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目次
英文契約書のレビューとは,契約締結前に,英文契約書の内容を確認し,自社にリスクがないか法的な視点から確認する作業をいいます。
その目的は,日本語における契約書と同様に,契約内容を把握すること,自社にとってのリスクを抽出して不利益を回避すること,修正案を作成することにあります。
あとで話せばなんとかなるという考えのもとに,英文契約書のレビューを怠り,契約締結にいたってしまうと,予期せぬトラブルへと発展し,自社に不利益を与えかねません。
英文契約書のレビューは,自社にとって予期せぬ不利益を回避し,有利な契約を締結するうえで,非常に重要なプロセスといえるでしょう。
国際取引において,英文契約書は標準的な契約書とされていますが,国によって慣習や条文解釈が異なり,契約当事者で食い違いが生じやすくなっています。
そのため,契約条項はあらゆる事態を想定して具体的かつ詳細に規定され,分量が膨大な場合がほとんどです。
また,英文契約書は,昔と比べるとやさしい表現が用いられるようになりましたが,特有の用語や言い回しを指すリーガルジャーゴン(Legal Jargon)や契約専門用語が溢れています。
英文契約書のレビューは,日本語の契約書と比べ,より一層の慎重さが求められます。
国際取引では,英文契約書が標準的に用いられますが,英文契約書の内容は契約ごとに様々です。
英文契約書の構成についても,特別の決まりがあるわけではありませんが,一般的には,本体と付属書に分けることができ,本体は,表題を除いて,前文,本文,後文(署名欄)という三部構成をとることが多いでしょう。
表題の付け方に厳密なルールはなく,特別な法的効果はありません。
一般的に,契約書や合意書は「Agreement」と表記され,一目で契約内容が分かるような表題が望ましいでしょう。
例えば,「License Agreement」や「Software Development Agreement」といった表題が挙げられます。
前文では,頭書(premises)や経緯(whereas clauses)が規定されます。
WITNESSETHは,リーガルジャーゴンであり,witnessの古い単語です。
“This AGREEMENT” が主語で“WITNESSETH”が述語となっており,「AとBが2023年4月1日に締結した本契約は,以下のことを証する」という構造になっています。
“WHEREAS”の意味は“as”同じで,ここから始まる文章(フレーズ)のことを “whereas clause”と呼んでいます。リサイタル(recitals)やリサイタル条項と呼ぶこともあります。
英米法では,法的拘束力のある契約のために“consideration”が必要とされており,日本語で「約因」と訳されます。
「約因」は,契約当事者間に存在しなければならない取引上の損失のことであり,契約において,どちらかが一方的に負担や義務を負う場合は「約因」が認められず,契約が有効に成立しないため注意が必要です。
契約書の本文は,各取引の内容によって異なります。
英米法では,口頭証拠排除の原則(parol evidence rule)が採られ,契約書面が最終的な完全なものとして作成されます。
契約書面と異なる合意内容の口頭による合意は,基本的に排除されるため,合意内容がすべて網羅されているか確認し,漏れがある場合には必ず修正・変更を求めましょう。
本文に記載される,主な一般条項については後述します。
最終部分では,契約書作成の目的や作成者の記載,署名欄(signature)が設けられ,署名する権限がある者が署名することによって,契約書が完成します。
相手が署名する権限がある者なのか確認することは,契約書の作成にあたって一番重要であると言っても過言ではありません。
署名欄へのサインについては,下記の記事で詳しく解説しています。
参考記事:英文契約書へのサイン方法と注意点|日本と海外ではここが違う!
ここでは,英文契約書の本文で主に設けられる主な一般条項とレビューする際のポイントを簡潔に解説します。
基本的なレビューのポイントとしては,明確かつ網羅的に定められているかを確認することです。
重要な用語(terms)の意味を明らかにする条項です。
ある用語の解釈が契約当事者間で異なっていると,紛争に発展しかねません。
例えば「300,000 dollars(ドル)」を支払うことを合意した場合,日本企業にとっては,アメリカドルを思い浮かべるかと思いますが,カナダドルオーストラリアドルなどアメリカドル以外のドルも存在します。
定義条項は, “Dollar”のような解釈の分かれる重要な用語について,双方の解釈の違いから起こる紛争を予防する役割があります。
様々な解釈が可能である重要な用語については,双方が共通した理解を持てるよう,必ず明確に定義されているか確認しましょう。
関連記事:【基本】英文契約の定義条項(Definitions)はなぜ重要なのか?その意味と注意点を解説
契約期間やその更新について定めた条項です。
契約において,契約期間とその更新規定は非常に重要な問題であり,特に,長期売買契約や著作権などのライセンス契約などでは,自社の事業そのものの存続を左右しかねません。
契約内容が当事者をいつからいつまで拘束するのかといった契約の有効性を規律する役割があります。
契約期間や更新規定は明確に定める必要があります。
関連記事:今さら聞けない英文契約書の基本!「期間」や「日付」はどのように書く?
