2025.01.17 2025年1月17日

支配介入とは?会社側が知っておくべき3つの事例や4つの注意点を弁護士解説

支配介入とは?会社側が知っておくべき3つの事例や4つの注意点を弁護士解説

労働組合法では、会社側(使用者側)が労働組合の自主性(独立性)・団結力・組織力を損なわせないよう不当労働行為制度が定められています。

不当労働行為をしてしまうと、労働委員会から救済命令が下されたり、損害賠償を請求されたりするなどのリスクが生じます。

今回は、そんな不当労働行為の1つである支配介入について解説します。

関連記事:【経営者必見】労働組合との紛争から企業を守る4つの対策と弁護士の役割

1 支配介入とは?

支配介入とは、会社側(使用者側)による労働組合の結成・運営に対する干渉行為や様々な組合弱体化行為のことです。

労働組合の自主的活動を妨げ、組合を弱体化する行為全般を指します。

会社側によって支配介入が行われると、組合の自主性が損なわれ、組合が弱体化し、対等な立場から従業員(労働者)の利益のために団体交渉等の活動を行うことが困難となるため、これを防止すべく法律によって禁止されています。

労働組合法
第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
(略)
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること(略)

2 どのような場合に支配介入となってしまうのか?

会社側(使用者側)が労働組合の自主性(独立性)・団結力・組織力を損なわせたと認められる場合に支配介入が成立します。

具体的には、使用者が支配介入意思をもって支配介入にあたる行為を行った場合です。

以下に挙げる点が重要となります。

(1)支配介入の主体
(2)支配介入の意思
(3)支配介入の態様

(1)支配介入の主体

原則として、支配介入を行う主体は使用者です。

会社の代表者である社長が使用者にあたることに問題はないでしょう。

しかし、実際の行為者が使用者である場合に限られず、役員や管理職、従業員、第三者などによる行為も、会社の支配介入として責任を負う場合があります。

例えば、使用者以外者が使用者から直接指示を受けて行った場合や、使用者以外の者が使用者の「意を体して」行った場合などです。

使用者の意向に沿って行為に及んだといえるような場合には、「意を体して」行ったといえるでしょう。

(2)支配介入の意思

支配介入が認められるには、会社側に支配介入の意思が必要となるかについて、見解は分かれています。

ただし、支配介入意思が必要であると考える場合であっても、積極的に支配介入しようとする意思までは必要でなく、単に反組合的な意図をもってすれば足りると考えられています。

裁判例では、その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ、または、生じるおそれの認識・認容があれば足りると判断されています。

(3)支配介入の態様

支配介入の具体的な態様は、法律で定められていません。

組合を弱体化する行為であると認められれば足りるため、様々な態様の行為が含まれます。

例えば、以下に挙げるような行為は、支配介入にあたる可能性があります。

・組合結成や組合活動を非難する言動
・従業員に対して組合に加入しないことや脱退を促すような働きかけ
・組合を主導している者に対する解雇・配転
・正当な組合活動への非難あるいは妨害
・組合活動を委縮させるような監視行為
・別組合との間における賃金などの差別

3 支配介入に関する会社が知っておくべき3つの事例

ここでは、支配介入に関する具体的な事例を3つご紹介します。

(1)使用者以外の者による発言が支配介入にあたるとされた事例(最判平成18年12月8日)

①事案の概要
労働組合内部における路線をめぐる対立から一部の組合員らが組合を脱退して新組合を組織し、両組合が対立するという状況において、従来から存在した組合の組合員である新幹線運転所の指導科長(助役)が新組合の従業員に対して行った「会社による誘導をのんでくれ。」「あなたは本当に職場にいられなくなるよ。」といった発言が、使用者の支配介入に当たるかどうかが争われたという事案です。

 ②裁判所の判断
裁判所は、新幹線運転所の指導科長(助役)が、使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者であること、使用者の意を体して発言したといえる事情から、不当労働行為(支配介入)と認めることはできないとした原審(二審)の判断を違法として、原審に差し戻しました。

 ③ポイント
支配介入を行った主体が使用者自身でなくとも、職制上の地位にある者が使用者の意を体して行ったと認められる場合には、支配介入が認められる可能性があります。

(2)正当な組合活動に対する発言が支配介入にあたるとされた事例(東京高判平成30年6月28日)

①事案の概要
学長選考の再考を求める労働組合のビラ配布行為に対して、学長が大学の信用失墜行為であると非難する発言をウェブサイトに掲載した行為が、使用者の支配介入に当たるか争われた事案です。 

②裁判所の判断
裁判所は、労働組合のビラ活動は正当な組合活動であること、学長が大学の信用失墜行為であると非難する発言をウェブサイトに掲載した行為は組合活動を委縮させ、組合を弱体化させるおそれがあるとして、支配介入にあたると判断しました。
 
