交通事故で「てんかん」になれば,これまでの生活が一変してしまいます。
適切な補償を受けるには,後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
当コラムでは,てんかんの後遺障害等級や,慰謝料相場などについてご説明いたします。
目次
1 「てんかん」とは?
「てんかん」とは,「てんかん発作」を繰り返し起こす状態をいいます。
「てんかん発作」とは,脳にある神経細胞の異常な電気活動により引き起こされる発作のことで,突発的に運動神経,感覚神経,自律神経,意識,高次脳機能などの神経系が異常に活動することで症状が出ます。
「てんかん発作」には,体の一部が固くなる(運動神経),手足がしびれたり耳鳴りがしたりする(感覚神経),動悸や吐き気が生じる(自律神経),意識を失う,言葉が出にくくなる(高次脳機能)などの症状があります。
てんかんは,脳が発生する過程で生じた構造の異常や遺伝子の異常のほかに,頭部外傷などによっても生じます。
2 交通事故で「てんかん」になったらどうなる ?
交通事故で頭を直接打ったり,強く揺さぶられると,脳損傷が起こり,外傷性てんかんが引き起こされます。
外傷性てんかんには,以下のような症状があります。
・意識を失い,手足をつっぱらせてガクガクとなる全身の痙攣が現れる発作 ・身体全体の筋肉から緊張が失われて倒れてしまう発作 ・突然ぼーっとした状態になり,動作や反応が停止してしまう発作 |
「てんかん」が疑われる場合,病院を受診して,外傷性てんかんとの診断を受けてから,治療を行います。
まず,発作開始時の症状や時間経過などを,本人と周囲の人から確認したうえで,脳波検査,CT検査/MRI検査,血液・尿検査などを行い,てんかんであるかを診断します。
外傷性てんかんかどうかは,Walkerの6項目という以下の診断基準で判断されます。
⑴発作はまさしくてんかん発作である ⑵受傷前にてんかん発作はなかった ⑶外傷は脳損傷を起こすのに十分な程度の強さであった ⑷てんかん発作の初発が外傷後あまり経過していない時期に起こった(閉鎖性で2年,開放性で10年,2年以内に80%以上が発作) ⑸ほかにてんかん発作を起こすような脳や全身疾患を有しない ⑹てんかんの発作型,脳波所見が脳損傷部位と一致している |
そして,てんかんと診断された場合,抗てんかん薬を毎日規則的に服用し,発作を抑制する薬物療法を中心に治療を行い,薬物療法で効果が得られない場合に外科治療,食事療法などを行います。
3 交通事故で「てんかん」を発症した場合の後遺障害等級
外傷性てんかんと診断された場合,後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を受け取るには,後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
交通事故を原因とする外傷性てんかんの場合,以下の後遺障害等級が認定される可能性があります。
障害等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 1カ月に1回以上の発作があり,かつ,その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し,状況にそぐわない行為を示す発作」であるもの ・転倒する発作には,「意識消失が起こり,その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き,次第に短時間の収縮と弛緩をくりかえす間代性のけいれんに移行する」強直間代発作や脱力発作のうち「意識は通常あるものの,筋緊張が消失して倒れてしまうもの」が該当する。・「意識障害を呈し,状況にそぐわない行為を示す発作」には,意識混濁を呈するとともにうろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し,発作中は周囲の状況に正しく反応できないものが該当する。 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1カ月に1回以上あるもの |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 数ヶ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 発作の発現はないが,脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの |
4 交通事故で「てんかん」を発症した場合の慰謝料相場
後遺障害が認定されると,加害者に対して後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。
認定された等級ごとに,後遺障害慰謝料の相場があります。
