交通事故で車の窓ガラスやドアに頭をぶつけた。
事故直後は体の不調がなくても,1~2ヶ月後に頭痛や認知症の症状が現れたら,慢性硬膜下血腫かもしれません。
当コラムでは,慢性硬膜下血腫の後遺障害についてご説明いたします。
目次
1 交通事故で頭を打ったら要注意!慢性硬膜下血腫の症状と診断上のポイント
⑴急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫の違い
頭蓋骨のすぐ内面にある膜のことを,「硬膜」と言います。
硬膜と脳の間に血液が溜まって血腫になったものを「硬膜下血腫」と言います。
硬膜下血腫には,急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫の2種類があります。
急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫は,血液がたまるスピード・症状に違いがあります。
急性硬膜下血腫の方が,重い症状が現れます。
⑵慢性硬膜下血腫の症状と診断上のポイント
慢性硬膜下血腫とは,頭部外傷後慢性期,通常1~2ヶ月後に硬膜と脳のすきまに血液がたまり,それが脳を圧迫して発症します。
交通事故で軽微な頭部外傷を負うことが原因だと考えられます。
慢性硬膜下血腫を発症していれば,CTまたはMRIで血腫があることを確認することができます。
慢性硬膜下血腫の症状は年代によって差があります。
若年者は,頭痛,嘔吐を中心とした頭蓋内庄亢進症状,片麻痺,失語症を中心とした局所神経症状がみられます。
高齢者は,認知症,失禁,片麻痺による歩行障害などがみられます。
高齢者にこれらの症状が現れても,認知症と診断されてしまうことがあります。
血腫の有無を確認するために,画像診断は必須です。
⑶慢性硬膜下血腫の治療
軽症だと経過観察などで済みますが,一般的には手術を行って血腫を取り除きます。
2 交通事故で慢性硬膜下血腫を発症したら後遺障害と認められる?認定基準と等級
交通事故で慢性硬膜下血腫を発症して,以下のような後遺障害が残れば,高次脳機能障害のうち,5級以下の後遺障害が認定される可能性があります。
等級 | 後遺障害 | 認定基準 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 単純繰り返し作業などに限定すれば,一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり,環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており,就労の維持には,職場の理解と援助を欠かすことができないもの。 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 一般就労を維持できるが,作業の手順が悪い,約束を忘れる,ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 一般就労を維持できるが,問題解決能力などに障害が残り,作業効率や作業持続力などに問題があるもの。 |
なお,高次脳機能障害全般については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
交通事故後の高次脳機能障害について。後遺障害認定等級は何級?
3 交通事故で慢性硬膜下血腫を発症し,後遺障害が残った場合の慰謝料相場は?
慢性硬膜下血腫を発症したうえで,後遺障害が残れば加害者が加入している任意保険会社に対して後遺障害慰謝料を請求できます。
自賠責保険は被害者に対する最低限の補償を目的としているので,自賠責基準は1番低い基準です。
弁護士基準は,これまでの裁判例を参考としており,1番高い基準です。
慰謝料の支払い基準には,任意保険基準もありますが,保険会社の基準であって非公表であるので以下の表には記載してありません。
等級 | 後遺障害 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 249万円 | 690万円 |
弁護士基準で算定できるかどうかで,後遺障害慰謝料の額は大きく異なります。
弁護士基準を利用できるのは弁護士だけなので,遅くとも示談交渉が始まるまでには弁護士に事件の対応を依頼しましょう。
4 弁護士に依頼するメリットと相談するタイミング
⑴弁護士に依頼するメリット
①保険会社とのやり取りから解放される
加害者が任意保険に加入しており,加害者が交通事故のことを保険会社に伝えていれば,保険会社から被害者へ連絡があります。
