2024.06.11 2025年1月9日

「同一労働同一賃金」に企業はどう対応すべきか?弁護士が解説

「同一労働同一賃金」に企業はどう対応すべきか?弁護士が解説

「同一労働同一賃金」とは、同一の企業・団体内で、正社員と非正規雇用労働者との間で、不合理な待遇差を解消するための考え方やルールのことです。

企業は、実際にどのような対応が求められ、違反した場合にはどのようなリスクを負うことになるのでしょうか。今回は、「同一労働同一賃金」について解説します。

1 「同一労働同一賃金」導入の狙い

「同一労働同一賃金」は、2021年4月より全面的に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(正式名称「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)、2020年4月1日より施行された労働者派遣法(正式名称「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」)において導入されました。

導入の狙いは、同じ労働を行っているにもかかわらず、雇用形態が違うというだけで賃金格差が生じている場合に、このような格差を解消しようという点にあります。

同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な格差を解消することで、労働者が多様な働き方を自由に選択できるようになります。

(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

引用:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-Gov 法令検索

(不合理な待遇の禁止等)
第三十条の三 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。(略)

引用:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov 法令検索

2 パートタイム・有期雇用労働法により企業に求められる対応

パートタイム・有期雇用労働法による保護の対象は、短時間労働者と有期雇用労働者です。

企業には、次のような対応が求められます。

(1)従業員の雇用形態を把握する
(2)待遇の状況を確認する
(3)なぜ待遇に違いがあるのか確認する
(4)不合理ではないことを説明できるようにする
(5)不合理であれば改善する

(1)従業員の雇用形態を把握する

まずは、各従業員の雇用形態がどうなっているのかを把握する必要があります。

保護の対象となる短時間労働者や有期雇用労働者の有無を確認しましょう。

短時間労働者とは、一週間の所定労働時間が、正社員よりも短い労働者をいいます。

有期雇用労働者とは、期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます。

(2)待遇の状況を確認する

次に、パートタイム労働者、有期雇用労働者の区分ごとに、賃金や福利厚生などの待遇について違いがあるか確認します。

待遇面で違いがなければ、特に対応を必要としません。

(3)なぜ待遇に違いがあるのか確認する

待遇に違いがある場合は、なぜそのような違いを設けているのかを確認しましょう。

(4)不合理ではないことを説明できるようにする

待遇差がある理由に不合理な点がないと判断される場合には、待遇の違いの内容や不合理な待遇差でない理由について説明できるように整理しておく必要があります。

企業は、労働者の待遇の内容・待遇の決定に際して考慮した事項、正社員との待遇差の内容やその理由について、労働者から説明を求められた場合には説明することが義務づけられているからです。

(5)不合理であれば改善する

待遇差がある理由に不合理な点がある、あるいは不合理ではないとは言いがたいと判断される場合には、改善に向けて検討する必要があります。

企業には、労働者の意見も聴きつつ改善していくことが望まれます。

3 労働者派遣法により企業に求められる対応

労働者派遣法による保護の対象は、他の会社から派遣されて働く労働者(派遣労働者)です。

派遣元企業か派遣先企業かで、求められる対応が異なります。

それぞれの企業について、特に重要となる対応は次の通りです。

(1)派遣元企業に求められる対応

① 「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかを選択する
② 派遣先企業から提供される情報の管理を適切に行う
③ 待遇差について説明できるようにする④ 裁判外紛争解決手続き(行政ADR)に対応できるようにする

① 「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかを選択する

まずは、待遇決定方式を選択する必要があります。

「派遣先均等・均衡方式」とは、派遣先の通常の労働者との均等・均衡を図るよう、待遇を決定する方式です。

「労使協定方式」とは、派遣元企業とその労働者の過半数で組織される労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、書面により労使協定を締結し、これに基づいて待遇を決定する方式です。

② 派遣先企業から提供される情報の管理を適切に行う

不合理な格差を生じさせないようにするには、派遣先企業からの情報が必要不可欠です。

そのため、派遣先企業から比較対象労働者の待遇に関する情報などが提供されます。

派遣先企業から提供される情報は、個人情報に該当するもののほか、個人情報に該当しないものも含まれます。

そのような情報の保管および使用についても、均等・均衡待遇の確保などの目的の範囲に限定するなど適切な対応をとることが求められます。

③ 待遇差に関して説明できるようにする

雇い入れ時や派遣時には、待遇決定方式に応じて派遣先の通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けない・差別的取扱いをしない旨や賃金の決定にあたって勘案した事項などを説明する必要があります。

