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契約書における準拠法とは、契約の解釈の基準となる法律のことです。
国際取引では,国や地域によって法律や慣習が異なるため,契約の解釈について争いとなる可能性があります。
そのような争いをできる限り回避するため,あらかじめ契約当事者で準拠法を取り決め,契約書に準拠法条項を定めておきます。
準拠法条項は,国際取引に関する契約書の中でも,特に重要な契約条項の1つといえるでしょう 一般的には、契約交渉時の力関係等を反映して、契約当事者のどちらか一方が属する国の法律を準拠法とすることが多いでしょう。
なお、「抵触法の原則の適用を考慮することなく」というのは、例えば、上記の例で日本法を準拠法とする旨の規定をおいたところ、日本法によれば他国の法律を準拠法とすべきことになる場合であっても、当該他国の法ではなく日本法を準拠法とするという意味です。
日本を含む各国は、国際的な法律関係について、どの国・地域の法を適用すべきかを定めた準拠法の選択に関する法(国際私法(抵触法))を有しています。
契約書に準拠法の定めがなく紛争が生じた場合、その紛争に対して国際裁判管轄権がある国の裁判所が、その国の国際私法に基づいて、その紛争に適用される準拠法を決定します。
例えば、あなたの会社がある海外の会社と契約を締結して業務を遂行していたところ、トラブルが生じ、訴訟を提起することになったとしましょう。あなたの会社が日本において訴訟を提起したとして、日本に国際裁判管轄が認められる場合、日本の国際私法である「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」)では、契約書に準拠法の指定があるときは、基本的に同法7条に基づき、契約書において指定された準拠法が適用されることになります。一方、準拠法を定めなかったときは,通則法によれば、基本的に,契約の成立及び効力については, 最も密接な関係がある国の法律が適用されることになります(通則法8条1項)。
最も密接な関係があるか否かは、通則法においては同条2項及び第3項に従って判断されます。
以上のとおり、契約書において準拠法を規定しなければ、訴訟が提起された国において国際裁判管轄が認められれば、その国の国際私法に従って準拠法が決定されることになります。実際に紛争が起こらないと,適用されるべき法律が定まらない事態に陥る可能性があります。実際に紛争が生じた場合には、どの法律を適用するかについてまず争うことになりかねず、余計な費用と時間が費やされる危険があります。場合によっては,内容をよく知らない法律が適用されることもあるでしょう。
一方において、日本の通則法7条と同じように、多くの国の国際私法において、両者が合意してある国の法を選択してその法を準拠法とする定めを契約書に規定しておけば、基本的にその法を準拠法と決定することが多いことから、法律行為の有効性や紛争が起こった場合の対処法など,契約締結時に一定の予測を可能とするためにも,あらかじめ準拠法を定めておくことをお勧めします。
引用:法の適用に関する通則法|e-Gov 法令検索
契約交渉の際,はじめは双方が自国法を主張することが一般的です。確かに、双方とも、外国の弁護士に相談するより自国の弁護士に相談する方が手間も費用もかららないでしょうし、それは準拠法選択の一つの大きなポイントになるでしょう。
しかし、自国の法律が取引相手方の国の法律に比べて自社に有利とは限りません。
準拠法だけではなく裁判管轄や仲裁を含めた紛争解決条項全体から考えて、自社にとって望ましい準拠法が本当に日本法なのか検討する必要もあります。一般論として、国際裁判管轄(仲裁地)と準拠法は一致させる方が望ましいと考えます。
例えば、裁判管轄地が大阪なのに、準拠法をフランス法としてしまうと、裁判手続については日本の弁護士、実体法の解釈についてはフランス法の弁護士に依頼をせねばならず費用負担が大きくなる可能性がありますし、日本の裁判官にフランス法を適用して検討させることを求めることになり、裁判所に提出する書類について多額の翻訳費用を要する可能性もあります。
執行面を考えた場合は、むしろ、相手方の国の法律を準拠法として裁判管轄地も相手方としてしまう方がよい場合もあるでしょう。例えば、日本において財産を持たないけれど自国においては多くの財産を保有している海外企業と何らかの取引をし、その際、相手方が契約違反をした場合は当該企業に対して損害賠償請求等をすることを考えているときは、むしろ、相手方の国において相手方の国の法に基づき訴訟を提起した方が、回収までにかかる時間も(弁護士費用を含む)費用も、少なくできるかもしれません。
