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2024.05.14 2024年5月14日

見落としがち!就業規則の変更が無効となる3つのケースとは?正しい変更手続きを弁護士解説

見落としがち!就業規則の変更が無効となる3つのケースとは?正しい変更手続きを弁護士解説

就業規則とは、労働者の賃金や労働時間などの労働条件に関すること、職場内の規律などについて定めた職場における規則集のことです。

会社が就業規則を定めておくことで、労働者が安心して働くことができ、労使間の無用なトラブルを防ぐことが可能になります。

労働関係の法律が改正されたり、会社の成長に伴って労働時間や賃金体系を見直したりすると、就業規則を変更する必要が生じることもあります。

では、いったん作成した就業規則を変更するには、どのような手続きをとる必要があるのでしょうか。今回は、就業規則の変更手続きについて解説します。

1 就業規則を変更する手続き5つとその流れ

就業規則の変更に必要となる手続きは、次のような流れで行います。

(1)変更後の就業規則を作成する
(2)労働者の意見書を作成する
(3)就業規則変更届を作成する
(4)労働基準監督署へ届け出る
(5)変更後の就業規則を周知する

(1)変更後の就業規則を作成する

まずは、変更後の就業規則の草案を作成します。

どの事項について、どのような内容の変更を必要とするのか検討し、作成しましょう。

例えば、労働時間を変更する、賃金体系を変更する、定年制を変更するなどです。

(2)労働者の意見書を作成する

就業規則を変更するにあたっては、労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聴かなければなりません。

労働者の意見を聴いたら、意見をまとめた意見書を作成します。

労働者の意見書は、変更を届け出る際の必要書類となります。

(3)就業規則変更届を作成する

変更後の就業規則が決定したら、就業規則変更届を作成します。

就業規則変更届の様式について、特に定型の様式はありません。

届出を行う際には、任意の用紙に事業所の名称、事業所の所在地、使用者氏名等を記載します。

厚生労働省のホームページで様式例をダウンロードすることができます。

参考:主要様式ダウンロードコーナー|厚生労働省

(4)労働基準監督署へ届け出る

変更後の就業規則、労働者の意見書、就業規則変更届の3つの書類を作成したら、これらを管轄の労働基準監督署へ届け出ます。

(5)変更後の就業規則を周知する

作成時と同様に、変更後の就業規則も従業員に対して周知する必要があります。

事業場の見やすい場所へ掲示する、デジタルデータとしてパソコンからいつでも閲覧可能な状態にするなどして周知を図りましょう。

2 就業規則の変更が無効となる3つのケース

就業規則の変更が無効となる場合としては、次のようなケースがあります。

(1)変更後の内容が法令・労働協約に反する(2)従業員の個別の同意がない(3)就業規則の変更が合理性を欠いている

(1)変更後の内容が法令・労働協約に反する

就業規則は、法令や労働協約に反してはなりません。

違反してはならない法令とは、法律や条例などのうち、強行規定に限られます。

強行規定とは、当事者の意思により変更することができないルールのことです。

例えば、有給休暇の付与日数についての定めは、当事者の意思により変更することができない強行規定です。

労働基準法で有給日数が20日とされているにもかかわらず、就業規則で10日と規定した場合には、法令違反として無効となります。

(2)従業員の個別の同意がない

原則として、会社は、従業員の同意を得ることなく、就業規則を変更することによって、従業員の不利益に労働条件を変更することはできません。

例えば、従業員との間で勤務地を限定する労働契約を締結していた場合、就業規則の変更によって勤務地を限定しない包括的な配転規定を設けたとしても無効となります。

(3)就業規則の変更が合理性を欠いている

例外的に、従業員の個別の同意を得ることなく、従業員の不利益に就業規則を変更することが認められる場合があります。

それは、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が合理的であると認められる場合です。

様々な具体的事情から、就業規則の変更が合理性を欠くと判断される場合には、就業規則の効力が認められません。

また、就業規則の変更に合理性が認められたとしても、当該従業員との間で就業規則によって変更されないと合意していた部分については、原則として効力が認められません。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

引用:労働契約法|e-Gov 法令検索

3 就業規則の変更が無効となった裁判例

就業規則の変更が特に問題となりやすいのは、従業員に対する不利益変更のケースです。

会社が、就業規則を変更するうえで、どのような場合に就業規則の変更が合理的なものと認められず無効となってしまうのか、その具体的な判断内容を知っておくことは非常に重要です。

以下では、参考になる裁判例の一部をご紹介します。

(1)少数組合の同意を得ずに行った就業規則の変更を無効とした裁判例(最判平成12年9月7日)
(2)年功序列型から成果主義型の賃金体系に変更する就業規則の変更を無効した裁判例(大阪高裁平成19年1月19日)
(3)基本給を減額して固定残業手当を増やす就業規則の変更を無効とした裁判例(東京地裁平成28年9月27日)

(1)少数組合の同意を得ずに行った就業規則の変更を無効とした裁判例(最判平成12年9月7日)

