2025.04.09 2025年4月9日

カスハラから社員を守る!企業が弁護士に相談すべき3つのタイミング

カスハラから社員を守る!企業が弁護士に相談すべき3つのタイミング

カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)は、直接の被害者である従業員の心身への被害はもちろん、企業や他の顧客にも影響しうるものです。

では、自社の従業員へのカスハラが起こった場合に備えて、企業としてどのような対策を講じておくのが望ましいでしょうか。

また、カスハラ事案が実際に発生した場合、いかなるタイミングで弁護士に相談すべきでしょうか。今回は、カスハラへの対応について解説します。

1 カスハラ(カスタマーハラスメント)の定義と近年の傾向

カスハラとは、以下の3つの要素をいずれも満たすものとされています。

(1)顧客や取引先、施設利用者、そのほかの利害関係者が行うこと
(2)社会通念上相当な範囲を超えた言動であること
(3)労働者の就業環境が害されること

参考:厚生労働省労働政策審議会「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」(令和6年12月26日)5-6頁

近年、カスハラは増加傾向にあり、国や地方公共団体においても、カスハラに対する取り組みが強化されているといえます。

厚生労働省では、職場のハラスメントに対する実態調査として、令和2年10月に全国の企業・団体に対する調査が実施されました。

この調査によれば、パワハラ、セクハラ等について過去3年間に相談があったと回答した企業の割合は、「パワハラ」(48.2%)、「セクハラ」(29.7%)に続いて、「カスタマーハラスメント(顧客からの著しい迷惑行為)」(19.5%)が高く、過去3年間の相談件数の推移では、「カスタマーハラスメント(顧客からの著しい迷惑行為)」のみ「件数が増加している」(3.8%)の割合のほうが「減少している」(2.2%)より高いという結果が出ています。

参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 3-4頁

このような動向を受け、令和元年6月に、労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となっています。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

(雇用管理上の措置等)
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

引用:e-Gov法令検索│労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

また、東京都では令和7年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されました。

このような現状を踏まえ、企業としてもカスハラ対策を推し進めていくことが重要と考えられます。

2 企業が直面する代表的なカスハラ被害例

企業が直面するカスハラの被害には、以下のような類型があります。

(1)時間拘束
(2)頻繁に来店しその度にクレームを行う、度重なる電話
(3)暴言・脅迫
(4)対応者の揚げ足取り
(5)暴行
(6)SNSへの投稿
(7)正当な理由のない過度な要求
(8)セクハラ
(9)不法侵入

参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」 9頁

(1)時間拘束

長時間の拘束や居座り、長時間の電話など、担当者を長時間拘束し、業務に支障を及ぼす行為が挙げられます。

退去を要求したにもかかわらず退去しなかった場合は、不退去罪が成立し得ます。

(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

(2)頻繁に来店しその度にクレームを行う、度重なる電話

度重なるクレームや電話により業務に支障が出ている場合には、偽計業務妨害罪が成立し得ます。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(3)暴言・脅迫

人格否定にわたる暴言は、侮辱罪や名誉毀損罪が成立し得ます。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

また、脅迫行為もその程度によっては脅迫罪となる場合があります。

(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

(4)対応者の揚げ足取り

同じ質問を繰り返して対応のミスが出たところを責める、話をすり替える、揚げ足取り、執拗な責め立てといった行為が挙げられます。

このような行為についても、業務妨害罪が成立し得ます。

(5)暴行

担当者への暴力行為には、暴行罪が成立し得ます。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

また、暴行により怪我をした場合には、傷害罪が成立することがあります。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(6)SNSへの投稿

SNSに事実と異なることを投稿して会社や従業員の信用を毀損させる行為は、信用毀損罪となる場合があります。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(7)正当な理由のない過度な要求

担当者を脅迫して、正当な理由のない要求を通そうとした場合には、強要罪が成立し得ます。

(強要)
第二百二十三条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

(8)セクハラ

担当者へのわいせつ行為には、公然わいせつ罪や不同意わいせつ罪が成立し得ます。

(公然わいせつ)
第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 略

また、つきまとい(ストーカー)行為は、ストーカー行為等の規制等に関する法律に抵触する場合があります。

(9)不法侵入

事務所(敷地内)への不法侵入や、正当な理由のない業務スペースへの立ち入りには、建造物侵入罪が成立する場合があります。

(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

法令引用:e-Gov法令検索│刑法

3 放置はリスク大!カスハラが引き起こす労務トラブル

カスハラに該当しうる事案が発生した場合に起こりうる労務トラブルには、以下のようなものが考えられます。

(1)従業員の休職・退職
(2)企業としてのカスハラ対応について従業員から責任を追及される
(3)他の顧客への影響、信用低下

(1)従業員の休職・退職

前に挙げたようなカスハラ行為は、対応する従業員の心身に多大な負担を及ぼすものです。

暴行による怪我や、カスハラに起因する精神疾患等により業務が困難になり休職せざるを得なくなったり、場合によっては退職を選んだりする従業員も出てくるかもしれません。

特に、同じ従業員が度重なるカスハラ行為を受けているような場合には、企業がこれを放置しているとうつ病や適応障害といった疾患に発展しやすくなります。

(2)企業としてのカスハラ対応について従業員から責任を追及される

会社は、労働契約上の付随義務または不法行為法上の義務として「職場環境配慮義務」を負っており、これに違反した場合には、債務不履行または不法行為として、被害者(労働者)に対し損害賠償責任を負うとされています。

