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会社は,利益を追求するとともに従業員が気持ちよく働けるよう,職場の秩序を維持する必要があります。
そこで,会社は一定の場合に,従業員(社員)を懲戒処分することができます。
しかし,懲戒処分の中でも特に懲戒解雇は,従業員の職を失わせる最も重い処分です
そのため,懲戒解雇の有効性は慎重に判断されます。
では,どのような場合に懲戒解雇が有効なものとして認められるのでしょうか。
また,懲戒解雇が行う場合,会社にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。今回は,懲戒解雇について詳しく解説します。
目次
懲戒解雇は,懲戒処分の1つであり,会社が社内の秩序を著しく乱した従業員に対して課すペナルティのことです。
懲戒解雇が認められるには,次に挙げる4つの条件を満たす必要があります。
会社が自社の判断で自由に懲戒処分できるとなると,従業員が安心して働くことができません。
あらかじめ就業規則において,懲戒の種別と事由を定めておくことが必要とされています。
種別とは,戒告やけん責,減給,降格,出勤停止,論旨解雇,懲戒解雇などです。
懲戒解雇については,別に条項を設けて懲戒事由を列挙するのがよいでしょう。
就業規則は,適用を受ける事業場の従業員に「周知」しなければなりません。
従業員の行為が就業規則に定められた懲戒事由に該当することが必要です。
あらかじめ定めた懲戒事由に該当しなければ,懲戒処分が認められません。
就業規則には,あらかじめ様々な懲戒事由を定めておく必要があります。
労働契約法では,当該懲戒が,労働者の行為の性質,態様,その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,権利の濫用として無効になると規定されています。
その他の事情としては,労働者の情状(反省の有無など)や,他の労働者の処分との均衡といった会社側の対応などが挙げられます。
解雇の相当性には,懲戒事由と懲戒処分の重さのバランスが要求されます。
懲戒処分は,適正な手続きにのっとって行われる必要があります。
特に懲戒解雇は従業員に与える影響が大きいため,従業員に対してあらかじめ懲戒事由を告知して弁明の機会を与える必要があります。
懲戒解雇によって企業の秩序を維持することが可能となります。
一方で,懲戒解雇にともなうデメリットもあります。
会社は,デメリットをよく理解したうえで懲戒解雇を行う必要があるでしょう。
懲戒解雇にともなう企業側のデメリットは次の通りです。
懲戒解雇に限らず,解雇はその有効性をめぐって労使間で最も紛争となりやすい事案の1つです。
従業員が納得しなければ,解雇が無効であると主張されかねません。
ひとたび紛争となってしまうと,時間や費用,労力がかかってしまいます。
そのため,懲戒解雇は慎重に行う必要があるでしょう。
懲戒解雇が無効と判断されたり和解しようと考えたりする場合,会社に金銭的負担が生じる可能性があります。
例えば,解雇が無効となる場合には,従業員に対して解雇から現在にいたるまでの給与を支払う必要が生じます。
また,和解のためには解決金を支払う必要も生じるでしょう。
懲戒解雇が無効となれば,会社の社会的な信用の低下を招き,従業員が離職してしまう可能性が生じます。
不当な懲戒解雇は,従業員のモチベーション低下に繋がるでしょう。
また,採用にも悪影響を与えかねませんので,不当な懲戒解雇にならないよう注意しなくてはなりません。
懲戒解雇で問題となる典型例をご紹介します。
ただし,次に挙げる例に該当するからといって,ただちに懲戒解雇が有効なものとして認められるわけではない点に注意してください。
特に代表的な例は,横領行為です。
横領行為の事案では,たとえ少額であっても懲戒解雇が有効とされるケースがあります。
また,痴漢や窃盗などの社外における犯罪行為についても,懲戒解雇が問題となりえます。
重大な犯罪行為が会社に与える影響が大きいと認められる場合には,懲戒解雇が有効とされる可能性があります。
従業員が会社から指示された業務に背く場合です。
例えば,配置転換に従わない,残業を命じても拒否する,特定の業務をしないといった場合です。
業務命令違反と一口に言っても,その内容や頻度は様々です。
軽微であったり,1回限りであったりする場合には,懲戒解雇が無効とされる可能性があります。
長期にわたって無断で欠勤している社員を放置しておくことは,会社の秩序乱すことになります。
