受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)
昨今、ニュースを見ていると、「労災隠し」が後を絶えません。
今年だけでみても、リニア中央新幹線のトンネル工事現場で男性作業員が手首を骨折したにもかかわらず、雇用主である建設会社が速やかに報告しなかった事例、輸入ペットフードの包装と加工を行う会社の倉庫内で商品を下ろしていた際に、2.2メートルの高さから転落し右腕を骨折したにもかからず、会社が報告しなかった事例など、様々な労災隠しの事例が取り上げられています。
労災隠しは、犯罪行為です。今回は、そんな労災隠しについて解説します。
目次
休業を要するような労働災害が起こったにもかかわらず、事業主が労働基準監督署に対して労働者の死傷病報告を行わない、または虚偽の報告をすることをいいます。
労働災害とは、業務や通勤が原因で怪我を負ったり病気になったりすることです。
労働安全衛生法では、労働災害により労働者が死亡又は休業した場合、企業は労働基準監督署にその労働災害を報告しなければならないことが定められています。
労災保険料の値段が上がる(労災を使うと必ず労災保険料が上がるわけではありません。一定要件を満たした場合には上がりますが,中小企業の場合,要件を満たさず上がらないことが多い印象です。事業者の方は労災を使った場合に上がるどうか確認しましょう。)、手続きが面倒であるなど様々です。
労災が発覚すれば、従業員の労働環境が劣悪なものであったと評価される可能性もあり、会社のイメージダウンにつながります。
そのような会社のイメージダウンを防ぐために労災隠しを行う企業も少なくありません。
しかし、このような行為は逆効果であることに注意する必要があります。
労災隠しが発覚すれば、回復することが困難になるほどのイメージダウンを招いてしまう可能性があります。
最も典型的な例は、従業員が業務中にケガをしたにもかかわらず、会社に報告せず、健康保険を利用して治療させることです。
従業員に口止めする、事故原因を偽って報告するといった行為も労災隠しに該当します。
雇用形態に関係なく労災保険への加入は義務であるため、アルバイトだから、契約社員でだからといった理由で「労災がおりない」と告げるといった行為も労災隠しに該当します。
労災隠しを行うと、企業にとって次のようなリスクが生じます。
事業主が労働基準監督署に対して報告を怠った場合には、50万円以下の罰金が科せられます(労働安全衛生法120条5号)。
労災隠しは、犯罪であることに留意しましょう。
企業にとって、50万円以下の罰金は、それほど大きな額ではないかもしれません。
しかし、労災隠しが発覚すると、書類送検され、企業のイメージダウンにつながり、社会的信用を大きく失う可能性があります。
労災隠しが発覚することによるイメージダウンは、労働災害が発覚することによるイメージダウンよりも甚大であることに注意しなければなりません。
労働災害の発覚は、発生後の企業の対応次第で、企業のイメージダウンを一定程度抑えることができるでしょう。
一方で、労災隠しは、隠そうとした行為自体が非常に悪質であり、企業責任が厳しく問われます。
信用の回復は容易でなく、企業の存立をも脅かすほどの影響が生じる可能性もあります。
労災隠しが発覚すると、従業員の労働意欲が低下します。
労災隠しを行うような会社で働きたくないと考えるのが通常であり、結果として、従業員が離職してしまう可能性があります。
企業が労災隠しを防ぐためには、以下のような対策を講じることが有効です。
そもそも労働災害が発生しなければ、労災隠しが行われることはありません。
そのため、労働災害の発生を防止することで、労災隠しのリスクを減らすことができます。
企業内において安全衛生教育を徹底し、労働災害が発生しない労働環境づくりを行いましょう。
例えば、労働安全衛生法に関連する知識、安全な作業方法や作業手順、緊急時の対応方法などの教育を実施することがあげられます。
安全衛生教育を徹底することで、従業員の安全意識が高まり、労働災害の発生を未然に防ぐことができます。
日頃から安全衛生教育を徹底していたとしても、労働災害が発生してしまうことがあります。
もし、労働災害が起こってしまった場合には、スムーズに労働基準監督署へ報告できるような体制を構築しておくことが重要です。