保険会社から今後の流れについて説明がされるでしょう。
その後も,治療費をいつまで支払えばよいか確認するために,保険会社から連絡があります。
十分な治療期間を確保するため,治療費の打ち切りがなされないよう上手に答える必要があります。
多くの被害者は,保険会社とのやり取りに不慣れです。
弁護士は保険会社とのやり取りに慣れているので,治療期間を延長できるよう,保険会社と交渉することができます。
②治療方針について助言を受けることができる
後遺障害が残った事案では,症状が続いていることを証明するために,通院頻度に工夫が必要です。
少なくとも週2~3回,6ヶ月は通院しなければ,後遺障害等級が認定されません。
弁護士に依頼すれば,ポイントを押さえて通院することができます。
また,基本的には医療機関である整形外科に通院しましょう。
整骨院の治療を受けたい場合は,整骨院に通っても悪影響がないか弁護士に相談することができます。
ただし,定期的な通院が必要であっても,毎日通院するような過剰通院を行えば,大げさにしているだけではないかと保険会社から疑われてしまうので注意が必要です。
なお,整骨院への通院については当事務所の次のコラムでご紹介しているのでご覧ください。
③面倒な手続きから解放される
慢性硬膜下血腫の後遺障害が残れば,後遺障害申請を行わなければいけません。
被害者申請の手続を利用した方が,後遺障害等級認定を獲得しやすいです。
被害者申請では,被害者本人が必要書類を集める必要があり,後遺障害が残った身体には負担となります。
弁護士に依頼していれば,被害者に代わって被害者申請の手続を利用して後遺障害申請を行ってもらえます。
また,最終的には示談交渉も行わなければいけません。
加害者側の保険会社から示談案が送られますが,全ての損害項目が揃っているか,示談金が低額ではないかを被害者自身で判断することは難しいです。
また,被害者本人が相手であれば,保険会社からは,素人だからと軽くみられる可能性もあります。
弁護士に依頼すれば,示談交渉も行ってくれます。
示談内容を正確に判断し,保険会社との示談交渉を有利に進めるには弁護士に依頼する方がいいです。
④弁護士基準で慰謝料を算定できる
弁護士が示談交渉を行う場合,弁護士基準を利用できます。
弁護士基準と自賠責基準では2~3倍近く金額が異なるので,弁護士に依頼すれば,示談金額が大きく上がります。
⑤示談金を増額できるかもしれない
弁護士基準で慰謝料を算定できること,弁護士は基本的に交渉上手であることから,示談金を増額できる可能性があります。
⑵弁護士に相談するタイミング
弁護士に相談するタイミングとして,以下の段階があります。
①事故直後
交通事故後,何をすべきかを被害者ご自身で調べるのには限界があります。
この段階で相談すれば,示談金を受け取るまでの見通しがつくので,事故対応の不安が和らぎます。
②治療中
この段階で相談すれば,後遺障害等級認定を受けやすい通院の仕方を教えてもらえます。
③症状固定後~後遺障害申請前
この段階で相談すれば,ややこしい後遺障害申請手続きを代行してもらえます。
④示談交渉前
この段階で相談すれば,示談交渉を代行してもらえます。
③か④の段階で弁護士に相談しても,後遺障害申請や示談交渉などの込み入った手続を行わなくて済むというメリットがあります。
しかし,これらの段階で弁護士に相談すれば,通院回数が足りず後遺障害等級認定を受けられなかった!という事態になる恐れがあります。
そのため,①か②の段階で弁護士に相談するべきです。
5 まとめ
慢性硬膜下血腫の症状は,交通事故の1~2ヶ月後に現れます。
慢性硬膜下血腫だと気付かずに示談交渉を進めてしまうと,症状が現れ,治療後に後遺障害が残ったとしても,後遺障害慰謝料を受け取ることができません。
交通事故で頭を打った場合,焦って示談交渉を行わず,まずは弁護士に相談しましょう。交通事故で頭を受傷した方,慢性硬膜下血腫の後遺障害について悩まれている方は大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでご相談ください。
このコラムの監修者
-
太田 泰規(大阪弁護士会所属) 弁護士ドットコム登録
大阪の貝塚市出身。法律事務所ロイヤーズ・ハイのパートナー弁護士を務め、主に大阪エリア、堺、岸和田といった大阪の南エリアの弁護活動に注力。 過去、損害保険会社側の弁護士として数多くの交通事件に対応してきた経験から、保険会社との交渉に精通。 豊富な経験と実績で、数々の交通事故案件を解決に導く。