2025.05.19 2025年5月24日

譴責(けんせき)処分とは?企業が押さえるべき適正手続と法的リスクを弁護士が解説

譴責(けんせき)処分とは?企業が押さえるべき適正手続と法的リスクを弁護士が解説

譴責は、懲戒処分の中でも軽い処分であることから、従業員の非違行為(不適切行為)に対する第一次的な懲戒として利用されやすい処分です。

しかし、軽い処分であるからといって、内容や手続が適正でなければ、後になって無効と判断されるリスクがあるため、注意が必要です。今回は、譴責処分について解説します。

1 譴責(けんせき)とは?減給・出勤停止・懲戒解雇との違いを企業側目線で整理

「譴責」は労働法上の用語ではありませんが、一般に、始末書の提出を伴って将来を戒める処分をいいます。

賃金額から一定額を控除する「減給」、雇用契約を継続しつつ労働者の就労を一定期間禁止する「出勤停止」、雇用契約を一方的に解除する「懲戒解雇」と異なり、従業員にとって、直ちに実質的な不利益を伴うものではありません。

ただし、始末書の提出を求めたにもかかわらず従業員がこれに従わなかった場合には、会社は当該従業員の考課査定で不利に考慮することができます。

その他の懲戒処分については、以下の記事もご覧ください。

関連記事:懲戒処分の種類は7つ!会社が適切な処分を選択する方法を弁護士解説

2 譴責処分を行う際の注意点

まず、譴責処分がどのような場合に無効となるかを確認しましょう。

譴責を含む懲戒処分に共通する無効事由は、労働契約法15条に規定されています。

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

引用:労働契約法|e-Gov法令検索

この規定から読み取れるように、譴責処分を行う際に注意すべき点としては、以下の3つが挙げられます。

(1)合理的な理由があるか
(2)社会通念上相当といえるか
(3)適正な手続が履践されているか

(1)合理的な理由があるか

懲戒の事由の内容について労働基準法上の制限はありませんが、懲戒事由が合理的なものでなければ、当該事由に基づいた処分は懲戒権の濫用と判断される場合があります。

また、企業は「規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができる」とされているため、就業規則にない事由をもって譴責を行うことはできません。

参考:国鉄札幌運転区事件(最判昭和54年10月30日)

参考:厚生労働省労働基準局監督課 モデル就業規則(令和5年7月版)85-88頁

(2)社会通念上相当といえるか

譴責処分は比較的軽い処分であることから、他の懲戒処分と比べると、相当性がないと判断されることは少ないようにも思えます。

しかし、過去の同種事例において処分がなされていないにもかかわらず処分がなされたような場合や、同じ事由に基づいて複数回懲戒処分をしたような場合には、社会通念上不相当と判断され、無効となる可能性があります。

当該事由に対し譴責処分を行うことが重すぎる処分といえないか、過去の事例も踏まえて検討することが必要です。

(3)適正な手続が履践されているか

懲戒処分は対象の従業員に不利益を課すものであることから、適正な手続を履践する必要があります。

具体的には、以下のような点に注意しましょう。

① 事実関係の確認
② 弁明の機会の付与
③ 懲罰委員会による協議

① 事実関係の確認

処分を検討する前提として、事実関係を適切に把握することが必要です。

存在しない事実に基づいて譴責処分を行うと、無効と判断される可能性があります。

② 弁明の機会の付与

就業規則等に規定がなくとも、譴責の前に、処分対象となる本人に弁明の機会を付与することが必要です。

裁判例では、「懲戒処分に当たっては、就業規則等に手続的な規定がなくとも格別の支障がない限り当該労働者に弁明の機会を与えるべきであり、重要な手続違反があるなど手続的相当性を欠く懲戒処分は、社会通念上相当なものといえず、懲戒権を濫用したものとして無効になるものと解するのが相当である」と判示したものもあります(東京地裁令和3年9月7日)。

