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ここでは、ユーザの業務をコンピュータで処理可能にするためのソフトウェアの開発委託について記載します。この種の契約は、ユーザの業務や必要とするシステムをベンダ側が理解しなければ適切にソフトウェアを開発することができないため、ユーザとベンダが意思疎通を慎重に図りながら、これから開発するソフトウェアの中身を確定していかなければならない点に特徴があります。ベンダ側にはシステム開発に関する専門的知識があるのに対し、ユーザ側にはその知識があるとは限りません。しかし、ユーザが必要とするソフトウェアがどのようなものかは、ユーザの知見なしに検討できません。ユーザの業務についてはベンダ側には十分な知識がないことから、ユーザに教えてもらう必要があります。したがって、ユーザの立場であっても、ベンダの立場であっても、どのようにして開発内容を確定し、どちらがどの業務をどの範囲まで行うのか、役割分担を具体的に定めることが大切です。
なお、独立行政法人情報処理推進機構及び経済産業省がモデルとなる契約書として、「情報システム・モデル取引・契約書」第二版を公開しています。考え方が説明されており、モデル契約書とその条文の解説も掲載されています。 参考URL:独立行政法人情報処理推進機構「情報システム・モデル取引・契約書」 https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20201222.html ここでは、重要と考えられる点のうち、役割分担、保証、知的財産権の帰属、損害賠償責任、再委託、及び第三者ソフトウェア等の利用について以下に記載します。
上記のとおり、ベンダがどの役割を担い、ユーザがそれに対してどのような協力をする義務を負うのかについて、明確に取り決める必要があります。これができなければ、後にトラブルが生じた際に責任の押し付け合いとなり紛争が激化することになりますし、そもそもよいシステムを作り出すことは難しいでしょう。役割分担は、契約書の本文に記載するのではなく、契約書の別紙として添付されるSpecification(仕様書)やStatement of Work(SOW、作業範囲記述書)において詳しく記載することが一般的です。仕様をどのように確定していき開発していくのかについて、エンジニアやソフトウェアを必要とする事業部門から綿密な聴き取りをして、彼らと共同して契約書を作成することで、できる限りトラブルを減らすようにしましょう。
ベンダがユーザに対して保証する内容や範囲、期間を規定します。ベンダの立場からは、保証事項を明確に限定し、それ以外については保証責任を負わないことを明確にすべきことになります。ユーザとしては保証される事項が必要十分か確認する必要があります。
(1) Developer warrants that during the Warranty Period:(i) all Software shall be, and as installed in the Operating Environment (or any successor thereto) shall function in all respects, in conformity with this Agreement and the Specifications; and(ii) any media on which any Software is delivered shall be free of damage or defect in design, material, and workmanship, and shall remain so under ordinary use as contemplated by this Agreement and the Specifications.(2) If the Developer breaches any of the warranties set forth in the sub-Section (1), Developer shall, upon written notice from Customer and at Developer’s sole cost and expense, remedy such breach in accordance with Exhibit. In the event Developer fails to remedy such breach on a timely basis, Customer shall be entitled to such remedies as are specified in Exhibit or as may otherwise be available under this Agreement, at law, or in equity. Nothing in this sub-Section (2) shall limit Customer’s right to indemnification pursuant to Section **.
(1)受注者は、保証期間中、以下を保証する。(i)本動作環境(またはその後継環境)にインストールされた本ソフトウェアが、すべての点で本契約、本仕様書に従って機能すること、及び(ii)引渡しされた本ソフトウェアの媒体に、設計、材料、および製造上の損傷または欠陥がなく、本契約および本仕様書で想定される通常の使用下でその状態が維持されること。(2)受注者が前項(1)の保証条項に違反した場合、受注者は、発注者からの書面による通知を受けて、受注者の費用において、別紙のとおり違反を是正する。受注者が適時に違反を是正しない場合、発注者は別紙、本契約又は法律に基づき利用可能な救済を受ける権利を有する。本項(2)は第**条に基づき得られる発注者の権利を制限するものではない。
DISCLAIMER. EXCEPT FOR THE EXPRESS WARRANTIES SET FORTH IN THIS AGREEMENT, EACH PARTY HEREBY DISCLAIMS ALL WARRANTIES, WHETHER EXPRESS, IMPLIED, STATUTORY, OR OTHERWISE, WITH RESPECT TO THIS AGREEMENT.
免責 本契約に定める明示的な保証を除き、各当事者は明示であると黙示であるとを問わず、法定その他の全ての責任を負わない。
上記の「情報システム・モデル取引・契約書」第二版の「(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)」においては、「モデル契約書(第45条)において、ベンダにすべての著作権を帰属させる場合【A案】、汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外をユーザに権利を帰属させる場合【B案】、汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権をベンダへ、それ以外を共有とする場合【C案】」が挙げられています。取引条件の交渉時における力関係において、ベンダが優位な地位にあれば、上述の案が受け入れられる可能性があります。ただし、現実には、次の例のように従来からベンダが保有していた技術を除きユーザに帰属させる例も多いように思います。
(1) Developer shall retain all right, title, and interest in and to all of the Background Technology, including all Intellectual Property Rights therein.(2) Except as otherwise expressly stated herein, Customer shall own all right, title, and interest in and to all Work Product, including all Intellectual Property Rights therein, and Developer hereby assigns, transfers, and otherwise conveys to Customer all of its right, title, and interest therein. Customer shall have the exclusive right to apply for or register any patents, mask work rights, copyrights, and such other proprietary protections with respect thereto. Developer shall execute such documents, render such assistance, and take such other actions as Customer may reasonably request, at Customer’s expense, to apply for, register, perfect, confirm, and protect Customer’s rights in or to any Work Product or any Intellectual Property Right therein. Developer shall irrevocably waive any and all claims Developer may now or hereafter have in any jurisdiction to so-called “moral rights” with respect to the Work Product.