① 事案の概要

被告であるY銀行は、60歳定年制を採用していましたが、就業規則を変更し、55歳に達した行員を新設の専任職に発令するとともに、その基本給を55歳到達直前の額で凍結し、業績給を一律に50パーセント減額し、管理職手当及び役職手当は支給せず、賞与の支給率を削減するなどの専任職制度を導入しました。

この際、多数派労働組合の同意を得ていました。

しかし、このような就業規則の変更によって専任職の発令を受けた55歳以上の行員であるXら6人は、変更後の就業規則の効力が及ばないとして、専任職制度が適用されなかった場合に得るはずであった賃金と実際に得た賃金との差額の支払い等を求めた事案です。

② 裁判所の判断

裁判所は、就業規則の上記変更部分について、「短期的にみれば、特定の層の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず、その負担の程度も前示のように大幅な不利益を生じさせるもの」と述べました。

また、行員の約73パーセントを組織する労働組合が同意していた点については、「不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではない」としました。

結果として、変更後の就業規則は、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできず、これに同意しないXらに対し効力を生じないと判断しました。

(2)不利益緩和措置が設けられなかった就業規則の変更を無効とした裁判例(大阪高裁平成19年1月19日)

① 事案の概要

被告であるY社は、就業規則を改正して賃金体系を変更し、変更後の賃金体系に基づく賃金等を支払いました。

変更後の賃金体系によれば、原告らの賃金は減額される結果となりましたが、代償措置や経過措置といった労働者の不利益を緩和する措置は設けられていませんでした。

そこで、従業員であった原告らは、就業規則の変更が無効であるとして、賃金減額相当分等の支払いを求めたという事案です。

② 裁判所の判断

裁判所は、「原告3名の被った不利益の程度は大きいものといわざるを得ず,これに対する代償措置は十分なものではないし,経過措置も執られていない」といった事情から、変更後の就業規則について、原告3名に対しては、効力を生じないと判断しました。

(3)「過半数労働者」からの意見聴取が行われなかった就業規則の変更を無効とした裁判例(東京地裁平成28年9月27日)

① 事案の概要

被告である株式会社Yはスーパーマーケット事業等を営んでいたところ、基本給を減額して固定残業手当を増やす就業規則の変更を行いました。

その際、Yによって指名された従業員代表であるAから意見聴取を行っていたものの、Aは投票などの方法による手続により選出された「過半数代表者」ではありませんでした。

そこで、Yの社員であったXが、変更後の就業規則は無効であるとして、平成24年8月から平成26年7月までの時間外労働に係る未払割増賃金及び付加金等の支払を求めた事案です。

② 裁判所の判断

裁判所は、Aについて、「最も勤続年数が長く、被告により従業員代表に指名されたに過ぎず、同法施行規則所定の手続を経て選出された者であるとは認めがた」く、また、「従業員に大きな不利益をもたらす就業規則を変更するに先立ち、原告を含む従業員の意見を聴取する機会は設けられなかったと認めるほかない」と述べました。

結果として、就業規則の変更が合理的なものであるとは認められず、その就業規則の変更に基づく基本給の減額は無効であると判断しました。

4 就業規則を変更する手続きで押さえるべき4つのポイント

せっかく就業規則を変更しても、その効力が認められなければ、労働者との間で紛争となりかねません。

そのような労使間における紛争を回避するため、就業規則の変更を検討する際には、以下に挙げるポイントを押さえておきましょう。

(1)法令や労働協約を遵守する
(2)適切に選ばれた労働者代表の意見聴取を行う
(3)変更内容を明確にする
(4)変更後の周知を徹底する

(1)法令や労働協約を遵守する

まずは、法令や労働協約を確認しましょう。

法令が強行規定でない場合には、法令に反する定めが認められる場合もあります。

社内で判断することが難しい場合には、弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。

(2)適切に選ばれた労働者代表の意見聴取を行う

「一番長く在籍している従業員」や「重要なポストに就いている従業員」は、「過半数代表者」ではありません。

意見聴取を行う際には、投票などの方法によって適切に選ばれた労働者の代表であるかを確認する必要があります。

(3)変更内容を明確にする

変更後の就業規則が不明確であると、従業員に誤解を与えてしまい、後日紛争となりかねません。

会社は、できるだけ分かりやすい就業規則を作成しましょう。

変更内容については、従業員にとって不利益になる部分も含め、できれば個別に説明することが望ましいです。

(4)変更後の周知を徹底する

手続きの流れでも説明しましたが、変更後の就業規則は労働者に対し周知されなければ効力が認められません。

就業規則を変更した際には、徹底した周知を行いましょう。

5 まとめ

今回は、就業規則の変更手続きについて解説しました。

就業規則の変更は、変更後の就業規則や労働者の意見書、変更届を作成し、これらを管轄の労働基準監督署へ届け出て、従業員に周知するといった流れで行います。

適切な手続きに基づかず行われ場合には、変更魚の就業規則の効力が認められない可能性もありますので注意してください。

従業員の同意なく不利益に変更する場合には、就業規則の変更に合理性が認められなければなりません。

どのような場合に合理性が認められるのか、社内で判断することが難しい場合もあるでしょう。もし、就業規則の変更でご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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