顧客等からのカスハラ行為に対し企業が適切な対応をしなければ、この「職場環境配慮義務」に違反したとして責任を追及される場合があります。

関連記事:「職場環境配慮義務」とは何か?企業が知っておくべき法的リスクと対策

(3)他の顧客への影響、信用低下

暴行や脅迫があった場合、同じ店舗内の他の客の恐怖心を煽り、その店舗には来店しなくなるといったことも考えられます。

また、被害例として挙げたように、カスハラ行為の中には企業や従業員の信用を低下させるものもあります。

いずれも企業にとって大きな損失の要因ですので、カスハラ行為には迅速に対応することが必要です。

4 弁護士に相談すべき3つのタイミング

(1)社内での対応が長期化した場合
(2)顧客等の行為が刑事罰の対象となる場合
(3)カスハラへの対応に関して企業が従業員から責任を追及された場合

(1)社内での対応が長期化した場合

カスハラ行為に対し、社内で顧客等との対話により解決を図ろうとしたものの、対応が長期化することがあります。

カスハラ対応により通常業務に支障が生じるような場合には、対応担当者の心身への二次被害も想定されますので、弁護士に対応を依頼することを検討してください。

また、第三者かつ専門家である弁護士を通すことにより、顧客の反応が軟化しうるといったメリットも考えられます。

(2)顧客等の行為が犯罪に該当しうる場合

カスハラ行為が先ほど挙げたような犯罪に該当しうると考えた場合には、実際にどのように動けばよいかといった法的な知識が求められます。

証拠収集や加害者との示談交渉は、弁護士が法的な知識に基づき行うことが望ましいでしょう。

(3)カスハラへの対応に関して企業が従業員から責任を追及された場合

カスハラについて従業員から会社に相談をしたのに、これについて適切な対応がされなかったとして、従業員が安全配慮義務違反を主張して企業の責任を追及する場合があります。

このような場合における従業員との交渉や訴訟については、法律の専門家である弁護士に相談することでスムーズな解決が見込めます。

5 社員を守り、企業も守る!就業規則とマニュアルの整備方法

カスハラから従業員を守り、ひいては企業を守るために、カスハラ対応のマニュアルを整備しておくことが重要です。

マニュアルを整備するにあたって、ポイントとなるのは以下の3点です。

(1)企業としての方針を示す
(2)担当者の初動対応を決めておく
(3)ケーススタディ

(1)企業としての方針を示す

カスハラ対応のマニュアルを定めるにあたり基本となるのが、「企業としてカスハラには厳正に対処する」といった方針を示すことです。

従業員は、カスハラと思しき行為を受けた場合に、「会社に相談してもいいのか」「本当に適切に対応してくれるのか」と不安になることが考えられます。

従業員が企業の対応への不安感から一人で抱え込んでしまうことのないよう、企業としての方針を示し、周知することが大切です。

(2)担当者の初動対応を決めておく

実際にカスハラ行為を受けた担当者が「まず何をすべきか」をマニュアルとして定めておくことにより、「自分の行動が適切なのか」という不安感から従業員を解放することを図ります。

初動対応の軸としては、以下の3点が挙げられます。

① カスハラ行為の現場での対応方針
② 社内の相談窓口
③ 会社に相談すべきタイミングや判断基準

① カスハラ行為の現場での対応方針

カスハラに該当しうる行為を実際に受けているとき、担当者がどのように対応するかを決めておきます。

(現場での対応方針の例)

「明らかに不当な要求は断る」
「〇分、〇時間続くようであれば退去要求する」
「自分では対応困難な場合は担当者を交代する」

また、録音や防犯カメラ映像を保存しておくといった証拠収集についても、必要に応じて現場対応に含めることが考えられます。

② 社内の相談窓口

カスハラ行為を受けた後、社内の誰に(どこに)相談すればよいのかを決めておきます。

相談窓口が明確に決まっていないと、手近な上司や同僚に相談することになりますが、相談を受けた方もその後何をすればよいかわかりません。

また、相談窓口を設けておくことによって、会社としてカスハラに適切に対応するという姿勢を示すことにもつながります。

③ 会社に相談すべきタイミングや判断基準

どのような行為がカスハラに該当するかは様々であり、その範囲は非常に不明確です。

後述するケーススタディを用いて、同様の事案があった場合には会社に相談する、というように、タイミングや判断基準を明示することが考えられます。

(3)   ケーススタディ

カスハラ対応のマニュアルに、実際に発生した事例を記載しておくことも有用です。

従業員が窓口に相談すべきかどうかの指標となるほか、過去の事例を踏まえて同様のトラブルが起こらないよう体制を整えることにもつながります。

自社で発生したカスハラ事案の概要と対応以外にも、裁判例などから他社で発生した事案もピックアップしておくと、より広範に対応することができるでしょう。

なお、カスハラ対応のマニュアルを就業規則で定める場合には、こちらの記事もご覧ください。就業規則作成のポイントを紹介しています。

従業員が10人未満の会社も要チェック!就業規則がないと違法?

6 まとめ

今回は、カスハラへの対応について解説しました。

近年増加傾向にあるカスハラは、従業員にも企業にも被害を及ぼしうるものですので、事案に即した適切な対応が求められます。

また、実際にカスハラ事案が発生する前に、あらかじめマニュアルを整備しておくことも重要です。カスハラ対応でお困りでしたら、労働紛争に強い弁護士である弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

カテゴリ一覧

アクセスランキング

新着記事

CONTACTお問い合わせ



ご相談など、お気軽に
お問い合わせください。

電話アイコンお電話でのお問い合わせ

06-4394-7790受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)

メールアイコンwebフォームよりお問い合わせ