので,うつ状態になることが多いです。
保険会社は,そのことを捉えて,「被害者に精神的な問題があったからRSDになった」と主張して,損害賠償金を減額しようとしてきます。
弁護士に依頼すれば,保険会社のそのような主張にも的確に対応できますし,弁護士基準が適用されて,後遺傷害慰謝料も増額することができます。
ロイヤーズ・ハイには交通事故に精通した弁護士が多数在籍しています。交通事故に遭い,RSDやカウザルギーの症状に悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。