Joint Development Agreement共同開発契約



はじめに

複数の企業等が、新製品や新技術の開発や改良などを協力して行う場合に必要となるのが共同開発契約です。ここでは、共同開発契約の中で頻繁に問題となる重要なポイントのうち、知的財産権の帰属について記載しています。

なお、共同開発契約においては、通常、発明、考案、意匠、著作物その他の知的財産権の目的となるものと、知的財産権(特許権、特許を受ける権利、実用新案権、実用新案登録を受ける権利、意匠権、意匠登録を受ける権利、著作権その他の知的財産権)を分けて規定するものの、ここでは単に「知的財産」又は「IP」と記載します。

知的財産

1バックグラウンド技術と
フォアグラウンド技術の区別

共同開発契約においては、バックグラウンド技術と共同開発を通じて生み出された技術であるフォアグラウンド技術(開発成果)を分けて考えるのが一般的です。

ここでは、バックグラウンド技術とは、各当事者が、共同開発契約の署名締結時において既に保有しているか、又は、共同開発契約とは無関係に開発された知的財産のことを指すこととします。
バックグラウンド技術については、その知的財産を生み出した当事者に権利が帰属することを規定するのが一般的でしょう。

例)バックグラウンド技術の定義の一例

“Background IP” of a Party means Intellectual Property that is already established (i.e., owned or controlled) by such Party as of the Effective Date or is developed or acquired by such Party outside the scope of the Joint Development during the term of the Agreement.

参考訳:

各当事者の「バックグラウンドIP」とは、本契約発効日時点で当該当事者が既に確立している(所有又は支配している)知的財産権、又は、本契約期間中に共同開発の範囲外で当該当事者が開発又は取得した知的財産を意味するものとする。

自社が既に保有していたバックグラウンド技術にもかかわらず、共同開発を通じて得られた成果と混同してしまうと、後々、共同開発の相手方から、 共同開発を通じて得られた成果であり相手方にも(一部)権利が帰属する等と主張されてしまいトラブルが生じるおそれがあります。
そのような主張を受けないようにするための一つの方法として、契約締結当時において既に保有しているバックグラウンド技術を、可能な限り契約書の別紙等に例示列挙して自社のバックグラウンド技術を明示することもあります。
特許庁「オープンイノベーションポータルサイト」内の共同研究開発契約書(新素材編)のモデル契約書においては、(i)特許出願になじむ技術情報(例:ノウハウ・データ・ソースコード以外のもの)については特許出願をしておく。(ii) (i)以外の技術情報については、公証制度やタイムスタンプサービスの利用により、共同開発契約締結時に既に保有していたという証拠化を図るという管理方法が紹介されており、参考になります。
実務上、このような管理ができておらず、バックグラウンド技術と開発成果が混同されてしまうことがあれば、契約書の記載が幾ら整っていても意味がないことになりかねないため、管理には細心の注意をはらうようにしましょう。

なお、バックグラウンド技術(つまり、自社の保有技術)を含む、営業秘密の管理方法については、次の経済産業省のウェブサイトが参考になります。
経済産業省
「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html

2開発成果の帰属

ここでは、開発成果、つまり、共同開発を通じて、契約当事者の一部又は全当事者が生み出した知的財産をフォアグラウンド技術と言うこととします。その場合の定義の一例としては、次のような規定が考えられます。

例)

“Foreground IP" means Intellectual Property that may be either solely or jointly created, made, conceived or reduced to practice by the Parties during the course of and as part of the Joint Development that results from the Joint Development contemplated by, set forth in, and/or performed under, this Agreement during the term of this Agreement and in the performance of this Agreement. Foreground IP shall not include Background IP.

参考訳:

「フォアグラウンドIP」とは、本契約の期間中に本契約の履行において、共同開発の過程で共同開発の一部として各契約当事者が単独又は共同して発明、考案又は実用化した知的財産を意味する。
フォアグラウンドIPには、バックグラウンドIPは含まれないものとする。

ア) 開発成果を、発明等した者が属する当事者に帰属させる方法

多くの国や地域の法律においては、知的財産が新たに生み出された場合、その知的財産は、発明者に帰属します。自社と共同開発相手方の両方が共同で新たな知的財産である開発成果を生み出した場合は、原則として、自社と相手方間の両者に帰属することになります。
そうすると、共同開発で新たに知的財産が生み出された場合に、その知的財産を生み出した技術者が属する会社に知的財産を帰属させる(自社技術者と相手方技術者が共同で開発したなら共有)と決めることが考えられます。
この取決め方法は、シンプルで公平なルールとしてどちらの契約当事者にとっても受け入れられやすいように思います。
しかし、この方法によっては、必ずしも契約当事者、又は全当事者の利益の最大化に資するとは言えないこともあることから注意しましょう。
共同開発に関する当事務所の別のサイトもご参照ください(現在準備中)。

例)

(1) All Foreground IP conceived or created by or for Party A pursuant to its responsibilities under this Agreement shall as between the Parties, be the sole and exclusive property of Party A, and Party A will retain any and all rights to file any patent and/or copyright applications thereon.
(2) All Foreground IP conceived or created by or for Party B pursuant to its responsibilities under this Agreement shall as between the Parties, be the sole and exclusive property of Party B, and Party B will retain any and all rights to file any patent and/or copyright applications thereon.
(3) Unless otherwise expressly designated hereunder, any Foreground IP first discovered, conceived or created jointly by one or more of employees of Party A and one or more of employees of Party B in the course of performing development under this Agreement, shall be jointly owned by the Parties.

