交通事故の被害を受けたとき、ほとんどのケースでは、被害者の方は加害者側の任意の保険会社と示談交渉を行うこととなります。
その中で多くの被害者の方が以下のような疑問を持ちます。
「保険会社から示談を言われたけど、金額はこんなに安いものなのか?」
「妥当な金額を提示されているのでしょうか?」
結論から申し上げますと、保険会社から提示される慰謝料を含む損害賠償金は十分な内容であるとは言えません。
ここでは、保険会社が提示する慰謝料についてご説明をさせていただきます。
目次
1 任意保険基準の慰謝料の種類と計算方法
まず、被害者の方が知っておかなければいけないことは、交通事故の慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の計3種類あるということです。
また、それぞれで計算の方法が異なりますので、併せてご説明をします。
なお、保険会社は「任意保険基準」という基準を使用して慰謝料について計算をして、示談交渉を行います。この基準は、各保険会社が独自で設定を行っているため、細かな金額は各社で異なり、その計算方法は非公開です。
元々は各保険会社で統一して基準がありましたが、現在ではその基準は撤廃されています。しかし、現在でも実務上の都合で、撤廃された基準を踏襲しているとする保険会社も少なくありません。
ここでは、以前使用されていた基準を基に推定の相場を見ていきます。
⑴入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故により負傷した被害者の方が、入院や通院を余儀なくされたことに感じる精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
入院の期間や、通院の期間、実際に通院をした日数を基に算出されます。
※旧任意保険基準算定表
万円 (単位) | 入院 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 |
通院 | 25.2 | 50.4 | 75.6 | 95.8 | 113.4 | 128.5 | |
1ヶ月 | 12.6 | 37.8 | 63 | 85.7 | 104.6 | 121 | 134.8 |
2ヶ月 | 25.2 | 50.4 | 73.1 | 94.5 | 112.2 | 127.3 | 141.1 |
3ヶ月 | 37.8 | 60.5 | 81.9 | 102.1 | 118.5 | 133.6 | 146.1 |
4ヶ月 | 47.9 | 69.3 | 89.5 | 108.4 | 124.8 | 138.6 | 151.1 |
5ヶ月 | 56.7 | 76.9 | 95.8 | 114.7 | 129.8 | 143.6 | 154.9 |
6ヶ月 | 64.3 | 83.2 | 102.1 | 119.7 | 134.8 | 147.4 | 157.4 |
7ヶ月 | 70.6 | 89.5 | 107.1 | 124.7 | 138.6 | 149.9 | 160 |
8ヶ月 | 76.9 | 94.5 | 112.1 | 128.5 | 141.1 | 152.5 | 162.5 |
横軸が入院していた期間、縦軸が通院していた期間となります。
任意保険基準や実際に入院・通院した日数をベースにするのではなく、入院した期間、通院をした期間を基に算出します。
計算の際の「1ヶ月」は暦で換算するのではなく、「1月あたり30日」として換算します。
入院のみの場合は最上段の横列の該当月を、通院のみの場合は一番左端の縦列の該当月を確認すると相場金額がわかります。
なお、入院、通院の両方があった場合は各該当する月の交差する部分が、被害者の方の慰謝料の相場となります。
たとえば、入院3ヶ月の場合のみは相場は75万6000円となります。通院3ヶ月のみの場合は37万8000円です。そして、入院3ヶ月、通院3ヶ月(総治療期間6ヶ月)の場合は、交差する箇所が相場となるため、102万1000円が任意保険基準で算出される慰謝料の相場となります。
被害者の方が、忘れてはならないことは、慰謝料が入院、通院の期間や日数に応じて算出されるということは、軽傷だったために病院に行かず、医師の診察を受けなかった場合は、入通院慰謝料は基本的に請求することができないということです。
むちうちや打撲、擦過傷といった場合、被害者の方の中には病院へ行かないとする方がいます。これは、被害者の方にとって得策ではありません。
必ず軽傷であっても医師の診察は、事故当日、少なくとも翌日には受けるようにしましょう。あまり事故当日と初診日が空いてしまうと、事故との因果関係が争点となり、慰謝料だけでなく治療費でさえ支払ってもらえなくなる可能性もありえます。