(1) 受注者は、バックグラウンド技術に関するすべての権利利益(バックグラインド技術に含まれる全ての知的財産権を含む)を保持する。(2) 本契約に明確にこれと異なる規定がされていない限り、発注者は、本成果物に含まれる知的財産権を含むすべての権利、権原および利益を有するものとし、受注者は、当該権利、権原および利益を発注者に対して譲渡、その他の方法で移転するものとする。発注者は、それらに関する特許権、マスクワーク、著作権、その他の権利の出願や登録申請等をする排他的権利を有する。受注者は、発注者の費用負担で、本成果物又は本成果物に含まれる知的財産権に対する発注者の権利を申請、登録、完成、確認、保護するために、発注者が合理的範囲で要求する書類を作成し、支援を提供し、その他の行動を取るものとする。受注者は、現在及び今後も、いかなる地域においても、本成果物に関する著作者人格権を撤回不能な形で放棄する。
準拠法を日本法とする場合には、ユーザとしては、著作権法61条2項が「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定していることから、著作権法第27条及び第28条に規定する権利も移転の対象となる旨を明記する必要があるので注意が必要です。
ベンダとしては、「システム開発を一から受託する」のではなく、「パッケージソフトウェアをベースとしたシステム開発を受託する」というビジネスを構築できるのであれば、パッケージソフトウェアをアップデートして事業を継続していく必要性等を相手方に対して説明することにより、新たに構築した開発部分についてもベンダに(一部)権利を帰属させる規定を設けやすいかもしれません。
ベンダとしては、損害賠償責任を負う範囲、金額、請求期間等を制限する規定をおくほうが望ましく、ユーザとしてはその反対(できるだけ制限しない方が望ましい)になります。
IN NO EVENT WILL EITHER PARTY BE ENTITLED TO INCIDENTAL, INDIRECT, CONSEQUENTIAL, OR PUNITIVE DAMAGES, INCLUDING WITHOUT LIMITATION, LOST PROFITS, LOST REVENUES OR BUSINESS INTERRUPTION BASED ON ANY BREACH OR DEFAULT OF THE OTHER PARTY. IN NO EVENT SHALL DEVELOPER BE LIABLE TO CUSTOMER FOR ANY AMOUNT IN EXCESS OF THE FEES ACTUALLY PAID BY CUSTOMER TO DEVELOPER HEREUNDER.
いずれの当事者も、相手方当事者の違反又は不履行に基づく逸失利益や事業の中断その他の損害について、付随的、間接的、結果的又は懲罰的な損害について賠償を請求する権利を有しないものする。いかなる場合においても、本契約に基づき発注者が受注者に対して実際に支払った料金を超える金額について、受注者は発注者に対して責任を負わない。
ベンダとしては、(一部)業務を再委託することを予定している場合には、再委託がどのような条件のもとで認められるのか明確に規定しておきましょう。
Developer shall not, without the prior written approval of Customer, which consent shall not be unreasonably withheld or delayed, engage any Third Party to perform Services hereunder. Customer’s approval of any such Third Party shall not relieve Developer of its representations, warranties, or obligations hereunder.
受注者は、発注者の書面による事前承認(承認は不当に保留又は遅延してはならないものとする。)なしに、本契約に基づく本業務の実行を第三者に委託してはならない。発注者が、第三者に対する再委託を承認したとしても、受注者は本契約に基づく表明、保証、又は義務から免れるものではない。
近年では、受注者がゼロから全ての開発を行う例は少なく、第三者ソフトウェアを利用したり、オープンソースソフトウェアを利用する場合が多いと思われます。次は、第三者ソフトウェアを用いる場合の一例です。
Developer shall not include in any Software, and operation of all Software shall not require, any Third-Party Materials, other than Third-Party Materials specifically described in the Statement of Work for such Software.Developer represents that if Software are used in accordance with this Agreement, such use shall not violate any license terms for the Third-Party Materials. DEVELOPER MAKES NO OTHER REPRESENTATION, WARRANTY, OR OTHER COMMITMENT REGARDING THE THIRD PARTY MATERIALS, AND HEREBY DISCLAIMS ANY AND ALL LIABILITY RELATING TO CUSTOMER’S USE THEREOF.
受注者は、本ソフトウェアに関する本SOWに特に記載されるサードバーティマテリアル以外のサードパーティマテリアルを、本ソフトウェアに含めてはならず、本ソフトウェアの運用に必要としないようにする。受注者は、本ソフトウェアが本契約に従って使用される場合、その使用がサードパーティマテリアルのライセンス条項に違反しないことを表明するものの、それを除き、受注者は、サードパーティマテリアルについて表明、保証、その他の約束をせず、発注者の使用に関して一切の責任を負わない。
第三者ソフトウェアを用いる場合は、第三者ソフトウェアに不具合があったとき等にどうするのか明確にするようにしましょう。
オープンソースソフトウェアを用いる場合は、コードのどの部分がオープンソースであり、どのようなコードが選択されたのか、コードのメンテナンスはどうするのか、そのコードを使用するためにユーザが遵守すべきライセンス条項はどのような内容か、について確認し、契約書に明記するようにしましょう。
以上は、システム開発委託契約を作成する際に問題となることが多い点を一例として挙げたにすぎず、現実には、重要となる点は契約毎に異なるものです。実際に契約書を締結する必要が生じた場合には、専門家に相談されることをお勧めいたします。
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