交通事故で顔に強い衝撃が加われば,前歯が欠損することがあります。
前歯が無くなると見た目が悪くなる,噛みづらくなる,発音が難しくなるなどの影響が起こります。
当コラムでは,前歯を欠損した場合の後遺障害等級や慰謝料などについてご説明いたします。
目次
1 交通事故による前歯の欠損は後遺障害として認められるのか?認定基準と等級
⑴歯牙の欠損
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
10級4号 | 十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 「歯科補綴を加えたもの」とは,現実に喪失(抜歯を含む。)または著しく欠損した歯牙(歯冠部の体積4分の3以上を欠損)に対する補綴,および歯科技工上,残存歯冠部の一部を切除したために歯冠部の大部分を欠損したものと同等な状態になったものに対して補綴したものをいいます。 |
11級4号 | 十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | |
12級3号 | 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | |
13級5号 | 五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | |
14級2号 | 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの |
永久歯は,上が14本,下が14本の計28本あります。
⑵咀嚼・言語の機能障害
歯牙損傷自体や,歯牙損傷に伴う顎の骨の骨折が原因で,咀嚼機能障害や言語機能障害を発症することがあります。
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの | ・「咀嚼機能を廃したもの」とは,流動食以外は摂取できないもの・「言語の機能を廃したもの」とは,4種の語音のうち3種以上の発音不能のもの |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの | |
4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | ・「咀嚼機能に著しい障害を残すもの」とは,粥食またはこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないもの・「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは,4種の語音のうち2種の発音不能のものまたは綴音機能に障害があるため,言語のみを用いては意思を疎通することができないもの |
6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | ・「咀嚼の機能に障害を残すもの」とは,固形食物の中に咀嚼ができないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあり,そのことが医学的に確認できるもの・「言語の機能に障害を残すもの」とは,4種の語音のうち1種の発音不能のもの |
10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの |
⑶醜状障害
前歯の欠損自体は,醜状障害の認定基準に当てはまらないので,前歯の欠損だけでは醜状障害とは認定されません。
しかし,前歯が欠損するほどの交通事故では,顔に強い衝撃が加わることで,傷跡が残ることもあります。
顔面に残った傷跡が上記の認定基準を満たしていれば,醜状障害と認定される可能性があります。
また,歯牙損傷を起こすほどの衝撃を口に受けると,顎の骨が折れることもあり,顎に変形をきたしたら醜状障害と認定されることもあります。
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | 顔面部では,鶏卵大以上の瘢痕または10円硬貨大以上のくぼみを残したとき |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | 顔面部の長さ5㎝以上の線状痕で,人目につく程度以上のもの |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | 顔面部では,10円硬貨大以上の瘢痕または長さ3㎝以上の線状痕 |
なお,醜状障害について,詳しくは当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で顔の傷や体の手術跡が残ってしまった|醜状障害の後遺障害等級と認定基準を弁護士が解説
2 交通事故による前歯の欠損の場合、治療費はどのくらいかかるのか?
前歯を欠損した場合,ブリッジ,入れ歯,インプラントの3種類が主な治療法です。
ブリッジとは,無くなった歯の両隣の歯を削り,連結した人工歯でブリッジをかける方法です。
インプラントは,歯が無くなったところの骨に人工の歯根を埋め込み,その上に土台をたてて歯を被せる方法です。
ブリッジ | 保険適用がされると,2万円前後 |
入れ歯 | 保険適用がされ,部分入れ歯であれば1万円前後 |
インプラント | 保険適用はなく,1本あたり40万円前後 |
ブリッジ・入れ歯は周りの歯に影響があり,見た目が悪いなどのデメリットがありますが,保険適用があり低額で済むというメリットがあります。
インプラントは高額ですが,見た目が綺麗,歯磨きがしやすい,他の歯に影響がないというメリットがあります。
3 前歯の欠損による精神的な苦痛や美容的な損害に対する賠償は請求できるのか?