⑵後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、被害者の方が治療を続けていても、完全に治らず、後遺症が残ってしまったときの精神的苦痛に対する慰謝料です。
ここで注意をしなければならないのは、後遺症が残ったから必ずしも認定される、というわけではありません。
後遺障害慰謝料は、後遺障害等級の認定申請を行い、第三者機関である自賠責調査事務所の調査の結果、後遺障害等級1~14級のいずれかが認定されたときにはじめて請求が可能となります。
旧任意保険基準では以下の内容となります。
後遺障害等級 | 旧任意保険基準 |
1級 | 1,300万円 |
2級 | 1,120万円 |
3級 | 950万円 |
4級 | 800万円 |
5級 | 700万円 |
6級 | 600万円 |
7級 | 500万円 |
8級 | 400万円 |
9級 | 300万円 |
10級 | 200万円 |
11級 | 150万円 |
12級 | 100万円 |
13級 | 60万円 |
14級 | 40万円 |
後遺症が残っていたとしても、上記等級に該当しなければ、後遺障害慰謝料は請求ができません。
⑶死亡慰謝料
交通事故により被害者の方が亡くなった場合、死亡慰謝料が請求可能となります。
死亡慰謝料は、死亡させられた被害者の方が受けた精神的苦痛分と、突然大切な人を失ってしまったご遺族=相続人の方の精神的苦痛分と2種類があり、それぞれ固有のものとして認められています。
被害者の方の家庭内での役割
一家の支柱 | 1,700万円程度 |
母親・配偶者 | 1,500万円程度 |
その他(独身者、未成年者等) | 1,500万円程度 |
死亡慰謝料の相場金額ですが、亡くなった被害者の方が家庭内でどのような立場に位置していたかで慰謝料は大きく変動します。
たとえば、被害者の方の収入で家庭の経済を支えていた場合、亡くなったことにより一家の経済的支柱も失われたと考えられることから、高額な慰謝料となります。
なお、被害者の方の本人への死亡慰謝料とご遺族である相続人の方の慰謝料は固有のものではありますが、任意保険基準の場合、分けて計算されることは基本的にありません。
2 慰謝料の基準による違い
任意保険基準の各慰謝料の相場や計算方法をご説明させていただきました。
では、次に慰謝料の算定基準についてご説明をさせていただきます。
慰謝料の算定基準には、低い基準から自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準とあります。どの算定基準を使用するかによって慰謝料が2倍近く変わることもあります。
⑴自賠責基準
最も低い基準である、自賠責基準は各損害項目について支払い基準、限度額があります。
たとえば、入通院慰謝料については入院・通院1日にあたり4,300円(※2020年3月31日以前の事故は4,200円)と定められています。
任意の保険会社から、治療中や示談交渉をしている中で、担当者より、「120万円が上限額なので、そこまでは支払います」と被害者の方に説明を受ける場合があります。
これは、交通事故被害者の方の最低限の補償を目的とする自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)での、傷害部分(治療費や入通院慰謝料、休業損害等)の支払いの限度額120万円のことを指しています。
本来であれば、120万円を超えた部分を補填するのが任意の保険会社の役目ですが、保険会社は自社からの支出を出さない為、上記のように説明を行うケースがあります。
その結果、被害者の方の中には、「交通事故は、120万円までしか保険会社より、補償してもらえない。」と誤解することも少なくありません。
⑵任意保険基準
自賠責保険が強制保険の性質がある一方で、任意保険は、任意で加入するかどうかを決めることできます。
任意保険基準は先ほども述べたように各保険会社で独自の支払い基準を定めています。任意の保険会社は自賠責基準の支払い限度額で損害賠償金を終わらせることができれば、自社からの支出が発生しません。そのため、算定基準の中では、自賠責基準よりの金額となります。自賠責基準と同等の金額か、少し上回る金額を基本的には設定しています。
⑶弁護士基準
3つの基準の中で最も高額となる基準を弁護士基準といます。過去の裁判例を参考に作成されていることから、裁判基準、裁判所基準ともいいます。
弁護士基準は、実際に裁判をした場合に請求できる金額、つまり訴訟前提としていることから、最も高額な損害賠償金を算出可能とします。
弁護士基準と呼ばれる所以は、交通事故の示談交渉段階で弁護士が使用する基準だからとも言われています。実際被害者の方も知識さえあれば計算は可能ですが、弁護士基準は法的拘束力がないため、被害者の方本人が示談交渉で使用する場合は、保険会社は認めることはしません。
