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越境ECとは,インターネットを通じた国際的な電子商取引のことです。
経済産業省が公表している統計によると,世界の越境EC市場規模は2021年の時点で7,850億USドルと推計され,その値は2030年には7兆9,380億USドルにまで拡大すると予測されています。
越境ECの主なメリットとしては,国内にいながら世界中の人に向けて自社の商品を販売・アピールすることができる,海外に実店舗を構えるよりも低リスク・低コストで海外ビジネスを展開することができるといった点が挙げられます。
そのため,中小企業であっても取り組みやすい販売形態と言えます。
参考:令和4年度 電子商取引に関する市場調査 報告書
そのような越境ECを活用することは,日本企業にとって大きなチャンスにつながる一方で,対面販売とは異なるリスクも存在し,法律を意識した対策を怠ってしまうと予期せぬ損害を被る可能性があります。国境を越えて事業を行うことから、顧客のいる国や地域の法律等が適用される可能性があるためです。
越境ECの市場規模をみると、米国と中国が突出して大きいことから、この2か国に所在する企業や消費者に向けて販売をしている会社は多いでしょう。日本の法規制のみならず,米中2か国の法規制にも特に注意する必要があるでしょう。
例えば,米国においては,EC事業に関連する多くの連邦法と各州法が存在します。一例として、連邦法としては、一般消費者向け製品について書面により何らかの保証を行うならMagnusson-Moss Warranty Actの適用を受けることになります。不正な広告等を規制する法令は数多くあり、連邦取引委員会(Federal Trade Commission、FTC)のウェブサイトには有用な情報が多くあります。個人情報保護に関しては多くの州において、包括的な個人情報保護に関する法律が制定されています。
中国では,「中華人民共和国電子商務法」がECに特化した法律として制定されており,基本的には,国内で問題となるEC事業における諸問題に対応しています。
越境ECは,大きなビジネスチャンスである一方,様々な法的リスクが存在することも事実です。
まずは,どのような法的リスクがあるのか把握することが重要です。
法的リスクは,どのような形態でECを行うかによって異なりますが,以下では,主な法的リスクをご紹介します。
日本に限らず,多くの国々において、個人情報を保護するための法律が存在します。
越境ECは国をまたぐ取引であり、取引に関係する国や地域の個人情報保護法に関係してきますので,個人情報の管理及び使用には慎重になる必要があります。
例えば,欧州連合(EU)では、GDPR(General Data Protection Regulationの略。EU一般データ保護規則)が日本でいうところの個人情報保護法に相当します。あなたの会社がEU加盟国に拠点を有していなくても、アマゾン等のプラットフォームを通じて欧州向けに商品を発送しているのであれば、適用があります。
アメリカのカリフォルニア州においては,個人情報保護を強化するため,“California Consumer Privacy Act”(CCPA)が制定され,2020年1月から適用が開始されており、その後も更なる権利保護のために改正されています。その他の州においても包括的な個人情報保護に関する法律が次々と制定されています。あなたの会社の事業が、それらの州法の適用を受ける場合には、注意が必要になります。
参考:California Consumer Privacy Act (CCPA)
中国においても,2021年11月1日,中国個人情報保護法(通称PIPL,“Personal Information Protection Law”)が制定されており,中国国内での個人情報取扱活動のほか,域外適用に関する規定も定められています。
参考:中国個人情報保護法について|在中国日本国大使館
商品を外国に送る際には,事前にその国の輸入にかかる規制を調べておく必要があります。取り扱いたい商品をその外国に送ることができなければ、事業を行うことはできないためです。
例えば米国の場合、税関・国境警備局(“Customs and Border Protection”,CBP)が、他の政府機関からの委託を受け、輸入禁止、制限の管理を行っており,何らかの制限が課せられたり、一定の基準を満たすことが求められたりする品目を挙げて説明しています。