派遣労働者から求めがあった場合には、なぜ待遇差があるのか適切な理由を説明しなければなりません。

例えば、派遣先均等・均衡方式を選択していて派遣労働者と派遣先で比較対象となる労働者との間に差異がある場合、どのような事項を考慮したのか、具体的にどのような内容の待遇となっているのか、最終的になぜ待遇差が生じたのかを企業は説明する必要があります。

派遣労働者が説明を求めたことを理由として、従業員に対し、不利益な取扱いすることは禁止されています。

④ 裁判外紛争解決手続き(行政ADR)に対応できるようにする

不合理な待遇差や差別的取扱いの禁止、説明義務、説明を求められたことによる不利益取扱いの禁止などに関して、トラブルとなった場合には、行政ADRによる非公開の紛争解決手続きを申請することができます。

無料で「都道府県労働局長による助言・指導・勧告」や「紛争調整委員会による調停」を求めることができます。

企業は、求めに応じで適切な文書を明示して説明できるようにしておく必要があります。

(2)派遣先企業に求められる対応

① 比較対象労働者の待遇に関する情報を提供する
② 派遣先管理台帳を作成、記載する
③ 教育訓練・福利厚生を付与する
④ 派遣元に派遣労働者に関する情報を提供する
⑤ 裁判外紛争解決手続(行政ADR)に対応する

① 比較対象労働者の待遇に関する情報を提供する

派遣先企業は、労働者派遣契約を締結する前に、受け入れる派遣労働者の待遇に最も近い労働者の待遇等に関する情報を派遣元企業に提供しなければなりません。

また、比較対象労働者の待遇等に関する情報が変更・更新された場合には、その都度、遅滞なく情報を提供する必要があります。

② 派遣先管理台帳の作成、記載する

派遣先企業は、派遣社員の労働日や労働時間などの就労実態を把握するため、原則として、派遣先管理台帳を作成しなければなりません。

例外的に作成不要とされるのは、受け入れる派遣労働者と受け入れる事業に雇用される労働者の合計が5人を超えない場合です。

③ 教育訓練・福利厚生を付与する

派遣先企業は、不合理な格差が生じないよう、派遣労働者に対しても業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施するなどの義務があります。

また、福利厚生施設の利用機会を与えることも必要です。

例えば、食堂や休憩室、更衣室については、利用の機会を与えなければなりませんし、保養施設などの利用に関しても便宜供与を講ずるよう配慮しなければなりません。

④ 派遣元に派遣労働者に関する情報を提供する

派遣先企業は、派遣元企業の求めに応じて、派遣労働者の業務遂行状況などの情報を提供するなど、必要な協力をするよう配慮しなければなりません。

⑤ 裁判外紛争解決手続(行政ADR)に対応する

派遣元企業と同様に、裁判外紛争解決手続き(行政ADR)に対応できるようにしておく必要があります。

求められた場合には、適切な文書を明示して説明できるようにしておきましょう。

4 「同一労働同一賃金」に違反した場合のリスク

企業が「同一労働同一賃金」に違反した場合、刑事罰が科されることはありません。

ただし、次のようなリスクがあることに注意しましょう。

(1)従業員から損害賠償を求められる
(2)行政処分や行政指導を受ける
(3)企業のイメージが悪くなる

(1)従業員から損害賠償を求められる

例えば、同一労働同一賃金に違反して、同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が生じている場合、非正規雇用労働者から待遇格差を補填するための損害賠償を請求される可能性があります。

実際に、従業員からの損害賠償請求が認められたケースは存在します。

(2)行政処分や行政指導を受ける

不合理な待遇差が生じている場合、労働局長から助言・指導・勧告が行われる可能性があります。

また、業務改善命令や公表といった厳しい措置がとられる可能性もあります。

(3)企業のイメージが悪くなる

「同一労働同一賃金」に違反したことが発覚した場合、企業に対するイメージが悪くなる可能性があります。

新規採用などに影響が生じる場合もあるでしょう。

5 まとめ

今回は、「同一労働同一賃金」について解説しました。

「同一労働同一賃金」は、同じ労働を行っているにもかかわらず、雇用形態が違うというだけで賃金格差が生じている場合に、このような格差を解消しようという狙いで導入されました。

企業には、雇用形態の違いによって、従業員間で不合理な格差が生じないよう対応することが求められます。

企業が「同一労働同一賃金」に違反してしまった場合には、従業員から損害賠償請求を受ける、行政処分や行政指導を受けるといったリスクが生じますので注意しなければなりません。もし、「同一労働同一賃金」でご不明な点がございましたら、労働紛争に強い弁護士の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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