契約の履行や解除などの通知に関する条項で,通知方法や通知の効力が発生する日などを定めた条項です。
通知された内容が法的効力をもつのか,もつとすればいつの時点からなのかといったことを規律する役割があります。
通知条項は,当事者の権利や義務に関わる重要事項ですので,明確に定められているか確認しましょう。
関連記事:英文契約書における通知条項(Notice)とは?サンプルをもとに解説
文書化されていない合意は,契約内容として認めないことを確認する条項です。
交渉の末,ようやく契約を締結できたとしても,相手方が契約書に記載のない条件などを主張し,その主張が認められるのであれば,契約書を作った意味がなくなってしまいます。
最終性条項は,契約締結後に契約書と異なる主張を防ぐ役割があります。
最終性条項には,変更や修正を行う場合,両当事者が署名した書面を要する旨の修正・変更条項(Amendment and Modification)を含んでいるものが大半です。
当事者で合意にいたった内容が契約書に記載されているか,どのような場合に契約の修正や変更が認められるのか必ず確認しましょう。
契約当事者の双方において,相手方の事前の同意なしに契約譲渡することを認めないとする条項です。
基本的に,契約は,相手を信用しているからこそ締結することができるのであって,信用できない相手と締結することは望まないでしょう。
そのため,契約譲渡は原則禁止としておき,個別の案件ごとに具体的な譲渡先や条件を検討し,同意する場合には契約譲渡を認めるとするのが一般的です。
意図せずに契約の相手方が変更となり,予期しないリスクが発生することを防止する役割があります。
どのような場合に契約譲渡が認められるのか確認しておきましょう。
関連記事:リスク回避!英文契約書における契約譲渡条項(Assignment)の必要性
どのような場合に契約を解除することができるのかという解除事由や,どのようにして契約を解除するのかという解除手続など,解除に関する取り決めを定めた条項です。
契約有効期間中に,相手方の倒産(bankruptcy)や重大な契約違反(material breach)があった場合など,契約の解除をしなければ対応できない事態が発生することがあります。
契約解除条項は,解除できるケースをあらかじめ契約書に定めておくことで,それぞれのケースで解除の有効性をめぐる紛争を防ぐ役割があります。
契約書に定められていない事由の場合,契約解除が難しくなりますので,解除事由が網羅的に規定されているか必ず確認しましょう。
自然災害や戦争など,契約当事者がコントロールできない不可抗力によって契約に定められた債務の履行ができなくなった場合,契約の履行に関して様々な問題が生じます。
どのような事由・事態を不可抗力と認めるのか,また現実に起こった場合に法律関係はどうなるのかといった内容を取り決めたのが不可抗力条項です。
不可抗力が起こった場合に履行を免責される原因や事由の範囲などについて,当事者間で紛争が起こることを防止する役割があります。
自社が責任を負う範囲に関することですので,不可抗力事由・事態が網羅的に規定されているか確認しましょう。
関連記事:【基本】英文契約書における「不可抗力条項(Force Majeure)」の重要性
契約に関する問題が生じたときに,どこの国の法律を適用して解決するのか,基準となる法律を取り決めた条項です。
基本的に,契約交渉段階では,双方が自国法を主張することが多いですが,いずれも譲らない場合には,第三国あるいは州の法律を準拠法とすることもあります。
紛争が起こった場合に,どこの国の法律を採用し,解釈の基準とするのかを明確にする役割があります。
どのような契約であっても,紛争になる可能性を含んでいるため,国際取引において最も重要な条項の1つといえるでしょう。
交渉全体を通して自社に不利な場合は,必ず相手方と交渉しましょう。
関連記事:海外進出を考える中小企業担当者必見!英文契約の準拠法(Governing Law)講座
契約当事者双方の秘密情報に関する取り扱いを定めた条項です。
契約関係になると,契約締結による履行義務の一環として,あるいは信頼関係に基づいて,相手方に自社の秘密情報を提供したり,相手方の秘密情報を受け取ったりする機会があると思います。
秘密情報が第三者に漏えいされれば,双方の事業に多大な不利益を与えかねません。
秘密保持条項は,どのような情報を秘密情報とするのか,秘密情報の管理はどうするのかなど,秘密情報に関するルールを取り決め,会社の秘密情報を守る役割を果たします。
双方の秘密情報を明確に定めることが重要です。
契約関係に入る前に,秘密保持契約(“Non-Disclosure Agreement”,“NDA”)が締結されることもあります。
NDAについては,以下の記事で詳しく解説しています。
参考記事;海外企業との秘密保持契約(NDA)で注意すべき7つのポイント
今回は,英文契約書のレビューについて解説しました。
英文契約書のレビューは,自社にとって予期せぬ不利益を回避し,有利な契約を締結するうえで,非常に重要なプロセスです。
契約書の構成や一般条項を理解したうえで,個別の契約書について,慎重にレビューを行いましょう。
英文契約書は,特有の用語や言い回しを指すリーガルジャーゴン(Legal Jargon)や契約専門用語で溢れているため,どうしても慣れるまでに時間を要します。もし,英文契約書のレビューや作成に不明な点があるという場合には,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
田中 今日太弁護士(大阪弁護士会所属)弁護士ドットコム登録
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