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厚生労働省が令和5年に発表した統計によれば、メンタルヘルスの不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は、13.3%でした。
仕事量や仕事での失敗、対人関係などで不安や悩み、ストレスを感じている従業員の割合が多く、そのような不安などを長期間抱えていると、うつ病になってしまう従業員も少なくありません。
もし、従業員がうつ病になってしまい、働けない期間が長引いてしまったら、会社を辞めてもらうことはできるのでしょうか。
今回は、うつ病になってしまった従業員の解雇について解説します。
引用:「労働安全衛生調査(実態調査)」|厚生労働省
目次
結論からいうと、従業員が病院でうつ病だと診断された場合、うつ病だからという理由だけでただちに解雇することはできません。
会社が従業員を解雇するには、客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上相当であると認められる必要があります。
単に従業員がうつ病であるという理由だけでは、客観的に合理的な理由があるとはいえません。
そのため、もし会社がうつ病であるということのみを理由として解雇した場合には、解雇が不当であると判断される可能性があります。
引用:労働契約法|e-Gov 法令検索
従業員がうつ病だと診断されただけでは、会社は解雇できないと述べました。
しかし、次のような場合には、解雇が認められる可能性があります。
うつ病の原因が会社の業務とは一切関係なく、家庭や友人トラブルなどのプライベートによるものであり、会社に対して労務が提供できない状況が続けば、最終的に解雇できる場合があります。
例えば、プライベートでの金銭トラブルによってうつ病となり、そのことが原因で従業員が休職し、休職期間が満了したにもかかわらず復帰が不可能といった場合です。
このような場合に解雇することは、客観的に合理的な理由が認められる可能性があります。
一方で、うつ病の原因が会社にある場合には、原則として、従業員のうつ病が回復に要する期間とその後30日間、会社は解雇することができません。
このような制限に反して会社が解雇してしまうと、不当解雇となり、解雇が無効となるうえ損害賠償請求されてしまう可能性があるため注意しましょう。
従業員が3年以上にわたってうつ病治療を続けている場合、会社が平均賃金の1200日分の打切補償を支払えば解雇することができます。
引用:労働基準法|e-Gov 法令検索
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職するよう勧めることをいいます。
従業員が自発的に退職することを促す活動であり、基本的には、会社が自由に行うことができます。
しかし、自由にできるといっても限度があるため、会社としては慎重に行う必要があるでしょう。
従業員の自由な意思に基づいて合意する必要がありますので、会社が従業員に対して、心理的に不当な圧力を加えることは許されません。
暴言や罵声を浴びせたり、退職しなければ不利益を与えることを示唆したりすることは、違法な退職勧奨として損害賠償を請求される可能性があるため注意しましょう。
実際に、会社の執拗な退職勧奨によって慰謝料請求が認められたケースは存在します。
従業員がうつ病になってしまった場合、以下のような対応をとりましょう。
従業員からうつ病であるとの申告を受けた場合、まずは診断書の提出を求めましょう。
まだ従業員が病院の診断を受けていない場合もあります。
早急に医師の診断を受けてもらい、診断書を受け取りましょう。
診断書を受け取ったら、従業員から話を聞きましょう。
療養に専念するため休職が必要なのか、仕事量の調整や配置転換などによって負担を軽減させることで足りるのかを検討し、適切な配慮を行う必要があります。
休職が必要な場合には、就業規則を確認しましょう。
就業規則に休職制度が定められている場合には、それに従うことになります。
休職中の連絡先や休職期間、復職などについてよく話し合ったうえで休職してもらいます。
就業規則に休職制度の定めがなくても休職させることは可能です。
しかし、休職期間満了後の扱いや給与の支払、休業手当の支払いの有無など、慎重に検討する必要があるでしょう。
従業員が復帰可能かは、医師の判断を踏まえたうえで慎重に判断する必要があります。
また、本人の意向を聞くことも重要です。
医師の判断と本人の意向を踏まえ、復帰する際の業務時間や業務内容なども検討したうえで、復帰可能か判断しましょう。
既に述べましたが、退職勧奨は、会社が従業員に対して自発的に退職することを促す活動であり、基本的にどのタイミングで行うかは自由です。
しかし、相当と認められる態様によって行われる必要があり、やり方次第ではうつ病を悪化させてしまったり、違法な退職勧奨となってしまったりする可能性があります。
そのような場合には、従業員から損害賠償請求される可能性があるため慎重に行いましょう。
もし、退職や解雇といった話を持ち出すのであれば、一度弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。
会社には、労働契約に伴い、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する義務があります。
このような義務を「安全配慮義務」といいます。
会社としては、従業員の健康を守るため、次のような対策をとることが考えられます。
有休取得や残業の際のルールなど、従業員に配慮した規定が設けられているか見直しましょう。
従業員や労働組合の意見を聞き入れ、労働条件などを改善することによって、従業員が働きやすい環境作りが可能になります。
就業規則の変更には、注意しなければならないルールがあります。
詳しくは、下記コラムをご覧ください。
参考:見落としがち!就業規則の変更が無効となる3つのケースとは?正しい変更手続きを弁護士解説
必要でない業務をなくす、優先順位を決める、作業マニュアルを作成するなどといった方法により、業務の適性化・効率化を図りましょう。
適性に人員が配置されておらず、業務効率が低下している場合もあります。
まずは、現状の業務内容を確認し、そのうえで業務内容や人員配置の適性化・効率化を図りましょう。
記事の冒頭でご紹介した厚生労働省の発表によれば、企業が取り組んでいる最も多いメンタルヘルス対策は、ストレスチェックの実施です。
従業員のストレスにいち早く気づけることが、従業員のうつ病対策として重要になります。
また、相談窓口の設置やメンタルヘルス研修の実施、医師による検診・指導など多くのメンタルヘルス対策を取り入れている企業も存在します。
労働者の異変をいち早く察知し、迅速に対処できるような体制を整えておきましょう。
今回は、うつ病にかかってしまった従業員の解雇について解説しました。
従業員がうつ病と診断されただけで、ただちに解雇することはできません。
しかし、うつ病の原因が会社の業務とは一切関係なく、家庭や友人トラブルなどのプライベートによるものであり、会社に対して労務が提供できない状況が続けば、最終的に解雇できる場合があります。
退職勧奨はいつでも行うことができますが、執拗な退職勧奨をしてしまうと従業員から損害賠償請求される可能性があるため慎重に行いましょう。もし、従業員の退職や解雇についてご不明な点がございましたら、労働紛争に強い弁護士の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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