また、従業員に対して処分理由を告知して弁明の機会を与えることで、事実関係の確認において判明しなかった事実が明らかになることもあります。

相当かつ実効性のある譴責処分を行うためにも、弁明の機会を付与することは重要といえます。

③ 懲罰委員会による協議

就業規則において、懲戒処分にあたり懲罰委員会による協議をすると定めている場合には、このような就業規則上の手続を踏むことも必要となります。

3 「違法な懲戒」と判断されるとどうなるか

当該譴責処分が懲戒権の濫用として違法・無効と判断された場合のリスクとしては、以下のようなものが考えられます。

(1)社内秩序への影響
(2)損害賠償請求
(3)企業イメージの低下

(1)社内秩序への影響

譴責処分が無効となると、処分を受けた従業員本人だけでなく、周囲の従業員にも「違反しても処分されない」「処分しても争えば無効とされる」といった印象を与えてしまう可能性があります。

その結果、従業員の規律意識が低下し、社内秩序が乱れるおそれがあります。

懲戒処分は再発防止や牽制の意味を兼ねていることもしばしばですので、それが無効とされると、こうした効果も損なわれてしまいます。

(2)損害賠償請求

無効と判断された譴責処分によって、従業員が名誉侵害や精神的損害を被ったとして、会社に対し損害賠償を請求することも考えられます。

このような紛争は時間と労力を要するうえ、他の従業員の士気を低下させる要因にもなり得ます。

(3)企業イメージの低下

SNSが発達した昨今では、従業員との紛争が表面化すると、企業名を伴って事案が拡散されるリスクも考えられます。

不当な懲戒を行う会社というイメージが世間に広がると、信用低下や採用活動への影響も懸念されます。

4 譴責処分を社内で適切に運用するための実務ポイント

譴責処分を適切に運用するためのポイントを4つご紹介します。

(1)処分の記録を残す
(2)処分の一貫性を保つ
(3)従業員教育の視点を持つ
(4)弁護士に相談する

(1)処分の記録を残す

譴責処分について後に紛争が発生した場合に備えて、処分に至るまでの経緯を記録しておくことが有用です。

具体的には、非違行為の内容、処分理由、弁明の機会における本人の発言内容などを記録に残しておくことで、前述した無効事由がないことを主張する証拠となり得ます。

また、訴訟にまで発展しないとしても、従業員との間で「言った言わない」の水掛け論が発生することを防ぐため、文書化して残しておきましょう。

(2)処分の一貫性を保つ

「同様の事案に対しては同程度の処分をする」と一貫性を保つことも重要です。

過去の同種事例においては譴責とせず軽い注意で済ませていたにもかかわらず、今回だけ譴責処分とする、といったような場合、相当性を欠くとして無効と判断されるリスクがあります。

懲戒の基準にブレがないよう、前述した処分の記録も参照しながら、過去事例を懲戒の判断に反映させることで、こういったリスクを回避することができます。

(3)従業員教育の視点を持つ

譴責は「将来を戒める処分」ですので、単なる懲罰ではなく、指導の側面も持っています。

処分を科すこと自体ではなく、再発防止に向けた行動変容を促すことが目的ですので、始末書を提出させて終わりではなく、面談や研修といった教育的なアプローチを並行して行うことが望ましいでしょう。

(4)弁護士に相談する

上記のような運用ポイントを踏まえて就業規則やマニュアルを作成しても、そこに定められた懲戒処分の基準が実際の運用と乖離していると、トラブルのもとになってしまいます。

社内の譴責運用基準が現実的かつ公平であるかを定期的に点検し、規程自体を改めることも必要です。

また、見直しにあたって、弁護士に相談して処分の妥当性等について法的な観点から助言を受けることも、トラブル防止につながると考えられます。

5 まとめ

今回は、譴責処分について解説しました。

譴責処分は、始末書の提出を伴って将来を戒める処分であり、懲戒処分の中では比較的軽い処分とされています。

しかし、処分の内容と手続きが適切でなければ、無効と判断されるリスクがありますので、あらかじめ社内の運用基準を定めておくことが重要です。譴責その他の懲戒処分についてお困りでしたら、労働紛争に強い弁護士の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

カテゴリ一覧

アクセスランキング

新着記事

CONTACTお問い合わせ



ご相談など、お気軽に
お問い合わせください。

電話アイコンお電話でのお問い合わせ

06-4394-7790受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)

メールアイコンwebフォームよりお問い合わせ