交通事故で口や咽頭の外傷を負えば,かすれ声などの言語障害が残ることがあります。
当コラムでは,交通事故で言語障害になった場合についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で言語障害になるとどうなる?
⑴交通事故で言語障害になった場合の症状
交通事故で反回神経麻痺となった場合や,頭部外傷による高次脳機能障害を負った場合,言語障害が残ることがあります。
交通事故で咽頭部への強い打撃,頸椎の脱臼,椎体骨折,頭部外傷,縦隔気腫を負った場合に,反回神経麻痺を合併します。
反回神経麻痺の初期症状は声がれです。
脳幹に近い頭部外傷を負い,反回神経麻痺が残った場合は,飲食でむせる,声が鼻にもれるなどの症状があります。
頭部外傷後の高次脳機能障害が残った場合,失語症や失声症と呼ばれる言語障害が残ります。
⑵反回神経麻痺の検査
反回神経麻痺かどうかは,ファイバースコープで声帯の動きを観察して診断します。
また,筋電図,発生時のX線透視検査によっても反回神経麻痺かどうかを判断します。
これらの検査によって他覚的所見を立証し,後遺障害申請する際,後遺障害診断書に記載します。
2 交通事故で言語障害になったら後遺障害等級はいくつ?
高次脳機能障害を原因とする言語障害では,他の症状もあるので,症状全体を含めて後遺障害等級を認定します。
そのため,下記の基準は高次脳機能障害を原因とする言語障害を除きます。
なお,高次脳機能障害の後遺障害等級については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故後の高次脳機能障害について。後遺障害認定等級は何級?
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの | 「言語の機能を廃した」とは,4種の語音のうち,3種以上の発音が不能になったもの |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの | |
4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | 「言語の機能に著しい障害を残す」とは,4種の語音のうち2種が発音不能になったもの,または綴音機能に障害があり,言語では意思を疎通させることができないもの |
6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | 「言語の機能に障害を残す」とは,4種の語音のうち1種の発音不能のもの |
10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの | |
12級相当 | 声帯麻痺による著しいかすれ声 |
4種の語音
⑴口唇音:ま,ぱ,ば,わ行音,ふ
⑵歯舌音:な,た,だ,ら,さ,ざ行音,しゅ,じゅ,し
⑶口蓋音:か,が,や行音,ひ,にゅ,ぎゅ,ん
⑷咽頭音:は行音
なお,交通事故で咀嚼障害になった場合については,当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故で咀嚼障害になったら後遺障害等級はいくつになる?認定基準と慰謝料相場を解説
3 交通事故で言語障害になったら何がもらえる?
⑴損害賠償請求の項目
交通事故被害者は,民法709条に基づき加害者に対して損害賠償請求権を有します。
被害者は,加害者に対して以下の項目を請求することができます。
加害者が保険に入っていれば,被害者は保険会社に対して以下の項目を請求することになります。
①治療費
治療費のうち,必要かつ相当な実費全額の請求をすることができます。
②付添費用
(ア)入院付添費
医師の指示,受傷の程度,被害者の年齢等により必要があれば職業付添人の部分には実費全額が,近親者付添人は1日につき6500円の請求をすることができます。
(イ)通院付添費
症状または幼児等必要と認められる場合には,1日につき3300円の請求をすることができます。
③入院雑費
日用品の購入費などのことで,1日につき1500円が認められます。
④通院交通費
症状などによりタクシー利用が相当とされる場合以外は電車,バスの料金がこれにあたります。
自家用車を利用した場合は,ガソリン代,高速道路料金,駐車代等が含まれます。
⑤装具・器具等購入費
必要がある場合に認められます。
義歯,義眼,眼鏡,車いすなどがあります。
⑥弁護士費用
弁護士費用のうち,認容額の10%程度を加害者が負担します。
⑦休業損害
交通事故で怪我を負ったことが原因で,仕事ができずに失った収入のことです。
⑧後遺障害逸失利益
後遺障害を負ったことで労働能力の一部が制限された場合,後遺障害がなければ将来得られるはずであった収入のことです。
⑨入通院慰謝料
交通事故の怪我の治療のために,入通院を余儀なくされたことによって生じた精神的苦痛に対する補償です。
⑩後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったことによって被害者の受ける精神的苦痛に対する補償です。
⑪修理費
修理が相当な場合,適正修理費相当額の請求が認められます。
⑫代車使用料
相当な修理期間または買替期間中,レンタカー使用等により代車を利用した場合に認められます。
⑵後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の相場は,後遺障害等級ごとに以下のようになっています。
弁護士基準と自賠責基準では,2倍以上も後遺障害慰謝料の額が異なります。
なお,弁護士基準,自賠責基準の具体的な内容については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
等級 | 後遺障害 | 弁護士基準 | 自賠責基準(※) |
1級2号 | 咀嚼及び言語の機能を廃したもの | 2800万円 | 1150万円 |
3級2号 | 咀嚼又は言語の機能を廃したもの | 1990万円 | 861万円 |
4級2号 | 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの | 1670万円 | 737万円 |
6級2号 | 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの | 1180万円 | 512万円 |
9級6号 | 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの | 690万円 | 249万円 |
10級3号 | 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの | 550万円 | 190万円 |
12級相当 | 290万円 | 94万円 |
※令和2年4月1日以降に発生した事故に適用する基準
4 言語の機能障害に関する裁判例は?
