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労働組合(ユニオン)から従業員の賃金アップや職場環境の改善などを求められることがあるでしょう。
令和4年7月に行われた厚生労働省による調査では、過去3年間において「団体交渉を行った」とする企業が68.2%であり、「団体交渉を行わなかった」とする企業が30.7%でした。
労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、会社としては、どのように対応すべきでしょうか。
今回は、団体交渉について解説します。
引用:令和4年 労使間の交渉等に関する実態調査 結果の概況|厚生労働省
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【経営者必見】労働組合との紛争から企業を守る4つの対策と弁護士の役割
目次
団体交渉とは、労働者の労働条件や労使関係に関する事項について、労働組合が使用者と交渉することをいいます。
略して「団交」と呼ばれることもあります。
基本的な特徴としては、双方が譲歩を重ねつつ合意を達成することを目標として行われ、話し合いがうまくいかない場合には、ストライキや訴訟などへ発展することもあります。
労働者の団体交渉権は、憲法や労働組合法で保障されています。
使用者は、正当な理由なく団体交渉を拒むことはできません。
使用者が正当な理由なく団体交渉を拒んだ場合、不当労働行為にあたると判断され、損害賠償を請求されるなどのリスクが生じてしまいます。
引用:憲法|e-Gov 法令検索
引用:労働組合法|e-Gov 法令検索
団交交渉権は労働者の権利ですが、交渉を求められたからといって、使用者はどのような交渉にも応じなければならないとかというと、そうではありません。
使用者がどうすることもできない事項について話し合いを強制されても、解決のしようがないためです。
使用者が交渉に応じなければならない事項は、報酬や労働時間などの労働条件その他の待遇に関する事項、団体的労使関係の運営に関する事項です。
このように、使用者が交渉に応じなければならない事項を「義務的団交事項」といいます。
これに対し、法的な義務はないものの、使用者が任意に団体交渉の対象として扱う事項を「任意的団交事項」といいます。
使用者である会社は、義務的団交事項について労働組合から団体交渉を求められた場合、誠実に交渉に応じる必要があります。
一方で、以下のような対応を行わないようにしましょう。
上でも述べましたが、使用者が交渉に応じなければならない事項(義務的団交事項)について、正当な理由なく交渉を拒否することは、違法となります。
団体交渉は、労働組合からの申入れによって開始され、団体交渉の申入れは、団体交渉申入書の送付によって行われます。
この団体交渉申入書の受取りを拒否する行為は、不当労働行為として違法と判断される可能性があります。
また、交渉を求められた事項について何ら検討をせず、誠実な説明もしないまま拒否回答を行うといった不誠実な対応も実質的に団体交渉を拒否したとみなされる可能性があるので注意しましょう。
団体交渉申入書を無視することもしてはいけません。
団体交渉申入書が突然出されると、内容がよく分からないからといった理由で、とりあえず放っておくというケースがあります。
しかし、何らの対応もしなければ不誠実な団体交渉として不当労働行為となってしまいます。
団体交渉申入書には、労働組合側の要望や交渉を希望する日程などが記載されているのが一般的です。
まずは内容を確認し、会社として、どのような対応をとるべきか判断しましょう。
原則として、団体交渉を一方的に打ち切ってはいけません。
団体交渉は、お互いが誠実に話し合うことが求められます。
一方的な交渉の打ち切りは、不誠実な団体交渉として不当労働行為にあたると判断される可能性があるため注意しましょう。
ただし、労働組合側の要望を必ず受け入れなければならないというわけではありませんので、誠実に交渉を重ねても、これ以上進展する見込みがない段階に至ることがあります。
そのような場合には、交渉の打ち切りが不当労働行為にあたらないと判断されることもあります。
団体交渉が申し入れられたことをきっかけに、労働組合員を特定しようとしてはいけません。
組合員を特定しようとした場合、組合員に対する不利益取扱いや脱退の働きかけの意図があると推認される可能性があります。
不当労働行為と判断されてしまう可能性もありますので、労働組合員の特定は行わないようにしましょう。
会社は、労働組合からの脱退を勧めてはいけません。
労働組合の運営に介入する行為は、労働組合への「支配介入」行為であり、不当労働行為にあたります。
組合の脱退を勧める行為は、労働組合の弱体化を図るものであり、労働組合の運営に介入する行為にあたります。
労働組合に加入したこと、加入していることを理由に不利益な取扱いをすることもしてはいけません。
このような行為は、「不利益取扱い」として禁止されており、不当労働行為にあたるためです。
団体交渉が開始されると、労働組合員による勧誘行為が活発になることがあります。
組合員が増えると、組合としての影響が大きくなります。
このような事態を阻止しようと、労働組合に加入したこと、加入していることを理由に従業員の不利益になるような人事異動を出したり賃金を減額したり行為は、不当労働行為に該当しうるので注意してください。
労働組合は、会社の施設や労働組合事務所での団体交渉を求めてきた場合に、これに応じることはお勧めしません。
会社の施設や労働組合の事務所は、当初予定していた終了時刻を過ぎても利用できてしまうため、話し合いがずるずると長引いてしまう可能性があるためです。
交渉を打ち切るきっかけを失うことにもなります。
また、会社の施設を利用して行う場合には、交渉に関与しない従業員にも知れることとなって、社内の秩序を乱すきっかけにも繋がりかねません。
ただし、あえて交渉に適しない場所を指定することは、交渉の拒否と評価されてしまう可能性があるため注意してください。