前歯の欠損により後遺障害が残れば,後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛への金銭的補償として,後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害等級ごとに,後遺障害慰謝料は以下のようになっています。
前歯の欠損により,醜状障害の後遺障害等級も認定されると,美容的な損害に対する賠償として後遺障害慰謝料も請求することができます。
⑴歯牙の欠損
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
10級4号 | 十四歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 190万円 | 550万円 |
11級4号 | 十歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 136万円 | 420万円 |
12級3号 | 七歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 94万円 | 290万円 |
13級5号 | 五歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 57万円 | 180万円 |
14級2号 | 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 32万円 | 110万円 |
⑵咀嚼・言語の機能障害
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの | 1150万円 | 2800万円 |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの | 861万円 | 1990万円 |
4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | 737万円 | 1670万円 |
6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | 512万円 | 1180万円 |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | 249万円 | 690万円 |
10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの | 190万円 | 550万円 |
⑶醜状障害
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | 419万円 | 1000万円 |
9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | 249万円 | 690万円 |
12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | 94万円 | 290万円 |
4 交通事故による前歯の欠損の場合、慰謝料等の支払い時期はいつ?
交通事故で前歯を欠損すれば,歯牙の欠損などの後遺障害が残ることがあります。
治療費や入通院慰謝料は,症状固定までの期間に対して支払われます。
また,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益など,後遺障害に対する損害の賠償を受けるには後遺障害等級の認定を受けなければいけません。
そのため,後遺障害が残った交通事故では,すぐに示談交渉を開始してはいけません。
症状固定だと医師に言われた後に後遺障害申請を行い,後遺障害等級の認定を受けてから示談交渉を始めましょう。
交通事故発生~症状固定 | 6ヶ月 |
症状固定~後遺障害申請 | 1~2ヶ月 |
後遺障害申請~後遺障害等級認定 | 1~2ヶ月 |
後遺障害等級認定~示談交渉の開始 | 1ヶ月 |
示談交渉の開始~示談成立 | 半年前後 |
示談成立~示談金の支払い | 1~2週間 |
そこで,前歯の欠損の後遺障害が残った場合,示談金が支払われるまでには約1年半かかります。
なお,交通事故の慰謝料が支払われる時期について,当事務所の次のコラムでもご紹介しているのでご覧ください。
5 前歯の欠損に対する損害賠償を確実に受けるために大切なこととは?
⑴定期的に通院する
継続的に病院へ通院していなければ,後遺障害が残るほどの怪我ではなかったと判断され,後遺障害等級認定を受けることができないです。
そこで,1月に10日程度、1週間に2~3日程度の頻度で6ヶ月以上通院しましょう。
⑵あらかじめ後遺障害等級認定を受けておく
後遺障害に対する損害賠償を受けるには,後遺障害等級認定が必要です。
そこで,後遺障害等級認定を受けてから示談交渉を始めましょう。
⑶示談交渉を焦って進めない
示談が成立すると,示談のやり直しは基本的に行うことができません。
焦って示談を成立させると,保険会社が主張する低額の示談金しかもらうことができないので,相場の額かどうかを確認し,金額を上げるよう交渉してから示談を成立させましょう。
⑷弁護士に依頼する
医師は,最適な通院頻度や,後遺障害等級認定を獲得しやすい後遺障害診断書の書き方を教えてくれません。
また,保険会社との示談交渉で高額の示談金を獲得するには,交渉経験が豊富な弁護士が対応することが効果的です。
ストレスなく適切な示談金を獲得するには,弁護士に依頼することをお勧めします。
6 まとめ
前歯は噛み合わせ,食事,会話に必要であるので,前歯を欠損すれば必ず治療が必要です。
前歯欠損の治療費は高額ですし,咀嚼や発音などがしづらくなれば,十分な損害賠償を受けるべきです。
ご自身だけで,保険会社との対応や,病院への通院頻度を管理して,後遺障害申請,示談交渉といった複雑な手続きを行うことは時間も労力も大きくかかります。
弁護士に依頼すれば,ご自身の負担を少なくできるうえに,弁護士費用特約があれば費用面で心配しなくてよくなります。交通事故で前歯が折れた方は,ぜひ大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。