どこからが長期なのかという問題がありますが,およそ2週間以上が基準になるでしょう。
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントといったハラスメントが認められる場合です。
例えば,部下に対して暴言を吐く,同僚の体に触れるといったケースです。
基本的に,一回の行為で懲戒解雇が認められることはありません。
内容や回数などから悪質であると認められる場合に,懲戒解雇が認められる可能性があります。
出身校や年齢を偽るといった場合です。
会社の採用プロセスに対する背信行為として,懲戒解雇が認められることがあります。
例えば,高卒か大卒かで賃金や業務の等の待遇が異なる場合には,重大な経歴詐称として懲戒解雇が認められる可能性があります。
逆に,大卒であるのに高卒であると過少申告した場合でも同様です。
会社の技術や顧客データが漏えいすると,会社に甚大な被害が生じる可能性があります。
会社の存立にも影響をおよぼすため,従業員が秘密情報を漏えいさせた場合には,懲戒解雇が問題となりえます。
従業員が秘密情報を社外に持ち出した意図などによって判断されます。
家で仕事をする目的で持ち出し漏えいしてしまったといった場合には,背信性が低く,懲戒解雇が認められない可能性があります。
一方で,他企業に情報を流すなど背信性が高い場合には,懲戒解雇が認められる可能性が高くなります。
従業員が社内や取引先で不倫していた場合も,懲戒解雇が問題となりえます。
ただし,基本的に私生活上の範囲の行為ですので,職場で性的行為を行っていた場合などの例外的な場合に限り懲戒処分が認められます
配置転換で対処可能である,企業の信用に与える影響が少ないといった場合には,懲戒解雇まで認められる可能性は低いです。
懲戒処分は,以下の順序に沿って慎重に進めましょう。
就業規則に懲戒の種別と事由が定められていなければ,懲戒処分を行うことができません。
また,就業規則における懲戒解雇事由は,具体的に列挙されている必要があると考えられています。
必ず,どのような事由が懲戒解雇の対象となるのか明示しておきましょう。
就業規則が作成された場合には,周知する必要があります。
事業場の見やすい場所に備え付けるなどの方法で,従業員に対して周知しましょう。
懲戒事由に該当可能性のある事案が発生した場合には,当該行為が実際に懲戒事由に該当するのか調査する必要があります。
当該行為が就業規則に定められた懲戒事由に該当するといえるのか,慎重に調査を行いましょう
後日紛争となった場合には,事実の有無を客観的に判断できる証拠が必要となりますので,この段階で集めておきましょう。
就業規則などに定められた懲戒手続を実施します。
懲戒解雇を行うにあたっては,特に弁明の機会の付与が重要となります。
適切な懲戒手続が実施されないと,懲戒解雇が無効となる可能性がありますので慎重に行いましょう。
調査に基づいて認定した事実,本人の反省具合や会社に与える影響などを総合的に考慮して,懲戒処分を決定します。
その際,過去にあった同様の事案と比べて厳しい処分をくだす場合には,なぜ今回は厳しい処分をくだすのかといった理由を説明できるようにしておく必要があります。
従業員に対し,処分の内容や処分の理由を明記した懲戒処分通知書を交付します。
就業規則に懲戒処分通知書の交付が規定されていない場合であっても,従業員に最終的な確認をさせ,今後の行動を改善させたり後日の紛争を防いだりするために交付することをお勧めします。
懲戒処分の公表は,法律上の義務ではありません。
しかし,懲戒処分を公表することで,職場の規律遵守の徹底や同種事案の再発防止を図ることが期待できます。
事案が社会に公になっている場合には,会社の信頼の回復を図ることも期待できるでしょう。
名誉毀損となる可能性もありますので,氏名まで公表するかはケースバイケースです。
今回は,懲戒解雇について解説しました。
懲戒解雇は,会社の秩序を維持するうえで重要な役割を果たします。
しかし,従業員に与える影響が大きいため,解雇の有効性をめぐって争いになる可能性があります。
会社は,懲戒解雇デメリットをよく理解したうえで,慎重に手続きを行う必要があるでしょう。
懲戒解雇は,最終手段であると認識することが肝要です。もし,懲戒解雇についてご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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