その他にも,一定期間内に輸入される品目の数量を制限される輸入数量割当制(クォータ制:Import Quota)による規制など,様々な輸入規制が存在します。
参考:独立行政法人日本貿易振興機構
越境ECで海外へ商品を販売する際,関税が発生する可能性があります。関税については,国ごとに品目ごとの税率を理解することは専門家でなければ非常に困難であるため,関税の専門家にご相談されることをお勧めします。
参考:輸出統計品目表|財務省関税局
関税のほかにも、例えば米国では,売上税と呼ばれる間接税が導入されている州があります。売上税は、原則としては、消費者が物品を購入する際に課されるものであり、消費者に物品を販売する事業者が売上税を徴収する義務を負います。原則として、その州に従業員や財産等が存在しなければ売上税徴収のための登録及び売上税徴収の義務を負わないものの、たとえ財産等が存在しないとしても、その州の消費者への売上額が特定の額(概ね、年間US$100,000~500,000)を超えたり取引件数が特定回数を超える場合等は登録及び売上税の徴収義務が発生することがあります
(なお、売上額が特定の額を超えたり取引回数が特定回数を超えたとしても、アマゾン等の”marketplace facilitator”を通じた販売しか行わない場合は、marketplace facilitatorを通じて売上税が徴収されることから、登録等の義務を負わずにすむことがあります)。
参考:the Streamlined Sales Tax™ Governing Board
https://www.streamlinedsalestax.org/for-businesses/marketplace-sellers
日本で商標登録していても,販売先国で商標登録されていない限り,原則として,その商標は保護されません。商標権のみならず、特許権、意匠権等についても同じことが言えます。
対策を十分に講じることなく越境EC事業を開始してしまうと,将来的に,販売先の国において大量の模造品が発生する危険性がありますし、先に商標登録出願されてしまった場合には,商標権侵害で訴えられたりするなどの問題が生じる危険性があります。
特に,中国においてはそのような問題が多発しており,次の図にもあるとおり多くの相談案件が寄せられています。中国で越境ECを始める際には,自社ブランドにつき,中国で商標登録を出願し,商標権を先に取得しておくべきか、その他知的財産権についても事前に対策を施すか、費用対効果等を検討の上、事前に対応することが重要となります。
出典:特許庁「2023年版模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告 概要」
越境ECの拡大によって、中小企業であっても、海外への販路開拓の可能性が比較的容易に開けるようになりました。しかし、輸出した製品が思いがけず軍事転用されてしまえば、国際社会の平和と安全を脅かしてしまうおそれがあり、場合によっては外為法(外国為替及び外国貿易法)違反となってしまうかもしれません。
たとえ中小企業であったとしても、どんなに小規模の物品輸出であったとしても、外為法の規制を免れるわけではありません。
外為法に基づく規制は、次の図のとおり「リスト規制」と「キャッチオール規制」から構成されています。
経済産業省の安全保障貿易管理の次のURLから抜粋:
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply01.html
リスト規制とは、武器並びに大量破壊兵器等及び通常兵器の開発等に用いられるおそれの高いものを法令等でリスト化して、そのリストに該当する貨物や技術を輸出や提供する場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。リストは、経済産業省のホームページに記載されています。
キャッチオール規制とは、リスト規制にはあたらない(非該当)と判断された場合であっても、用途・需要者を確認して、大量破壊兵器等や通常兵器の開発等に用いられるおそれがある場合には、経済産業大臣の許可が必要になる制度です。
たとえあなたの会社がリスト規制に該当する貨物や技術を取り扱っていないとしても、どんなに小規模の輸出であろうとも、業として輸出・技術提供を行う者は次の①②の義務を負っています(外為法第 55 条の 10、輸出者等遵守基準を定める省令(経済産業省令第 60 号))ので、法令に反することがないように注意しましょう。