団体交渉に応じる義務はあっても、就業期間中の組合活動まで認める必要はありません。
従業員は、決められた就業時間中は職務に専念する義務がありますので、基本的には、就業時間中の組合活動を認めなくても不当労働行為にあたりません。
交渉の便宜を図らせるといった意図で、あえて特定の労働組合員に対して就業期間中の組合活動を認めたり、会社の施設を利用させたりする行為は、逆に不当労働行為に該当する可能性もありますので注意が必要です。
労働組合が会社に対し、議事録や確認事項といった団体交渉に関する書面について、署名押印を求めてくることがあります。
しかし、交渉段階において何らかの書面に署名押印しなければならないという決まりはありません。
内容を精査して慎重に判断した結果、署名押印するのであれば構いませんが、安易に署名押印してしまうと、意図しない効果に拘束されてしまう可能性がありますので注意しましょう。
団体交渉をただちに終わらせたいと考えて、労働者からの要望をすべて受け入れるようなことは避けましょう。
使用者は、正当な理由なく団体交渉を拒否してはいけません。
しかし、労働組合からの要望をすべて受け入れなければならないというわけでもありません。
団体交渉は、互いに話し合って、一定の事項についての問題を解決しようとする場です。
受け入れることができる内容については受け入れる、受け入れられない内容については受け入れることができない理由を説明するということが大切です。
できる限り誠実な対応を心がけるようにしてください。
団体交渉に応じたとしても、結果的に交渉が決裂してしまうこともあります。
もし、団体交渉が決裂してしまうと、以下のような事態が生じる可能性があります。
労働組合側としては、再度交渉する機会を設けて要求を通すために、圧力をかけてくる可能性があります。
具体的には、街頭宣伝や組合活動のためのビラ配り、ストライキ(同盟罷業)などです。
これらは、企業イメージ低下や会社の円滑な業務運営に対する支障というリスクを生じさせます。
団体交渉にあたっては、このようなリスクも考えて回答を検討する必要があるでしょう。
要求の実現を目指して、労働組合が労働委員会に対し、不当労働行為の審査の申立てをする可能性があります。
申立てがなされた場合、労働委員会は、会社側に不当労働行為があったかどうか審査を行います。
労働組合または会社によって、労働委員会に労働紛争のあっせん手続きを申請することができます。
あっせん手続きでは、双方の主張を聴いたうえで、事件が解決されるよう話し合いが行われることになります。
第三者が和解を勧めてくれることで解決しやすくなりますが、一般的に譲歩が求められるため、全く要求に応じられない場合には、解決が図られません。
労働審判の申立てが行われる可能性があります。
労働審判は、労働審判委員会が、労使間の紛争についての調停を行います。
労働審判委員会は、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織されており、雇用関係の実情や労使慣行等に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命され,中立かつ公正な立場で,審理・判断が行われます。
原則3回以内の期日で審理を終えることになっているため迅速な解決が期待できます。
裁判所への訴訟提起によって開かれる裁判です。
手続きが長期化しやすいため、会社の業務や信用に影響がでるリスクが生じます。
団体交渉を適切に進めるには、以下の4点が重要になります。
団体交渉の申入れがされたら、まずは申入書の内容を確認しましょう。
どのような労働組合なのか、その労働組合が何を求めているのか、求められている内容は交渉に応じなければならないものなのか、希望している日程はいつなのかといった内容です。
その内容を踏まえて、会社としての方針を定め、意思統一を図ることになります。
そのうえで、場所、日時、参加メンバーといった点を定め、回答書を作成・提出します。
参加メンバーについては、労働組合側から社長や代表者の出席を求められることもありますが、必ずしも社長や代表者が団体交渉に出席しなければならないという法的義務はありません。
むしろ、その場での決断や回答を求められることになりかねませんので、避けるべきでしょう。
あらかじめ要望に対する回答を準備しておき、交渉当日はこれに従って回答します。
想定される質問や反論してくることが予想される争点については、あらかじめ回答を準備しておくことをお勧めします。
法的な問題が生じそうな場合は、裁判例などをチェックしておくと無用なトラブルを回避することができるでしょう。
交渉当日は、話し合った内容などを記録に残しておきましょう。
団体交渉をスムーズに進めるうえで、言った・言わないの紛争は避けるべきです。
録音や録画することも一つの手段ですが、互いに自由な発言がしにくくなる可能性もありますので、事前に労働組合の決めておくのが良いでしょう。
法律の専門家である弁護士に相談することで、団体交渉を適切に進めていくことが可能になります。
申入書の内容を精査しても、会社では判断が難しいこともあるでしょう。
弁護士であれば、団体交渉に関する判断を適切に行うことができます。
交渉が決裂に終わり、最終的に裁判となってしまった場合の見通しなども踏まえて、会社がどのような行動をとるべきかといったアドバイスを得ることができるでしょう。
今回は、団体交渉について解説しました。
労働組合から団体交渉を求められた場合は、誠実に対応しましょう。
団体交渉が決裂してしまうと、ストライキや訴訟に発展してしまうリスクもあるため、適切に進めることが重要です。もし、団体交渉についてご不明な点がございましたら、労働紛争に強い弁護士である弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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