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正式名称を「国際物品売買契約に関する国際連合条約」といい,英名の“United Nations Convention on Contracts for the International Sale of Goods”から“CISG”とも言います。
この条約は, 国際的な物品の売買契約について,その成立及び契約当事者の権利義務に関する事項を101条にわたって規定しており,契約当事者の営業所が異なる国にある場合,契約は国際的取引とみなされ,要件を満たす場合は本条約が適用されます。
本条約は取引にいずれの国の法が適用されるかという不確実性が解消され,安定した円滑な取引が可能となります。
例えば,アメリカ企業と日本企業の取引の場合,ウィーン売買条約に加盟する国同士ですから,原則として,ウィーン売買条約が適用されます。
また,契約当事者の一方が締約国であり,準拠法をその国の法とした場合にも,ウィーン売買条約が適用されます。
もし,ウィーン売買条約の適用を排除したい場合には,契約において,一部又は全部の適用を排除することを定めるようにしましょう。
アメリカやカナダ,中国,韓国,シンガポール,ドイツ,イタリア,フランス,オーストラリア,ロシア等,主要な先進国の多くが締約国となっています。
日本では,2009年8月1日に発効しました。
締約国については,執筆時点におきまして,下記のサイトで確認することが可能です。
https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=X-10&chapter=10&clang=_en#EndDec
ウィーン売買条約は,国際的な物品の売買契約について,その成立及び契約当事者の権利義務に関する事項を規定しています。ここでは,主な内容を解説します。
なお,ウィーン売買条約の全文(和文テキスト(訳文)・英文テキスト)は,下記の外務省ホームページで確認することが可能です。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty169_5.html
14条以下に詳しく規定されています。
契約の成立は,申込と承諾によりますが,条件付承諾によって成立する場合が認められています。条件付承諾についての詳細は,後述します。
申込に対して,沈黙する場合や何もしない場合,承諾とはなりません。
契約の方式については,書面に限らず,口頭を含めてあらゆる方法が有効です。
契約の成立時期は,承諾が相手方に到達した時です。
この点については,2020年4月1日に改正された日本の民法と同じです。
30条以下に詳しく規定されています。
売主は,特定の場所で引き渡すことを要する場合,物品の運送を予定する場合など,各類型に応じた引渡義務を負担します。
例えば,物品の運送を伴う場合には,物品を最初の運送人に交付することで,引渡義務を履行したことになります。
また,引渡す物品については,当事者間で合意した契約に定める性状,あるいは,35条に定める性状の物品を引き渡さなければなりません。
契約,あるいは,35条に定める性状に適合しない物品を引き渡した場合には,損害賠償や代替品の引渡しなどの責任を負う可能性があります。
基本的に,買主の義務は,53条以下に規定されていますが,物品検査義務については,38条に規定されています。
買主は,状況に応じて実行可能な限り短い期間内に,物品を検査し,又は検査させなければなりません。
仮に,物品の不適合を発見し,又は発見すべきであった時から合理的期間内に売主に対して不適合の性質を特定した通知を行わない場合には,物品の不適合を主張することができなくなります。
通知は,物品が現実に交付された日から二年以内に行わなければいけません。
契約の解除については,原則として,相手方に「重大な契約違反」(fundamental breach of contract)があった場合に認められます。
重大な契約違反とは,「相手方がその契約に基づいて期待することができたものを実質的に奪うような不利益を当該相手方に生じさせる場合」と規定されており,結果が重要視されています。
ただし,重大な契約違反があったとしても,契約違反を行った当事者が結果を予見しなかった,あるいは一般的に予見しなかったであろうと認められる場合には,「重大なもの」とはいえなくなります。このような場合,結果として,契約の解除が認められなくなります。
ウィーン売買条約は,契約違反による損害賠償の額について,得られるはずであった利益(逸失利益の喪失)も含まれ,契約締結時に予見可能であった損害を請求できると規定しています。
ウィーン売買条約において,特に注意すべきポイントは,どのような場合に適用され,どのような効果をもたらすのかという点です。
相手が締約国である場合,条約は当然に適用されることになります。
契約において取り決めた準拠法が,締約国の法である場合も適用されることになります。
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ウィーン売買条約の対象となる取引は,営業所が異なる国にある当事者間の物品売買契約であって,これらの国がいずれも条約の締約国であるか,国際司法の準則によって締約国の方が適用される場合です。
以下にあげる取引については,適用されません。
例えば,越境ECによって海外の一般消費者に物品を販売する場合には,上記①に該当するため,ウィーン売買条約は適用されません。
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ウィーン売買条約が規律する対象は,以下の2点のみです。
錯誤などによる契約の有効性,所有権の移転時期といった契約上の効果などについては,規律がありません。
この点については,当事者の合意によって取り決めておくか,準拠法によることになります。
ウィーン売買条約は,絶対的なものではなく,契約当事者の合意によって適用を排除したり,内容を変更したりすることが可能です。
排除には,全面排除や一部排除があり,実際の海外取引における契約には,ウィーン売買条約の適用を全面的に排除する条項が設けられていることが多く見受けられます。
インコタームズによることを当事者が合意した場合など,契約書の内容からその排除が明確である場合も,ウィーン売買条約の適用はありません。
優先順位としましては,①契約書(合意・慣習),②ウィーン売買条約,③国内法となると考えられます。ウィーン売買条約の適用を排除する条項を設けることによって,国内法の適用が可能となります。
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契約の成立は,申込と承諾によりますが,完全な一致までは求められていません。
完全な一致まで求められていないというのは,例えば,売買契約の申込に対し,注文の条件の一部を変更して承諾の回答をしたような「条件付承諾」であっても,その条件が申込の内容を実質的に変更するものでない場合には,申込者が直ちに異議を述べない限り,承諾となり,契約が成立するということです。
条件付承諾についての条件について ,特に,代金,支払,物品の品質や数量,引渡しの場所や時期,責任の限度,紛争解決に関するものの場合は,申込の内容を実質的に変更するものとされています。
今回は,ウィーン売買条約(CISG)の基本的なルールについて解説しました。
ウィーン売買条約は,日本の民法や商法と異なる点があり,契約の成立や売主,買主の義務については,特に注意が必要です。
どのような場合に適用され,どのような効果が発生するのか,確認しておきましょう。もっとも,ウィーン売買条約は契約によって排除することが可能です。単に,準拠法を日本法とするだけでは排除できないため,排除する場合には,明確に排除する条項を設けるようにしてください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
永田 順子弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
国内取引のみならず、海外企業との取引を行う際の法務に携わってきました。 海外企業との英語・英文での契約書の作成・チェックを強みにしております。 海外進出・展開をお考えの方、すでに海外企業と取引があって英文の契約書を作りたい・ 見直したい方は是非一度ご相談くださいませ。
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