障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
加害者側の保険会社が提示する示談金は相場よりも低いことが多いです。
一方で,弁護士が交渉すれば,「弁護士基準」と呼ばれる過去の裁判例をもとに設けられた基準に基づいて示談交渉を行うことができます。
「弁護士基準」で計算した方が,示談金が高くなります。
また,弁護士相手であれば,保険会社は訴訟に発展することを恐れ,態度が軟化する可能性も高いです。
そのため,弁護士に依頼すれば示談金の増加を見込めます。
後遺障害逸失利益は,
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
の計算式で計算します。
基礎収入額は,事故前の収入をベースに計算します。
労働能力喪失率とは,後遺障害によって失われた労働能力の割合のことで,以下のように,後遺障害等級によって目安が定められています。
逸失利益が認められると,本来であれば段階的に得られたお金を一括で受け取ることになります。
そうすると,逸失利益を運用するなどして利益が生じるので,その分を控除しなければなりません。
そのため,労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数を掛け,あらかじめ中間利息分の金額を逸失利益から差し引きます。
労働能力喪失期間とは,交通事故が原因で生じた後遺障害の影響で,労働能力を失った期間を指します。
てんかんの場合の労働能力喪失率は,以下のようになっています。
障害等級 | 労働能力喪失率 |
5級2号 | 79% |
7級4号 | 56% |
9級10号 | 35% |
12級13号 | 14% |
後遺障害逸失利益の計算は煩雑なので,弁護士に依頼した方が,正確な額を請求することができます。
なお,⑴交通事故における慰謝料の3つの基準,⑵後遺障害慰謝料の計算方法について,当事務所の次のコラムでご紹介しているので,ご覧ください。
5 交通事故で「てんかん」を発症した場合に,後遺障害の認定がされなかった事例と,認定されるためのポイント
⑴交通事故で「てんかん」を発症した場合に,後遺障害の認定がされなかった事例
①14級相当の外傷性てんかんが残ったと被害者が主張したところ,後遺障害の認定がされなかった事例
後遺障害の認定がされなかった理由
・事故により頭部に受けた衝撃は重大なものではない ・意識障害は一瞬のもの ・CT及びX線検査でも脳波に外傷による器質的損傷が生じたとは認められず,外傷性てんかんが発症するために不可欠である脳損傷が生じたとは認められない ・主治医も外傷性の症状ではないと否定し,脳波異常は先天性の可能性があると,外傷性てんかん自体を否定している |
→裁判所は,脳波異常と事故との間の因果関係を否定し,後遺障害が残存しているとは認められないと認定しました。
②主治医は外傷性てんかんと診断していたが,裁判所は外傷性てんかんを否定した事例
・鑑定によると,主治医が主張している脳浮腫,記憶障害があるかは疑問 ・主治医が主張する視力低下の原因は円錐角膜による可能性が高いし,眼振は不安神経症による |
→裁判所は,主治医が外傷性てんかんだと判断している根拠の大半に疑問があるうえに,脳波検査に異常がない,画像診断においても外傷による病変の存在が認められないことから外傷性てんかんを否定しました。
⑵交通事故で「てんかん」を発症した場合に,後遺障害と認定されるためのポイント
事故によって外傷性てんかんに罹患したのか,事故とてんかんとの因果関係が問題になります。
交通事故から時間が経ってから病院を受診し,何回目かの検査でてんかん波が記録されたような場合は,交通事故と因果関係がないのではないかと疑われる可能性があります。
そのため,交通事故で頭部に衝撃を受けた場合,早く脳神経外科を受診し,適切な検査を受けましょう。
また,後遺障害の認定基準では発作の回数が問題になるので,いつ,どのような発作が起きたかを細かく記録しておきましょう。
6 まとめ
てんかんが残れば,運転免許の取得に一定の条件が課される,一部の職種に就職できない,いつ発作が起こるのかと怯えながら日々を過ごさなければならないなど生活への影響が大きいです。
これに見合った十分な補償を受けるには,適切な後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
しかし,交通事故による外傷性てんかんが残った場合,事故との因果関係が疑われ,必ずしも後遺障害等級の認定がされるわけではありません。
弁護士は,外傷性てんかんなど,交通事故を原因とする後遺障害に詳しいので,弁護士に依頼することが効果的です。
ロイヤーズ・ハイには交通事故に精通した弁護士が多数在籍しています。交通事故に遭い,てんかんの症状に悩まれている方は,交通事故を多く取り扱う大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。