休業が必要な労働災害が発生した場合には労働基準監督署への報告が必要であることを周知し、誰が、いつ、どのように報告するのか明確にしておくことで、迅速かつ適切な対応がとれるようにしておきましょう。
そのような報告体制を構築しておくと、労働災害が発生してしまった場合にスムーズな対応が可能となり、労災隠しを未然に防ぐことができるでしょう。
労災保険制度とは、労働者の業務または通勤が原因で怪我を負ったり病気になったりした場合に、必要な保険給付を行い、あわせて被災した労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。
企業としては、労災保険制度に関する知識を習得し、労災が発生した場合に適切な対応がとれるよう準備しておく必要があります。
例えば、労災保険の加入手続きや労災申請の手続き、労災給付の種類などの知識を習得しておくことが望ましいでしょう。
労災保険制度に関する知識を習得し、適切に対応できるよう準備しておくことで、労災隠しを防止することができます。
労働災害が発生した場合に、すぐに相談してサポートを受けることができる環境を整えておくことも有効です。
社会保険労務士や弁護士などの専門家は、労災に関する法律や制度に精通しており、具体的な事案に応じた適切なアドバイスを受けることができるでしょう。
例えば、労災発生時の対応、労働災害に関する調査、必要となる資料や証拠の収集、労災保険に関する手続きなど、サポート内容は多岐に渡ります。
専門家のサポートを受けることで、労災隠しを防ぐための体制を強化することが可能となります。
関連記事:社内トラブルから企業を守る!内部通報窓口を弁護士に依頼する5つのメリット
もし、企業が労災隠しを行ってしまった場合、そのまま放置してはいけません。
労災隠しは後に発覚する可能性があり、その場合には罰則が科されるだけでなく、企業の大きなイメージダウンにつながります。
なぜ、労災隠しが発覚するのかというと、被災した従業員からの告発や医療機関からの通報があるためです。
企業としては、ただちに次のような対応をとることが望ましいでしょう。
まずは、事実確認を行い、現状を把握することが重要です。
労働災害が発生したのはいつか、被災した従業員の症状や治療状況はどうなっているのか、どのような労災隠しが行われたのか、関与していた者は誰かなど、労働隠しにまつわる事実を確認しましょう。
労災隠しに関わった者が複数いる場合も少なくありません。
個別に聞取りを行うなど、誤った情報が入り込まないよう注意する必要があります。
現状を把握し、労災隠しが確認できたら、ただちに労働基準監督署に報告しましょう。
労災隠しは犯罪ですから、決して放置してはなりません。
報告する際には、労災隠しが行われた事実や経緯、被災した従業員の情報などを伝える必要があります。
労働基準監督署から調査を求められた場合には、誠実に対応しましょう。
被災した従業員に対して補償を行う必要があります。
例えば、治療費の支払いや休業手当の支払いなどが挙げられます
被災した従業員に対して誠意を持って対応し、支援することが求められます
企業は、今後再び労災隠しが行われないよう再発防止策を講じる必要があります。
具体的な防止策については、上記「3 労災隠しを防ぐための対策とは」をご参考ください。
再発防止策を講じことで、労災隠しが行われない安心・安全な労働環境を作ることができるでしょう。
今回は、労災隠しについて解説しました。
労災隠しとは、休業を要するような労働災害が起こったにもかかわらず、事業主が労働基準監督署に対して労働者の死傷病報告を行わない、または虚偽の報告をすることをいいます。
労災隠しが行われた場合には、企業に罰則が科されるだけでなく、甚大なイメージダウンにつながる可能性もあります。
企業には、労働災害発生時の報告体制を構築するなどの必要な対策を講じることが求められるでしょう。もし、労働災害や労災隠しに関してご不明な点がございましたら、労働紛争に強い弁護士の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
ご相談など、お気軽にお問い合わせください。
06-4394-7790受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)