2023.09.08 2024年4月4日

インコタームズの重要性と5つの注意点を解説

インコタームズの重要性と5つの注意点を解説

1 インコタームズとは

インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC、International Chamber of Commerce)が制定した貿易取引条件とその解釈に関する国際規則です。

貿易取引条件の解釈がそれぞれの国で異なると、異なる国の間でなされる取引のトラブルの原因となってしまいます。そこで、貿易取引条件について統一した解釈をするために制定されました。商慣習の変化に合わせるために、現在までに9回の改訂が行われており、2020年1月1日発効の「インコタームズ2020」が最新版です。 

2 インコタームズを用いるメリット

異なる国の企業と売買契約を締結する際に、貿易条件として必ずインコタームズの規定を用いなければならないわけではありません。しかし、インコタームズの規定を用いることで、次の事項を簡便に明らかにすることができます。

(1)売主と買主との間の危険負担(売主と買主のいずれの責任でもなく物品が滅失等したために物品を引き渡すことができない場合のリスクを、売主と買主のどちらが負担するのか)が、どの時点で、売主から買主に移転するのか

(2)運送の手配、保険の手配、通関手続きの手配の役割分担とそれらの費用の分担

なお、インコタームズの規定を用いても、決済通貨を含む決済条件や、所有権の移転時期等といった重要な事項は定まりません。

文化や慣習が異なる相手方との取引となる国際取引においても、貿易条件のみならず、事案に適した契約書の作成と締結がとても大切です。

3 注意点

インコタームズは条約でも法律でもありません。取引において、貿易条件としてインコタームズの規定を用いたいと考える場合は、契約当事者間の合意として、契約書にその旨を明らかにする必要があります。

以下に、インコタームズの規定を用いる場合の注意点を記載します。

(1)何年版を適用させるのか

インコタームズは商慣習に合わせて改訂を繰り返しています。インコタームズ2000とインコタームズ2010、インコタームズ2020は内容が少しづつ異なります。どのバージョンを用いるのか明らかにしましょう。

(例)
The trade terms under this Agreement shall be FCA Yokohama Container Freight Station in accordance with Incoterms (R) 2020.
訳:本契約における貿易条件は、インコタームズ2020に基づく、FCA横浜CFS渡しとする。

(2)取引の実態に応じた規則の適用

従来から商品輸出を担当してきた方にとってはFOB、CFR、CIFは最も使い慣れてきた条件かもしれません。しかし、これらの貿易条件は、海上輸送及び内陸水路輸送に適用されるものであり、空路には適しません。

FOB、CFR、CIFはコンテナ輸送においては推奨されていません。2010年版以降のFOB、CFR、CIFにおける売主から買主への危険の移転時期は、貨物が本船に積載された時点です。しかし、コンテナ輸送の場合は、貨物は売主から運送人に対してコンテナヤードで引き渡されます。そうすると、コンテナヤードから本船に積載されるまでの間に売主買主のいずれの責任でもなく貨物が滅失等してしまった場合、売主が危険を負担することになります。

一方、FCA、CPT、CIPは空路含むあらゆる輸送形態に用いることができ、運送人に貨物が引き渡された時点で危険負担が移転します。コンテナ輸送の場合、これら規定を用いる必要がないか、無保険の状態が生じることがないか注意してください。

(3)引渡地、仕向地、引渡港、仕向港を明確に

実務においては「EXW Japan」等と記載した契約書を見かけます。売主の工場や倉庫等が日本で一箇所しかない等、このような規定であっても契約当事者にとって引渡地が明確な場合はよいとして、そうでなければ、売主との間でトラブルが生じる可能性があります。次のように引渡地等を明確に記載するようにしてください。

(例)
EXW the Seller’s factory located at (売主の工場の住所)(Incoterms (R) 2020)

(4)矛盾する規定を設けない

貿易条件をインコタームズの規定に従うとしながら、契約書にこれと矛盾する規定がなされている例をよくみかけます。後日のトラブルの元となりかねません。インコタームズの規定とは異なる取決めをしたいときは、インコタームズの規定を用いずに貿易条件を定めるか、又は、どちらの取決めを優先させるのかを明記してください。

関連記事:海外進出を考える中小企業担当者必見!英文契約の準拠法(Governing Law)講座

(5)EXWとする場合

日本にあるあなたの会社がEXWの貿易条件で商品を販売する場合、引渡場所は日本になるでしょう。この場合に、引渡の時期と同時に所有権も移転するとすれば、「資産の譲渡・・・が行われる時において当該資産が所在していた場所」が日本となり、資産の譲渡が日本で行われたとして、輸出免税の適用を受けることができず消費税が課税されることになると考えられます。EXWを使用するとしても、売主から買主への物品の所有権の移転が輸出許可後(船積み時など)になされることを予め当事者で合意し、その旨を契約書に記載しておけば、輸出証明の手続要件を満たすことで、輸出免税の適用を受けることができる可能性があります。消費税が課税されるかどうかは大きな問題であり、事前に税理士等の専門家と相談することをお勧めします。

4 価格交渉の初期段階から貿易条件について意識を

あなたが売主である場合、海外取引において利益を上げるためには、国内取引とは異なるコスト、例えば輸送費や保険等を見積もることが不可欠です。見込み客から引合いを受けた段階から、貿易条件を意識して価格設定をする必要があります。後のトラブルを防ぐため、契約交渉の初期段階から、見積価格はどのような貿易条件を前提としたものかを明らかにして、交渉をするように注意してください。

一方、あなたが買主である場合は、売主から受け取った見積書がどのような貿易条件を前提としたものかを把握した上で、価格交渉をすすめるようにしてください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

永田 順子弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

国内取引のみならず、海外企業との取引を行う際の法務に携わってきました。 海外企業との英語・英文での契約書の作成・チェックを強みにしております。 海外進出・展開をお考えの方、すでに海外企業と取引があって英文の契約書を作りたい・ 見直したい方は是非一度ご相談くださいませ。

カテゴリ一覧

アクセスランキング

新着記事

CONTACTお問い合わせ



ご相談など、お気軽に
お問い合わせください。

電話アイコンお電話でのお問い合わせ

06-4394-7790受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)

メールアイコンwebフォームよりお問い合わせ