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令和5年10月に公表された厚生労働省の統計によれば、令和4年の1年間に企業が付与した年次有給休日数(繰越日数を除く。)は、労働者1 人平均17.6 日、このうち労働者が取得した日数は 10.9 日で、取得率は 62.1%となっており、昭和 59 年以降過去最高となっています。
それでも、およそ38%が取得されていないのが現状です。
従業員が退職時に残っていた有給休暇を取得しようとしたら、会社が拒否したというケースも少なくありません。
そのような会社による年次有給休暇の拒否は、違法とならないのでしょうか。
今回は、退職時における有給休暇取得の拒否について解説します。
引用:令和5年就労条件総合調査の概況|厚生労働省
目次
会社(使用者)は、その雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続しまたは分割した10労働日の有給休暇を与えなければなりません。
このことは、労働基準法39条1項に定められています。
法律で規定された条件を満たせば、労働者は当然に有給休暇を取得する権利(「年休権」)を得ます。
このような規定が定められている趣旨は、労働者の心身の疲労回復を図り、また今日ではゆとりある生活の実現に資するという点にあります。
会社は、有給休暇の取得が法律で認められた労働者の権利であるということを認識しておく必要があります。
引用:e-Gov 法令検索|労働基準法
次の2つの条件を満たすことにより,労働者に年休権が発生します。
年休権は,「6ヶ月間継続勤務」した労働者に対して発生します。
日数は、労働者を雇い入れた日(就業開始日)から数えます。
また、労働者が「全労働日の8割以上出勤」していることも必要です。
なお、週の所定労働日数が4日以下のパートタイム労働者についても、所定労働日数に応じた年休権が発生します。
例えば、正社員(週の所定労働日数が5日以上または週の所定労働時間が30時間以上)であれば、6ヶ月間の勤務によって「10日」の有給休暇が与えられ、その後1年継続して勤務するごとに日数が新たに増え、最大「20日」まで発生します。
継続勤務期間と有給休暇の付与日数は、次の通りです。
従業員が有給休暇を取得する際に、理由は必要ありません。
有給休暇の利用目的は従業員の自由であり、年休自由利用の原則といいます。
労働者は、有給休暇の取得理由を尋ねられても答える義務はありません。
ただし、他の労働者と調整する際に,理由が重要となる場合があります。
結論から申し上げますと、従業員からの有給休暇取得(年休権の行使)を会社が拒否することはできません。
年休権は、労働者の一定の継続勤務により発生し、労働者が具体的に時季を指定した場合には、その時季について年休が成立します。
ここで、「時期」ではなく「時季」という言葉が用いられている理由は、季節の指定と具体的な時期の指定の2つが想定されているためです。
従業員の退職が決まったとしても、会社は、従業員からの有休休暇取得を拒否できません。
そのため、引き継ぎ作業などに膨大な時間を要する場合には、トラブルとなってしまうケースも少なくありません。
会社としては、そのようなトラブルを避けるため、何らかの対策を講じておく必要があるでしょう。
トラブルを避けるための対策については、後述します。
会社は、従業員からの有給休暇の取得を拒否することはできません。
しかし、例外的に,会社が従業員からの有給休暇の取得を制限できるケースがあります。
それは、会社による時季変更権の行使が認められる場合です。
時季変更権とは、従業員の有給休暇取得を会社が別の時季に変更できる権利です。
もっとも、会社が時季変更権を行使できるのは、請求された時季に有給休暇を与えると「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。
事業の正常な運営を妨げるかどうかの判断は、次のような基準に従ってなされます。
客観的に見て業務上の支障が生じるおそれがあれば、「事業の正常な運営を妨げる」といえます。
従業員の有休取得によって実際に事業の正常な運営が阻害されたかどうかは、判断に影響を与えません。
日常的に人手が足りていないにもかかわらず新規採用を行わず、そのため従業員に有給休暇を与えると業務上の支障が生じるといった場合には、常に時季変更権の行使が可能となってしまいます。
このような事態は、労働者の心身の疲労回復を図り、ゆとりある生活を実現するという年休制度の趣旨に反します。
そのため、会社は従業員が指定した時季に年休が取得できるよう配慮しなければならず、そのような配慮が認められて初めて時季変更権の行使が認められるのです。
従業員とのトラブルを避けるためにも、会社は次のような対策を講じましょう。
日ごろから従業員が有給休暇を取得しやすい環境を作り、実際に有給休暇を取得してもらっていると、退職時に有給休暇を多く与えなければならないという事態を回避することができるでしょう。
会社としては、十分な人員を確保する、積極的に取得するよう促すなどして有給休暇を取得しやすい環境を作ることが重要です。
会社は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日間の有給休暇を取得させる義務があります。
しかし、これで十分であるとは言えない場合もあるでしょう。
そこで、計画的付与制度を導入し、年5日以上の計画的付与を導入することが考えられます。
計画的付与制度を導入することで、退職時に有給休暇の残数が多く残っているという事態を回避することができるでしょう。
計画的付与制度には、全社一斉に休業する「一斉付与制度」や、班やグループ別に交替で取得させる「交代付与方式」などがあります。
退職日を延ばしてもらうことで、従業員に有給休暇を取得させつつ、引き継ぎ業務を行うことが可能になります。
しかし、従業員が転職先での就業を開始する、家庭の事情で引っ越すことが決まっているといった事情により、退職日を引き延ばしてもらうことが難しい場合が多いです。
そのため、会社が安易に退職日を延ばしてもらおうと考えることは避けるべきでしょう。
有給休暇の残日数をお金で買い取るという対策も考えられます。
しかし、有給休暇の買取りは、労働者の心身の疲労回復を図る、ゆとりある生活を実現するという有給休暇制度の趣旨に反するものです。
そのため、有給休暇の買取りは、原則として認められません。
以下のような、例外的な場合に限って認められています。
退職時は、労働者が休暇を取って心身の疲労回復を図る必要性が減少します。
そのため、退職時の有給休暇を買い取ったとしても、有給休暇制度の趣旨に反さず、労働者の権利は侵害されないと考えられています。
今回は、退職時における有給休暇取得の拒否について解説しました。
従業員からの有給休暇取得(年休権の行使)を会社が拒否することができず、従業員の退職が決まったとしても同様です。
そのようなトラブルを避けるためにも、会社としては何らかの対策を講じる必要があるでしょう。もし、従業員からの有給休暇の取得や退職時のトラブルについて、ご不明な点がございましたら、労働紛争に強い弁護士の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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