示談交渉を、裁判を見越して行う法律の専門家である弁護士だからこそ、相手の保険会社に対し、弁護士基準で請求をし、認めさせることができます。
なお、弁護士基準は最も適正な損害賠償金を算出できる基準とも考えられており、他2つの基準と比べて、事案にも寄りますが2~3倍の慰謝料を算出することもあります。
3 慰謝料を増額するには
ここまでで、被害者の方に覚えておいてほしいことは「保険会社から提示された損害賠償金額は低い」ということです。保険会社から被害者の方へ、最も高い弁護士基準で計算した内容を提示することはありえません。
被害者の方が慰謝料を増額するには2つのポイントを押さえることをしましょう。
⑴弁護士基準で慰謝料を請求
交通事故の慰謝料を最も高額な金額で請求するためには、弁護士基準で請求することです。
先ほども述べたように、弁護士基準は弁護士に依頼をすることで使用できます。
被害者の方はまず、弁護士に相談をすることから始めましょう。
また、弁護士に依頼をすれば、慰謝料を弁護士基準で請求し増額することができるだけでなく、保険会社との間にも弁護士が入ってくれるので、示談交渉での労力が無くなります。
交通事故問題に強い弁護士であれば、交渉のプロであることから、有利に示談を進めてくれるため、示談金が増額するだけでなく、被害者の方自身で示談交渉を進めるよりも早期に示談を成立させる可能性も高くなります。
なお、この他にも、弁護士へ相談することに以下メリットが考えられます。
- ・過失割合を適正に割り当ててくれる
- ・時効などの法律的な問題で不利益を受けない
- ・後遺障害認定が受けやすくなる
この後遺障害等級認定は被害者の方の損害賠償金に非常に大きく影響します。
⑵後遺障害等級の認定
後遺症が残った方に対して、後遺障害等級認定を受けることは、被害者の方にとって非常に重要です。
先ほど任意保険基準での後遺障害慰謝料をご説明させていただきましたが、弁護士基準になると金額は大幅に上がります。
後遺障害等級 | 弁護士基準 |
第1級 | 2800万円 |
第2級 | 2370万円 |
第3級 | 1990万円 |
第4級 | 1670万円 |
第5級 | 1400万円 |
第6級 | 1180万円 |
第7級 | 1000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
たとえば、交通事故の怪我の中でも多いむちうちの後遺症を持つ方が認定をされやすい等級が14級となりますが、任意保険基準の場合は、40万円の慰謝料に対して、弁護士基準では110万円となります。
先ほども述べたように後遺障害慰謝料は等級が認定されない限りは相手に請求することができません。
そして、この等級申請は手続きに手間がかかり、また提出する書類によって調査結果は大きく左右されると考えられます。
申請方法は相手の保険会社を通して行う「事前認定」と、被害者側が行う「被害者請求」がありますが、前者については、申請時の提出書類がどういったものか不透明なため、あまりおすすめはできません。一方で被害者請求の場合は、被害者の方自身で行うには不慣れな手続きの為時間がかかることが予想されます。
弁護士に依頼をすれば、被害者請求は被害者の方の代わりに行ってくれますし、また、等級申請において最も大切である、医師が作成する後遺障害診断書ですが、こちらも書き方にコツがあります。このコツは交通事故問題の経験が豊富な弁護士であれば、熟知をしているため、事前に確認することが可能です。
また万が一、認定された等級に納得がいかない場合、異議申し立てという方法で再度審査を受けることもありますが、これには、新たな医学的根拠の証拠を準備する等、立証が難解であることから、弁護士に依頼をすることをおすすめします。
いずれにしても、後遺症があるにもかかわらず、後遺障害等級申請を行わないこと、また、不当な等級のまま示談を進めることは、被害者の方にとって大きな損失になりえますので、後遺障害等級の認定は受けるようにしましょう。
4 慰謝料を増額したい方は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへ
任意保険基準での慰謝料についてご説明をさせていただきました。
繰り返し申し上げますが、保険会社が提示をする慰謝料を含む損害賠償金は低額であり、被害者の方にとって不十分な金額であるといえます。
相手の保険会社から「これで示談をしませんか?」と提案を受けた際は、すぐに示談をするのではなく、弁護士に相談をするようにしましょう。
弁護士基準で計算をすると驚くほど慰謝料が増額することもありえます。
適正な慰謝料を受け取りたい方、慰謝料増額したい方は、大阪(なんば・梅田)・堺・岸和田・神戸の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイへご相談ください。