参考訳:

(1) 本契約に基づく責任に基づき、当事者Aが着想し、又は当事者Aのために創作したすべてのフォアグラウンドIPは、両当事者間において、当事者Aの単独かつ排他的な財産であり、当事者Aは、それに関する特許及び/又は著作権の出願を行う一切の権利を保持するものとする。
(2) 本契約に基づく責任に従って当事者Bによりまたは当事者Bのために考案または作成されたすべてのフォアグラウンドIPは、両当事者間において、当事者Bの単独かつ排他的な財産であり、当事者Bは、それに関する特許および/または著作権の出願のためのあらゆる権利を保持するものとする。
(3) 本契約で明示的に指定されていない限り、本契約に基づく開発の過程で、1名以上の当事者Aの従業員と1名以上の当事者Bの従業員が共同で最初に発見、考案または創作したフォアグラウンドIPは、両当事者が共同で所有するものとする。

イ) 開発成果の技術分野によって帰属先を決める方法

例えば、自動車部品メーカーA社と機械学習開発のサービスを提供する企業B社が、プレス加工製品を製造する工場において、AIを活用した品質検査を導入するためのシステムを共同開発することにしたとします。A社としては、自社の営業秘密等を含む情報の漏洩やA社の協業他社に対して当該システムを流用されることを防ぐことができれば、研究成果に係る知的財産権を取得する必要はなく一定の成果を独占的に利用できれば問題ないかもしれません。
この場合は、プレス加工製品の品質検査に関する成果はA社に帰属させ、残りはB社に帰属させてA社は必要なライセンスのみ得ることが考えられます。
ただし、このような取決め方法は、生み出された研究成果が事前に合意した類型のいずれにも当たらない場合にどちらに帰属させるべき技術なのかで争いが生じる可能性があるというデメリットもあります。

開発成果帰属の定め方には、上述に限らず多種多様なものがあります。その際には、ライセンスや優先交渉権、共同開発費の負担等を合わせて検討することになります。

3ライセンス

開発成果の帰属に関する規定とともに、バックグラウンド技術及び開発成果のライセンスの必要性について検討しましょう。
共同開発契約において、共同開発に必要な範囲にライセンスを限定して規定することもあれば、将来の商用ライセンスについても規定することもあります。

例)

Each Party hereby grants the other Party during the Term of this Agreement, a non-exclusive, fully paid up, research only, indivisible and non-transferable license, without rights to sublicense to third party, of its Background IP, solely for the purpose of, and to the extent necessary, to enable the other Party to carry out its obligations under this Agreement.

参考訳:

各当事者は、本契約期間中、相手方当事者に対し、相手方当事者が本契約に基づく義務を遂行するために必要な目的に限り、自己のバックグラウンドIPに基づき、非独占的、全額払込済、研究にのみ実施可能な、不可分かつ譲渡不能なライセンス(第三者へのサブライセンス権を含まない)を許諾するものとする。

商用ライセンスについても規定する場合には、ライセンス契約において通常重要となる次のような事項について慎重な交渉が必要になります。
‐用途、契約製品又はサービス
‐範囲(販売、製造、製造させる、輸入、輸出等)
‐サブライセンス権の有無
‐実施料およびそれに関する規定
‐独占権(付与する場合にはその範囲や条件)
‐期間、解除権、経営支配権が移転した場合の規定等

4優先交渉権

開発成果が自社に帰属するのではない場合、つまり、相手方に帰属する場合や相手方との共有とする場合には、相手方が第三者に対して開発成果を譲渡しようとする場合やライセンスを与えようとする場合に、優先交渉権を規定する必要がないか検討しましょう。
優先交渉権を得る方の立場であれば、どのような条件が揃い、どのような手続きを踏めば優先交渉権を得ることができるのか明確にするようにしましょう。逆の立場であれば、手続きや優先交渉権を与える期間について明確にしていなければ、後でトラブルが発生しかねないため注意しましょう。

実際の実務においては、知的財産権に関する規定について、様々な取決め方法があります。全ての契約は、その目的に沿って設計することが大事であり、ここで記載している事項が当てはまらない場合もあります。
国内、海外問わず、共同開発についてご不明な点があれば、当事務所までお気軽にお問合せください。

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