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昨今,副業・兼業が促進されており,実際に副業・兼業している従業員は珍しくありません。
従業員が隠れて副業をしていた場合,会社は当然に懲戒処分することができるのでしょうか。今回は,従業員の副業が発覚した場合の懲戒処分について解説します。
目次
平成29年3月,働き方改革実現会議により「働き方改革実行計画」が決定されました。
これを踏まえ,厚生労働省は,企業も従業員も安心して副業・兼業に取り組めるようガイドラインを作成しています。
令和4年7月に改定されたガイドラインでは,副業・兼業の方向性が示されています。
以下は,その内容を一部抜粋したものになります。
上記内容を踏まえると,企業としては,副業・兼業のメリットや留意すべき点を理解し,企業の利益を守りつつも労働者が副業・兼業を行える環境を整備することが望まれます。
引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省
就業規則は,その内容が合理的でなければ効力が認められません。。
労働時間以外の時間をどのように使うかは,労働者の自由です。
また,労働者には,職業を選択する自由もあります。
にもかかわらず,労働時間以外の時間で副業・兼業を全面的に禁止することは,合理的であるとはいえません。
そのため,就業規則で副業・兼業を全面的に禁止することは認められません。
従業員には,職場外における私生活が尊重され,職業選択の自由が認められます。
一方で,職務に専念する義務(職務専念義務)や,会社の利益を不当に侵害しないよう配慮する義務(誠実義務)負います。
いくら労働者の自由が認められる,副業・兼業が促進されているといっても,結果として,従業員が長時間労働になってしまったり,会社に対する労務提供に支障がでてしまったりしてはいけません。
そこで,就業規則で,副業や兼業する際には会社の許可を得なければならないと定めることには,合理性があるとされています。
そのため,副業・兼業を許可制とすることは認められます。
副業・兼業を許可制にしたとしても,従業員の申請に対して会社が常に不許可とすることはできません。
次のような場合に限って,副業・兼業申請を不許可とすることが認められます。
上記①~④に該当しないにもかかわらず不許可とした場合,その不許可が有効なものとして認められない可能性があります。
仮に,従業員が会社の信用を損なう行為をしようとしていたり,競業により会社の利益を害するおそれがあると認められたりする場合には,そのような行為をさせないよう差止請求を検討する必要があるでしょう。
実際に,従業員が業務上の秘密を漏えいしたり,競業他社で副業・兼業して自社の利益が害されたりした場合には,後述するよう,懲戒処分の問題となりえます。
また,実際に会社が損害を被ったといえる場合には,従業員に対し,損害賠償請求が認められる可能性もあります。
会社に損害を与えるような行為が発覚したことにより従業員が辞める場合には,退職金の減額が認められる場合もあります。
会社が就業規則で副業・兼業につき許可制を定めているにもかかわらず,従業員がこれに反して許可なく副業・兼業を行った場合,会社は懲戒処分できるのでしょうか。
会社が懲戒処分を行うには,次の条件を満たす必要があります。
就業規則に懲戒事由が定められていなければ,懲戒処分を行うことができません。
従業員が無断で副業・兼業した場合には,懲戒処分を行うことができる旨を就業規則に定めておく必要があります。
また,従業員が無断で副業・兼業したとしても,いきなり懲戒処分の内容が不相当に重い場合には,権利濫用として無効となる可能性があります。
懲戒処分が無効とされる場合,従業員から損害賠償を請求される,会社の信用が低下するなどの可能性があります。
実際に懲戒処分を行う際には,前もって慎重に検討する必要があるでしょう。
懲戒処分を検討する際の注意点については,後述の「4 会社が懲戒処分を検討する際の注意点」で詳しく解説します。
副業・兼業を不許可とすることが認められる場合に,不許可としたにもかかわらず,従業員がこれを無視して副業・兼業を行った場合には,懲戒処分が認められる可能性があります。
しかし,前述したように,副業・兼業申請を不許可とするには,不許可とすることができる場合に該当する必要があります。
