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国内における多くの会社が、従業員に対して通勤手当を支給しています。
会社としてのメリットは、福利厚生として従業員の満足につながること、求職者にとっての魅力につながること、一定額までは非課税であるため節税効果を得られることなどが挙げられるでしょう。
一方で、従業員が通勤手当を不正受給するというデメリットも少なからず生じます。
従業員が通勤手当を不正受給していることが発覚した場合、会社はどのような対応を採ることができるのでしょうか。
今回は、通勤手当の不正受給について解説します。
参照:令和2年職種別民間給与実態調査の結果 通勤手当の支給状況|人事院
目次
通勤手当(交通費)の不正受給は、主に以下の3つのパターンに分けることができます。
従業員が会社に申請している通勤経路にかかる交通費と、実際に使用している通勤経路にかかる交通費との差額を得るというものです。
例えば、会社には電車通勤であると申請しているにもかかわらず、実際には家から、あるいは途中の駅から徒歩や自転車などを利用して通勤しているというケースです。
従業員が引っ越しなどによって通勤経路が変更しているにもかかわらず、通勤経路が変わったことを会社に申請せず、差額の交通費を得るというものです。
変更後の通勤経路にかかる交通費が、変更前の通勤経路にかかる交通費よりも安い場合に不正受給となり得るでしょう。
従業員が会社に対して、遠くの住所を申請しているにもかかわらず、実際には会社の近くに住所を有していて、
遠くの住所を基準とした通勤手当を得るというものです。
虚偽の住所を会社に申請しているため、非常に悪質であるといえるでしょう。
従業員による通勤手当の不正受給を放置していると、会社は本来支払う必要のない手当を支払っているわけですから、会社に不利益が生じ続けます。
また、ある従業員の不正受給に気付いている他の従業員がいる場合には、職場の士気が下がってしまったり秩序が乱れたりしてしまう可能性があります。
そこで、従業員による通勤手当(交通費)の不正受給が疑われる場合、会社は以下のような対応を採るべきです。
本当に不正受給の事実があるのか確認する必要があります。
また、一概に不正受給といっても方法や態様は様々ですから、その悪質性を判断するには、正確な事実を確認する必要があります。
まずは、通勤手当の不正受給に関する事実関係を調査しましょう。
調査にあたっては、本人からの聴き取りを行うことも重要です。
不正受給している期間が非常に短い場合には、単に住所変更の申請を忘れているだけかもしれません。
事実関係を調査したうえで、不正受給の事実が確認できたら、次に従業員に対する処分を検討します。
何ら処分をしないことも1つの対応ですが、職場の士気や秩序を維持するためにも適切な判断が求められるでしょう。
単なる申請漏れである場合には、戒告やけん責といった注意で済ますことができるかもしれませんが、非常に悪質と判断される場合には、より重い降格や懲戒解雇を検討することもあります。
ただし、懲戒処分を有効に行うには、就業規則に種別や事由が定められている必要があります。
参考記事:懲戒処分の種類は7つ!会社が適切な処分を選択する方法を弁護士解説
懲戒処分の種類は7つ!会社が適切な処分を選択する方法を弁護士解説
不正に受給した通勤手当を給与等から差し引くことはできません。
法律で、賃金は全額支払わなければならないことが定められているためです。
しかし、不正に受給された通勤手当は、会社にとって損害にあたります。
そのため、不正受給を行った従業員に対して、返還を求めることができます。
不正受給があったこと会社が知った時から5年、不正受給が行われ時から10年で時効となりますので注意してください。
参照:e-Gov法令検索|労働基準法
会社が通勤手当を不正受給していた従業員に対して懲戒解雇を行った場合、従業員がその有効性を争うことがあります。
従業員に対する解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、裁判所によって無効と判断されます。
裁判所によって解雇が無効と判断されてしまった場合、会社の誤った判断に基づく解雇によって従業員が働くことができなくなったわけですから、会社は従業員を解雇した日から現在に至るまでの賃金等を従業員に支払わなければなりません。
