交通事故に遭ってから,手足の痺れを感じたり,筋肉がやせてしまいこれまで出来ていたことが出来にくくなってしまった。
これらの症状は,「末梢神経障害」といいます。
末梢神経障害の症状が残っていても,後遺障害認定を受けなければ,後遺障害慰謝料を受け取ることはできません。
末梢神経障害の場合,後遺障害の認定を受けるにはいくつかのポイントがあります。
当コラムでは,末梢神経障害の後遺障害等級と認定されるための条件についてご説明いたします。
目次
1 交通事故による末梢神経障害とは何か?
末梢神経障害とは,末梢神経がダメージを受け,働きが悪くなることで起こる障害のことです。
末梢神経には,運動神経・知覚神経・自律神経が含まれています。
そのため,末梢神経が障害されると,運動麻痺,感覚障害,自律神経障害の症状が現れます。
具体的な症状 | |
運動麻痺 | ・筋緊張の低下:筋肉が柔らかくなったり,手足を振った際に力が入らず大きく動くようになります。・腱反射の減弱・消失:腱をたたくと反射的に収縮しますが,それが弱くなったり,消失したりします。・筋萎縮:筋肉がやせることです。筋が萎縮すると筋力も低下するため,これまで出来ていたことが出来にくくなります。 |
感覚障害 | 損傷を受けた神経の支配する皮膚の領域に感覚障害が出現します。・しびれや痛み:末梢神経障害の1つに,むち打ち損傷があります。むち打ち損傷の症状に,手足の痺れがあります。・感覚脱失:感覚が全くなくなることです。・痛覚脱失:通常であれば痛みをきたすような刺激に対して痛みを感じなくなることです。・感覚鈍麻:感覚が極端に鈍い状態のことで,刺激に対する反応が低くなります。・痛覚鈍麻:通常であれば痛みをきたすような刺激に対して痛みを感じにくくなります。 |
自律神経障害 | ・発汗障害:皮膚の汗腺からの発汗が障害され乾燥した状態になります。・血管運動障害:急性期には,血管が拡張して血管が増大し,皮膚は紅潮し皮膚温は上昇します。ただし,慢性期には,血管収縮が生じて皮膚は蒼白となり,皮膚温は低下します。・栄養障害:栄養障害により,皮膚萎縮,皮下脂肪組織萎縮,結合組織萎縮,爪萎縮,骨萎縮が生じます。 |
なお,むちうちになり整骨院へ通院する場合について,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
子供が交通事故後、むちうちの痛みを訴えた場合、整骨院を利用できるか
2 交通事故で末梢神経障害になったら、後遺障害等級はいくつに認定される?
末梢神経障害の後遺障害等級は,以下のようになります。
後遺障害等級 | 後遺障害 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
3 末梢神経障害が後遺障害に認定されるための条件とは?
後遺障害等級 | 後遺障害 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの=障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に証明できるもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの=障害の存在が医学的に説明可能なもの |
「障害の存在が医学的(ないしは他覚的)に証明できる」とは,現在残存している症状の原因が何であるかが他覚的所見に基づいて判断できる状態を指します。
他覚的所見とは,検査結果に基づく医師の所見のことをいいます。
末梢神経障害の検査手法として,以下のようなものがあります。
なお,以下の検査手法は一例にすぎないので,末梢神経障害の症状に合わせた検査手法をとる必要があります。
X線,CT,MRI,脳血管撮影などの画像診断 | |
脳波検査 | |
ジャクソンテスト | 患者の頭部を後ろに曲げながら頭部を下方に押し付け,痛みや放散痛が生じるかどうかを確認します。 |
スパークリングテスト | 頭を傾けて下方に押し付け,放散痛や痺れが生じるかどうかを確認します。 |
深部腱反射 | 腱をゴムハンマーで叩き,筋に伸展刺激を与えたときに起こる筋収縮の様子を確認します。 |
病的反射 | 「病的反射」が出現すると,末梢神経障害ではなく中枢神経障害が疑われます。 |
筋萎縮検査 | 両上肢の肘関節の上下10㎝のところの上腕部と前腕部の周径をメジャーで計測し,やせ細っているかを確認します。 |
徒手筋力テスト | 筋力がどの程度あるかを手で負荷を与えて調べる検査です。 |
ティネル徴候 | 手首を叩いて,指先に痺れが生じるかどうかを確認します。 |
筋電図検査 | 筋肉に細い針をさし,筋肉の電気的な活動を記録します。 |
神経伝導速度検査 | 手足の神経,顔面の神経へ,皮膚の上から電気的刺激することにより,末梢神経を伝わる電気的活動の速度を測定します。 |
4 末梢神経障害の後遺障害認定のポイントは?