法的な対策としては,まず何よりも法規制を理解することが重要です。
自国の法規制についてはもちろんですが,自社がECを展開しようとしている国や形態において,どのような規制があるのか,どのような申請・許可が必要なのかきちんと理解することが対策としての一歩となります。
法的な規制を理解したとしても,意図せず利用者の個人情報が漏れてしまったり,他者の商標権を侵害してしまったりすることもあります。
万が一,紛争となった場合には,どのような解決法があるのか予め把握し,準備しておくことが重要です。
国際的な要素を有する私法上の法律関係について,どのような場合にどの国の法令が適用されるかという,準拠法の選択の問題があります。準拠法を決定するためのルールを定めた法を国際私法といいます。
越境ECといっても,その形態は様々ですが,契約や利用規約によって準拠法を定めることが可能な場合には,日本法を準拠法として定めておくことで、将来紛争が起こった際の予測可能性を確保することが考えられます。
しかし,ここで注意しなければいけないことは,準拠法を日本法と定めたからといって,必ずしも日本法が適用されることにはならないということです。
日本の国際私法上,消費者の常居所地法である法が適用される可能性がある点には注意しなければいけません。
準拠法は,基本的には訴えが提起された国の国際私法に従って決定されます。
例えば,中国の消費者に対して商品を販売し、当該消費者から中国の裁判所に訴えが提起された場合には,同国の国際私法に従って準拠法が決定されると考えられます。同国の国際私法である中華人民共和国渉外民事関係法律適用法によれば、中国の消費者との契約においては原則として消費者の常居所地法である中国法が適用されると考えられ(42条)、プライバシー等の人格権を侵害した場合には被権利侵害者の常居所地法である中国法が適用されると考えられます(46条)。
関連記事:海外進出を考える中小企業担当者必見!英文契約の準拠法(Governing Law)講座
多くの国において、製造業者等には,製造物の欠陥が原因で生命,身体又は財産に損害を与えてしまった場合に,被害者に対して損害賠償を負う製造物責任に関する法令が制定されており,問題があれば訴訟を起こされることもあります。
そのため,PL保険(生産物賠償責任保険)が存在します。
なお、アメリカでは、製造物責任法は,各州法によって規定されています。各州によって若干の違いがありますが、基本的に、製品の製造業者だけでなく、輸出業者、商社、製品の販売業者、部品の製造販売業者も被告になりえます。そして、集団訴訟(クラスアクション)によって、多数の消費者の被害を一つの訴訟手続で救済することが比較的容易であるため、被告には莫大な損害賠償責任が課される危険性があります。特に、懲罰的賠償制度(実際に発生した損害を大幅に超える額の損害賠償を認める制度)が存在していることから,実際に被害者が被った損害よりも大きな金額の賠償を求められる可能性もあります。
もし,裁判に負ければ巨額の損害賠償を行う必要が生じ得ますので,賠償金や訴訟費用,弁護士費用などを補償する「生産物賠償責任保険(PL保険)」に入っておくことが有効となる場合もあるでしょう。
今回は,越境ECで日本企業が直面する法的なリスクと対策について解説しました。
越境ECのメリットは,国内にいながら世界中の人に向けて自社の商品を販売・アピールすることができる,海外に実店舗を構えるよりも低リスク・低コストで海外ビジネスを展開することができるなどとといった点です。
このようなメリットから,中小企業にとっても取り組みやすく,大きなビジネスチャンスといえるでしょう。
しかし,対面販売とは異なるリスクも存在し,法律を意識した対策を怠ってしまうと予期せぬ損害を被る可能性もあります。
どのような法的リスクがあるのか把握した上で,展開しようと考えている国の法規制について理解することが,法的な対策の一歩といえるでしょう。
記事の中で挙げた法的リスクや対策は一部に過ぎず,法律に違反しないためには,法律や税務といった専門的な知識が不可欠です。
越境ECをご検討の際には,一度弁護士や税理士等にご相談されることをお勧めいたします。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズハイ
永田 順子弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
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