どのような場合に、通勤手当の不正受給を理由として従業員に対する解雇が認められるのか知っておく必要があるでしょう。
ここでは、通勤手当を不正受給していた従業員に対する懲戒解雇が有効とされた事例、無効とされた事例をそれぞれご紹介します。
従業員は、会社に出勤しても一日の大半は上司に届け出ることなく職場の自席を離れて連絡が取れない状態になってしまい、その間会社の業務を遂行しなかったこと、約4年半にわたり虚偽の住所を会社に届け出て通勤手当の支給を受け、約231万円の通勤手当を不正に受給していたことを理由に、会社が懲戒解雇したという事案です。
裁判所は、上記2つの事実によれば、会社は懲戒解雇を行うに足りる十分な根拠があると判断しました。
結果として、会社による懲戒解雇は、有効であったと判断しています。
ポイントとしては、従業員がわざと虚偽の住所を会社に届け出ていたこと、不正に通勤手当を受給していた期間が4年半にも及ぶこと、不正受給していた金額の合計が約231万円と高額であったことが挙げられるでしょう。
コロナ禍において、従業員がマスク着用の業務指示に違反したこと、転居したにもかかわらず報告を怠って通勤手当を不正受給していたことを理由に、会社が懲戒解雇したという事案です。
裁判所は、通勤手当を不正受給していた点について、当初から実態と異なる申告をしていたものでなく、転居したことで必要になった報告を怠ったものであること、金額も3万円弱と高額でないこと、面談の頃から返還額が特定されれば返還する意思を明らかにしていたことなどから、規律違反には該当するものの、そこのことをもって解雇することが社会通念上相当であるとまではいえないとしました。
また、従業員がマスク着用の業務指示に違反したことを併せてみても、やはり解雇することが社会通念上相当であるとまではいうことができないとしました。
結果として、会社による懲戒解雇は、無効であったと判断しています。
通勤手当の不正受給に関するポイントとしては、当初から虚偽の住所を申請していたというわけではなかったこと、不正受給していた通勤手当の合計額が3万円弱と少額であったこと、会社に対して返還する意思を示していたことが挙げられるでしょう。
一度不正受給が行われてしまうと、継続して受給され続け、それだけ損害も大きくなってしまいます。
そこで、できるだけ早期に不正受給に気付くことが重要です。
通勤手当の不正受給を見逃さないためにも、以下の4つのポイントに注意しましょう。
申請された住所を基準とした最寄り駅が異なっているとか、最短の通勤経路ではないと疑われる場合には、通勤手当を不正受給しようとしている可能性があります。
申請内容に不自然な点がある場合には、必ず調査を行い、なぜ最寄り駅が申請された駅なのか、通勤経路に誤りはないかなど本人に確認を取りましょう。
住所変更を伴わないにもかかわらず、通勤経路が頻繁に行われている場合には注意が必要です。
不正受給を目的として通勤経路の変更を申請している可能性があります。
通勤距離や定期券の購入費用などが過大に申請されている場合には、意図的に不正受給を行っている可能性があります。
なぜそのような通勤距離や購入費用となっているのか確認しましょう。
同じような住所から同じ勤務地に通勤している他の従業員と比べて、異常に高い通勤手当が申請されている場合には、不正受給の疑いがあります。
最短の通勤経路でない可能性がありますので、確認しましょう。
今回は、通勤手当の不正受給について解説しました。
従業員による通勤手当の不正受給を放置していると、会社にとって不利益が生じ続けます。
また、不正受給に気付いている他の従業員がいる場合には、職場の士気が下がってしまったり秩序が乱れたりしてしまう可能性があります。
通勤手当の不正受給が疑われる場合には、きちんと事実関係を調査した上で、懲戒処分を行う、不正に受給された通勤手当の返還を求めるなどの適切な対応をとりましょう。
弁護士であれば、事案に応じた適切な判断や返還請求が可能となります。もし、通勤手当の不正受給についてご不明な点等ございましたら、労働紛争に強い弁護士である弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にご相談ください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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