(1)事故の状況
例えば,バンパーを交換する程度の交通事故では,被害者はそれほどの衝撃を受けていません。
被害者がそれなりの衝撃を受けて,症状が出てもおかしくないと言えるような事故状況でなければなりません。
車同士の事故の場合,物損で少なくとも30万円以上の被害を受けている必要があります。
(2)治療の経過
事故から数ヶ月を経過して発症した場合,事故との因果関係が否定されます。
そのため,事故直後から症状を訴えている必要があります。
(3)連続性,一貫性
真面目にリハビリ通院を続けなければいけません。
具体的には,整形外科・開業医で1カ月に10回以上のリハビリ通院を少なくとも6ヶ月続けなければなりません。
(4)自覚症状
被害者は,自覚症状を適切に伝えなければいけません。
大げさに症状を訴える場合,誇張していると捉えられ,後遺障害の認定がなされません。
なお,「4 末梢神経障害の後遺障害認定のポイントは?」では,整形外科・開業医に通院するよう記載していますが,交通事故後に整骨院へ通院する場合については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故後の痛みが現れたら整形外科と整骨院どちらを受診すべき?
5 末梢神経障害の慰謝料請求の相場は?
末梢神経障害が残った場合,後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料とは,後遺障害が原因で,将来にわたって不便を強いられたり,辛い思いをすることで生じる精神的苦痛に対する金銭的補償のことです。
慰謝料の算定基準は,3種類あります。
(1)自賠責基準
車を運転する人全員に加入が義務付けられている自賠責保険が定める基準です。
自賠責保険は,交通事故被害者への最低限の補償を行うものなので,3つの基準の中では最も慰謝料の金額が低くなります。
(2)任意保険基準
各任意保険会社が定めている慰謝料の基準です。
(3)弁護士基準
過去の裁判例等に基づいて作られた基準で,弁護士が慰謝料の算定に使います。
3つの基準の中では最も慰謝料の金額が高くなります。
弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」に基づいて示談交渉を行うことができるので,より高額の示談金を獲得できる可能性が高まります。
後遺障害慰謝料の相場は後遺障害の等級によって変わります。
後遺障害慰謝料
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
6 まとめ
交通事故に遭い,末梢神経障害の後遺障害が残った場合,後遺障害等級の認定を受けることが重要になります。
末梢神経障害が,後遺障害の認定を受けるには,検査を受ける必要があるうえに,後遺障害認定のために押さえるべきポイントも意識しなければなりません。
末梢神経障害の症状は多岐にわたり,専門用語が出てきて難解ですし,検査も専門的であるため,ご自身で手続を進めて後遺障害認定を受けることは難しいです。
弁護士に依頼すれば,後遺障害認定を受けるための通院のポイントを教えてもらうことができ,後遺障害等級認定申請の手続を代わりに行ってもらえます。
また,後遺障害慰謝料も弁護士基準で算定されるので,より高額の示談金を受け取ることができる可能性が高まります。
適切な後遺障害等級の認定を受け,十分な賠償金を獲得するには,早い段階で弁護士を入れることをお勧めします。
ロイヤーズ・ハイには交通事故に精通した弁護士が多数在籍しています。交通事故に遭い,末梢神経障害に悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
このコラムの監修者
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太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。