⑴岡山地判昭和62年6月9日 交民20巻3号784頁
障害別等級表第九級の六、第一〇級の二の「そしゃくの機能に障害を残すもの」とは、「ある程度固形食の摂取はできるが、これに制限があって、そしゃくが十分でないもの」をいうとされ、また、「言語の機能に障害を残すもの」とは、「四種の語音(口唇音・歯舌音・口蓋音・喉頭音)のうち、一種の発音不能のもの」をいうとされている。
この基準に照らせば、前判示のとおり、言語の機能については、原告は舌のほぼ三分の一の萎縮の後遺障害が残ったものの、特にラ行音、タ行音等歯舌音の発音に発音障害が認められるものの、ゆっくりと発音すれば聞き取りにくくはなく、且つ、一音ずつ発音すれば発音不能の語音はないことが認められ、依然として、発音は可能であるから、右の程度では原告の言語の機能障害は右認定基準には達しないものと解さざるを得ない。また、そしゃく機能についても、前判示のとおり固定物のえん下に制限があると医学的に断定できないのであるから、右認定基準に達するとはいえない。
しかしながら、前判示のとおり、原告は本件事故により舌尖三分の一の萎縮を余儀なくされ、右の如く、発音にも一部障害が生じていることからすれば、認定基準4ロ(3)の準用(イ)の「舌の異常」に該るというべきである。
⑵大阪地判平成6年4月25日 交民27巻2号514頁
原告は、本件事故に基づく口腔内外傷、上顎歯槽骨骨折ないし下顎骨骨折によって、原告にはダ行音とラ行音の置換という構音障害が発生したと認められるところ、軽快の可能性がある他、発音不能の音がないので、その障害の程度からは、言語の機能に障害を残すものとはいえず、等級認定する程の障害には当たらない。
⑶大阪地判平成10年2月16日 交民31巻1号200頁
原告は、事故によって気管が損傷され、その後気管切開により手術を行ったものの、その後は、気管の内部にできた肉芽のため、気道がふさがれるようになった。
その後、肉芽は除去されたものの、呼吸はすぐに息切れする状態となり、また、声帯は中間位で固定となったため、発声時に十分に閉じず、発声が困難な状態が続いている。
以上の事実から、原告には、本件事故により、発声及び呼吸機能の障害も残ったと認められる。
⑴⑵の裁判例では,言語の機能障害の有無を判断するにあたって,発音不能であるかどうかが厳格に認定されています。
⑶は,事故が原因で嗄声が残った裁判例です。
嗄声の後遺障害は,交通事故を直接の原因とするものに加えて,交通事故による処置を原因とするものも含まれることが分かります。
5 弁護士に依頼するメリットとは?
⑴後遺障害等級認定を受けやすい
後遺障害が認定されるには,後遺障害診断書などの申請に必要な書類の内容が重要になります。
裁判例からも分かるように,言語の機能障害が後遺障害として認められることは難しいです。
また,治療の専門家である医師に後遺障害診断書の作成を頼むのにはコツが要ります。
弁護士に依頼すれば,後遺障害診断書の作成ポイント,医師へ後遺障害診断書作成をお願いする方法を教えてもらうことができます。
その結果,後遺障害が認定されやすい後遺障害診断書を作成してもらうことができて,後遺障害等級認定を受けやすくなります。
⑵相手方保険会社との示談交渉がスムーズに進む
弁護士に依頼すれば,相手方保険会社とのやり取りは全て弁護士が行います。
弁護士は法律・交渉のプロなので,被害者本人が対応する場合よりも相手方保険会社の態度が軟化します。
また,弁護士は争点となるところを理解しているので,争点に絞って交渉を進めることができます。
そのため,示談交渉にかかる時間が短くなります。
⑶示談金が高額になりやすい
後遺障害慰謝料,入通院慰謝料は弁護士基準で算定した方が高くなります。
弁護士基準は,弁護士が示談交渉を行わなければ用いることができないので,弁護士に依頼する大きなメリットとなります。
6 まとめ
言語障害は,意思疎通に不便が生じるので,それに見合った十分な補償を何としても受けたいところだと思います。
後遺障害申請や示談交渉は特殊ですから,弁護士を入れず,ご自身で対応して,言語障害の程度に見合った示談金を獲得することは難しいです。
法律事務所ロイヤーズ・ハイには,交通事故・後遺障害に精通した弁護士が在籍しております。交通事故で言語障害になり,悩まれている方は,大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでご相談ください。
このコラムの監修者
-
太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。