交渉時において、準拠法を日本法とすることにどれだけ重きを置くべきなのかは、相手方や取引の内容等の状況によって異なるでしょう。
関連記事:英文契約書レビューの基本:確認ポイントや英文契約書の構成を弁護士が分かりやすく解説
準拠法を選ぶ際には,英文契約のレビュー経験の豊富な弁護士などに相談することをお勧めします。
準拠法を選ぶポイントとして,以下の3つを挙げることができます。
準拠法を選ぶにあたって,契約内容は重要なポイントです。
契約内容次第では,自社にとって自国法が常に有利というわけではありません。また、契約を締結する時点では、どの点が今後紛争になるのかは予測がつかないことが多く、仮に自国と相手国の法律を調べたところで、どちらが自社に有利か判断することは困難でしょう。
重要な点に関して、自国法を準拠法とした場合,相手国の法を準拠法とした場合等のそれぞれにおいて,リスクを分析することができれば,自社にとってよりよい選択を採ることが可能となるでしょう。
一般的に契約は,当事者が交渉を重ね,妥協し合った末に締結に至ります。
契約条項の1つである準拠法を定める際も,相手企業との交渉がポイントとなります。
交渉をしても準拠法について合意を得ることができず、それでも取引自体は進めていく場合は、契約書において準拠法は規定しないことにするのか、それとも契約書において準拠法について相手方の案を受け入れる代わりに他の取引条件について自社の望む条件の受け入れを要求するのか、交渉における選択肢は様々です。
あなたの会社がどのような選択をするにせよ、その選択をする際に、事前に、どのようにして準拠法が決定されうるのかについて、検討しておくことをお勧めします。
準拠法の選択を失敗しないためには,専門家に相談することも重要です。
慣れていない国際取引において,自社で検討を行うことには限界があると思います。国際取引および英文契約の検討を得意としている弁護士などに相談することで,自社にとってよりよい選択をすることが可能となるでしょう。
国際物品売買契約においては,準拠法を選んだ際に,特に留意しなければならない点があります。
ウィーン売買条約とは,国際的な物品の売買契約について,その成立及び契約当事者の権利義務に関する事項を定めた条約です。
例えば,アメリカ企業と日本企業の物品売買取引の場合,ウィーン売買条約に加盟する国同士ですから,原則として,ウィーン売買条約が適用されます。
また,契約当事者の一方が締約国であり,準拠法をその国の法とした場合にも,ウィーン売買条約が適用されます。
そのため,契約書において「本契約の準拠法を日本法とする。」と規定するだけで,ウィーン売買条約の適用を排除する旨を明記していなければ、ウィーン売買条約が適用されてしまうなんてこともあります。もし,ウィーン売買条約の適用を排除したい場合には,以下のように契約書で明記しておきましょう。
“United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods.”は,ウィーン売買条約の正式名称です。ウィーン売買条約については,以下の記事で詳しく解説していますので,気になる方はご覧ください。
関連記事:ウィーン売買条約(CISG)って何?国際取引で知っておきたい基本的なルールを解説
今回は,準拠法(Governing Law)について解説しました。
契約における準拠法とは,契約の解釈の基準となる法律です。
準拠法条項は,英文契約書の中でも,特に重要な条項の1つといえるでしょう。
契約の解釈の違いで争いになる可能性を減らすように,あらかじめ準拠法を取り決めておきましょう。準拠法を選ぶにあたっては,どうしても専門的な知識が必要となります。もし,準拠法をはじめとする英文契約書の条項等についてご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
永田 順子弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
国内取引のみならず、海外企業との取引を行う際の法務に携わってきました。 海外企業との英語・英文での契約書の作成・チェックを強みにしております。 海外進出・展開をお考えの方、すでに海外企業と取引があって英文の契約書を作りたい・ 見直したい方は是非一度ご相談くださいませ。
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