③ポイント
正当な組合活動の一環として行われるビラ配布行為に対する非難は、組合活動を委縮させるものとして支配介入にあたると判断される可能性があります。

(3)組合集会等のための従業員食堂の使用を許諾しない状態が続いていることが支配介入にあたらないとされた事例(最二小判平成7年9月8日)

①事案の概要
会社(使用者)が、労働組合の結成通知以来、約9箇月にわたり、組合からの許可願の提出があれば業務に支障のない限り従業員食堂の使用を許可していたところ、就業時間後食堂で行われていた組合の学習会の参加者の氏名を巡回中の守衛が記録したことに反発した組合執行委員長らが右記録用紙を守衛から提出させたことを契機として、組合による食堂使用を拒否し、そのような状態が続いたことが支配介入にあたらないかが争われた事案です。

 ②裁判所の判断
裁判所は、会社が組合による食堂使用を拒否したのに対し、組合が、会社が食堂に施錠するまで5箇月近くの間、無許可で食堂の使用を繰り返し、その間、会社は食堂の使用に関し施設管理者の立場からは合理的理由のある提案をしたが、これに対する組合の反対提案は組合に食堂の利用権限があることを前提とするかのような提案であったなど判示の事実関係の下においては、会社が組合に対し組合集会等のための食堂の使用を許諾しない状態が続いていることをもって、不当労働行為(支配介入)に当たるということはできない。

 ③ポイント
会社には施設管理権があるため、基本的に施設管理権の濫用と認められない限り、組合に企業施設の利用を許諾しなくても支配介入にあたりません。これまで利用を許諾をしていたにもかかわらず、特に合理的な理由もないのに利用許諾をしないことは、権利濫用となる可能性もありますが、事例では、会社が食堂の使用に関し施設管理者の立場から合理的理由のある提案をしていたことから支配介入にあたらないと判断されています。

4 会社側が特に注意すべき4点

会社側の行為が支配介入にあたると判断される場合、会社が不当労働行為責任を追及される可能性があります。

そのような事態にならないよう、会社側としては以下の点に注意しましょう。

(1)反組合的な発言を行わない
(2)理由なく便宜供与を拒否・中止しない
(3)正当な組合活動を妨害しない
(4)他の組合を優遇しない

(1)反組合的な発言を行わない

会社が一定の言論を発表するにあたって、その内容や手段、時期に十分注意する必要があります。

会社と組合が対立している状態が続いている場合には、特に注意する必要があるでしょう。

裁判では、言論が組合員に対して威嚇的効果を与え、組合活動を委縮させる効果をもつような場合に支配介入が成立すると判断されることが多いです。

(2)理由なく便宜供与を拒否・中止しない

合理的な理由もなく、正当な組合活動に対し、これまで許諾していたにもかかわらず会社の施設利用を拒否したり、中止したりすることは避けましょう。

会社は、法律上、会社の施設を組合活動に利用させる義務はありません。

しかし、これまで利用許諾していた場合には、利用許諾することが労使慣行となっていたと判断される場合もありますし、労働協約などで認めているにもかかわらず合理的な理由なく一方的に拒否・中止することは、支配介入にあたると判断される可能性があります。

(3)正当な組合活動を妨害しない

勤務時間外に行われる集会やビラ配布など、正当な組合活動を妨害・排除してはいけません。

例えば、ビラを撤去するような場合には、正当な組合活動に基づいて行われたものであるかどうか慎重に判断する必要があります。

(4)他の組合を優遇しない

対立路線を図る組合を弱体化する目的で、協調路線を図る組合の組合員に対して優遇措置を行うことはやめましょう。

一方の組合に対する優遇措置は、他方の組合に対する弱体化行為と判断されうるため、支配介入にあたると判断される可能性があります。

優遇措置の内容は様々で、賃金はもちろんですが、施設の利用を特定の組合に対しては拒否したりすることも優遇措置にあたる可能性があります。

5 まとめ

今回は、不当労働行為の1つである支配介入について解説しました。

支配介入とは、会社側(使用者側)による労働組合の結成・運営に対する干渉行為や様々な組合弱体化行為のことです。

会社側(使用者側)が労働組合の自主性(独立性)・団結力・組織力を損なわせたと認められる場合に支配介入が成立します。

しかし、支配介入の具体的な態様は、法律で定められていません。

支配介入が成立すると判断される場合には、会社が不当労働行為責任を追及される可能性があります。

そのため、どのような態様を行うと支配介入が成立しうるのか、会社側は知っておく必要があるでしょう。

反組合的な発言や正当な組合活動を妨害したりしないよう注意してください。もし、支配介入を含む不当労働行為について、ご不明な点等ございましたら、労働紛争に強い弁護士である弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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