例えば,労務提供上の支障がないにもかかわらず,副業・兼業を不許可とし,従業員がこれを無視して副業・兼業を行った場合といった場合には,会社はこれに対して懲戒処分を行うことはできません。
不許可とすることができるかどうかの判断は,具体的な事案に基づいて実質的に行われます。
そのため,副業・兼業の内容や拘束時間などを精査し,慎重に決定する必要があるでしょう。
会社は,職場の秩序を維持する必要があります。
そのため,前述した条件を満たす限りにおいて,従業員を懲戒処分することが認められます。
しかし,懲戒処分は,従業員に一定の制裁を課すものであるため,従業員が懲戒処分の有効性を争うことも少なくありません。
特に最も重い処分である懲戒解雇は,非常に問題となりやすい労働紛争の1つです。
もし,解雇が無効であると判断されれば,会社は,従業員に対し,解雇から現在にいたるまでの給与を支払う義務が生じます。
また,会社の社会的信用が低下し,従業員が離職してしまう可能性もあるでしょう
本当に就業規則に定めた懲戒事由に該当するか,検討している懲戒処分の内容が重すぎないか,当該従業員の言い分もきちんと聞いているかなどを再確認し,慎重に決断することが求められます。
参考記事:懲戒解雇は最終手段!会社側が抱える3つのデメリットとは?
京都地裁平成24年7月13日判決(マンナ運輸事件)
会社(被告)が,準社員(原告)からのアルバイト許可申請を数度にわたって不許可にしたため,準社員が会社に対し,不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案です。
裁判所は,以下のように述べたうえで,請求の一部を認めました。
東京地裁平成20年12月5日判決(東京都私立大学教授事件)
私立大学の教授(原告)が無許可で語学学校講師等の業務に従事し,講義を休講したたため,大学側(被告)が懲戒解雇しました。
この懲戒解雇は無効であるとして,地位の確認などを求めた事案です。
裁判所は,以下のように述べたうえで,解雇を無効としました。
東京地裁昭和57年11月19日決定(小川建設事件)
女性社員(原告)は,会社(被告)に無断で,毎日6時間にわたってキャバレー(接待飲食店)で働いていました。
会社は無断就労を理由として解雇したため,この解雇が無効であるとして,地位の保全を求めた事案です。
裁判所は,以下のように述べたうえで,解雇(普通解雇)を有効としました。
東京地裁平成3年4月8日判決(東京メデカル・サービス・大幸商事事件)
医療用機器・医薬品を販売している会社(被告)に勤務していた従業員(原告)が,競業他社の代表取締役となり会社の取引先と取引を行ったため,会社がこの従業員を懲戒解雇しました。
従業員は,会社による解雇が無効であるとして,会社に対し,未払賃金や損害賠償を請求した事案です。
裁判所は,以下のように述べたうえで,解雇(懲戒解雇)を有効としました。
大阪地裁平成元年6月28日決定(定森紙業事件)
和洋紙業並びに紙製品の販売を生業とする会社(被申請人)に,営業関係の事務として勤めていた従業員(申請人)が,同種の営業をしている妻の会社営業に関与したなどとして、会社から懲戒解雇された事案です。
この懲戒解雇が無効であるとして,雇用契約上の権利を有する地位の保全と未払い賃金を求めました(地位保全と金員支払の仮処分の申請)。
裁判所は,以下のように述べたうえで,解雇(懲戒解雇)を無効としました。
今回は,従業員の副業が発覚した場合の懲戒処分について解説しました。
就業規則で副業・兼業を全面的に禁止することはできませんが,許可制とすることは認められます。
従業員が無断で副業・兼業した場合には,懲戒処分を行うことができる旨を就業規則に定めておけば,会社は,従業員に対し,懲戒処分することが可能となります。
しかし,不許可としても常に懲戒処分が認められるわけではない点に注意しましょう。
懲戒処分が無効と判断されれば,会社は一定の不利益を負う可能性があります。
無断の副業・兼業に対しての懲戒処分は,事実を精査したうえで慎重に行わなければなりません。もし,従業員の副業・兼業でご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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