Non Disclosure Agreement秘密保持契約



はじめに

相手方との間で何らかのビジネスを開始するかどうか検討する際に、一番初めに締結するものであり、最も頻繁に目にする契約の一つです。
経済産業省や中小企業庁のホームページには、秘密保持契約のひな形として用いることができる日本語の契約書例が公開されています。

秘密保持契約は、典型的な条文が記載されたものが多いものの、自社の立場(情報開示側か受領側か、両方の立場がありうるのか)や、開示する可能性がある情報の内容等によって、重要となるポイントが変わりうるものです。
以下は、秘密保持契約における典型的な条文のうちのいくつかについて、情報の開示者の観点から解説します。

1目的

秘密保持契約においては、開示者の情報の利用目的(「本目的」)を具体的に定め、受領者は、本目的のためだけに開示者情報を利用し、それ以外の目的では利用してはならない旨を定めます。したがって、開示者としては、「本目的」が何を指すのかを限定的に規定したほうがよいといえます。特に、重要な情報を開示する場合は、本目的を限定的に記載するようにしましょう。

例)

Each of the parties to this Agreement intends to disclose the Confidential Information (hereinafter defined) to the other party for the purpose of discussing the possibility of the parties entering into a joint venture (the Purpose).

参考訳:

本契約の各当事者は、両者が合弁事業を行う可能性について協議することを目的として(以下「本目的」という。)、相手方に対し、(以下において定義する)秘密情報を開示する。

2秘密情報の定義

(1) 秘密指定の必要性の有無

秘密と指定した情報だけを秘密情報とするのか、そうではなく合理的に相手方の秘密情報と考えられる情報は秘密情報として取り扱うことにするのかを決めます。
例えば、次の例においては、秘密情報が有体物として開示される場合は、開示者が開示等する際に秘密である旨を明示した情報に限らず、合理的に秘密情報と考えられる情報が秘密情報に含まれることになります。

例)

“Confidential Information” shall mean all information furnished by the Disclosing Party to the Receiving Party, whether orally, in writing, electronically or in other tangible form, and identified as confidential or proprietary at the time of disclosure by the Disclosing Party or otherwise disclosed in a manner such that a reasonable person would understand its confidential nature. Where the Confidential Information has not been reduced to written or other tangible form at the time of disclosure, and such disclosure is made orally or visually, the Disclosing Party agrees to identify it as confidential or proprietary at the time of disclosure.

参考訳:

「秘密情報」とは、開示者から受領者に対して開示された、口頭、書面、電磁的その他有形的方法に関わらず、開示者が開示の際に秘密である旨を明示した情報及び開示の際に合理的に秘密と理解されるだろう方法で開示された情報をいう。秘密情報が、書面その他の有形物によって開示されずに口頭又は視覚的に開示された場合、開示者は、開示の際に、当該情報が秘密情報であることを指定するものとする。

上述の例においては、開示者としては、有体物については秘密指定をしなくても、秘密とすべき情報は秘密情報として相手方に扱ってもらえることから、安心できるように読めます。
しかし、だからといって、実務運用上、開示者が、このような規定に安心して、秘密であることの表示を怠ることはお勧めできません。
開示者が、受領者が秘密保持契約に違反したと考え、受領者に対して契約違反を主張しても、受領者からは、問題となった秘密情報を受領していないと反論を受けることも考えられます。秘密情報を開示する際には、秘密である旨の表示を付した上で開示し、どのような情報をいつ、どこで、誰に対して開示したのか、記録するようにしましょう。そうすれば、開示者が受領者に対して、秘密情報を開示したことについて証明できるようになると考えられます。

(2) 本契約自体等を秘密情報に含めるか

場合によっては、相手方との間で秘密保持契約書を締結したこと自体や、相手方との間で本目的について協議していること自体を秘密にしたいこともあるでしょう。
その場合には、次のような規定を加えることが考えられます。

例)

“Confidential Information” shall also include this Agreement, the fact that information contemplated herein has been made available to either party, and the fact that the parties are contemplating the Purpose.

参考訳:

「秘密情報」には、本契約、本契約で企図する情報が当事者に提供された事実、及び、当事者が本目的を企図している事実が含まれるものとする。

(3) 除外項目

自社が相手方の秘密情報の受領を一切しない場合はともかく、そうでない限りは、次の例のように、秘密情報の対象外とする情報を規定するようにしましょう。

例)

Notwithstanding the foregoing, the following will not constitute the Confidential Information for purposes of this Agreement: (i) information which is or becomes generally available to the public other than as a result of a disclosure by the Receiving Party in breach of this Agreement; (ii) information which was known to the Receiving Party on a non-confidential basis prior to being furnished to the Receiving Party by the Disclosing Party; (iii) information which becomes available to the Receiving Party on a non-confidential basis from a source other than the Disclosing Party, and (iv) information that is independently developed by the Receiving Party who have not had access to the Confidential Information.

参考訳:

以下のものは、本契約上、秘密情報には該当しない。(i)受領者が本契約に違反して漏洩したのではなく、既に公知であるか又は公知となった情報、(ii)開示者から受領者に提供される前から、守秘義務を負うことなく受領当事者に知られていた情報、(iii)開示者以外の情報源から秘密情報としてではなく受領者に提供された情報、(iv)秘密情報に接触することなく受領者が独自に開発した情報

(4)目的外利用の禁止

開示者としては、秘密情報を本目的以外の他の目的で用いることを明確に禁じるようにしましょう。

例)

The Confidential Information shall be used solely by the Receiving Party to evaluate and implement the Purpose, and shall not otherwise be used.

参考訳:

秘密情報は、受領者が本目的の評価および実施のためにのみ使用するものとし、その他の用途には使用しないものとする。

上述した規定以外にも、秘密情報の複製の取扱い、法令による開示、秘密情報の破棄・返還、損害賠償、秘密保持期間などの定めを設けるのが一般的です。国際契約であれば準拠法や裁判管轄(又は仲裁)等の規定も必要になります。開示する情報の内容によっては輸出管理法制の遵守の観点も必要になります。
国内、海外問わず、秘密保持契約についてご不明な点があれば、当事務所までお気軽にお問合せください。

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