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2024.02.26 2024年4月4日

「職場環境配慮義務」とは何か?企業が知っておくべき法的リスクと対策

「職場環境配慮義務」とは何か?企業が知っておくべき法的リスクと対策

職場でハラスメント行為が行われた場合,加害者は被害者から損害賠償責任を問われるでしょう。

しかし,従業員のハラスメント行為については,加害者だけでなく,会社も責任を問われることがあります。

会社は職場環境配慮義務を負っており,これに違反すると判断される場合です。

では,会社が負う職場環境配慮義務とはいったいどのような義務なのでしょうか。

今回は,職場環境配慮義務について解説します。

1 職場環境配慮義務とはどのような法的根拠に基づくのか?

職場環境配慮義務とは,使用者が労働者にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務のことです。

会社は,労働契約上の付随義務または不法行為法上の義務として負っており,これに違反した場合には,債務不履行または不法行為として,被害者(労働者)に対し,損害賠償責任を負うと解釈されています。

例えば,職場でセクシャル・ハラスメント(セクハラ)が行われている場合には,会社は何らかの対策を講じ,職場の環境を改善しなければなりません。

セクハラの被害者が,会社に対して責任を問う場合には,使用者責任(民法715条)を主張することが考えられます。

しかし,加害者の行為が業務と関連していない,あるいは加害者をはっきりと特定できないような場合には,使用者責任が否定される可能性があります。

そのような場合であっても,会社に職場環境配慮義務の違反が認められると,責任を問われることがあります。

2 職場環境配慮義務の具体的な内容とは?

令和元年6月5日に女性の職業生活における活躍の推進等に関する法律等の一部を改正する法律が公布され、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法が改正されました(令和2年6月1日施行)。

これに伴い,厚生労働省から,ハラスメント防止のために事業主が雇用管理上講ずべき措置等が公表されています。

職場環境配慮義務の具体的な内容を知る上で,非常に参考となりますのでご紹介します。

なお,職場環境配慮義務が問題となる場面はハラスメントのみならず,いじめや嫌がらせといった事案についても問題となる点に留意してください。

(1)事業主の方針の明確化及び周知・啓発
(2)相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
(4)併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

(1)事業主の方針の明確化及び周知・啓発

何がハラスメントにあたるのかといった事項や,ハラスメントを行ってはならない旨の方針などを明確化し,管理監督者を含む従業員に周知・啓発することが求められます。

また,ハラスメントの行為者については,厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定し,従業員に周知・啓発することとされています。

(2)相談・苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

会社は,相談窓口をあらかじめ定め,従業員に周知しなければなりません。

また,相談窓口担当者が,内容や状況に応じ適切に対応できるようにしなければなりません。

ハラスメントが現実に生じている場合に限らず,発生のおそれがある場合や,ハラスメントに該当するか否か微妙な場合にあっても,広く相談に対応する必要があります。

(3)職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。

事実関係の確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行い,行為者に対する措置を適正に行います。

また,再発防止に向けた措置も講じる必要があります。

(4)併せて講ずべき措置 (プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する必要があります。

また,事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等

を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、従業員に周知・啓発しなければなりません。

参考:職場におけるパワーハラスメント対策が 事業主の義務になりました!|厚生労働省

3 職場環境配慮義務違反による損害賠償請求のリスクとその対策

職場環境配慮義務に反する場合,従業員から債務不履行や不法行為に基づく損害賠償請求がされるリスクがあります。

そのようなリスクを回避するため,言い換えれば,従業員に気持ちよく働いてもらうために,以下のような対策をとりましょう。

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する
(2)被害者の配慮のための取組を行う
(3)被害を防止するための取組を行う

(1)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備する

上司や担当者など,あらかじめ相談先を定めておき,従業員に周知しましょう。

相談を受けた者が,内容や状況に応じて適切に対応できるようにしておく必要があります。

社員が当該相談したことで,解雇その他不利益な取り扱いを受けるのであれば,従業員は怖くて相談できません。

必ず不利益な取り扱いを受けない旨を定め,従業員に周知しておきましょう。

(2)被害者の配慮のための取組を行う

被害を受けた従業員は,心に深い傷を負っています。

ハラスメントやいじめ・嫌がらせを受けただけでなく,会社に言うべきか,言ったら会社に居づらくなるのではないかなどの様々な悩みを抱えています。

事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行いましょう。

(3)被害を防止するための取組を行う

ハラスメントやいじめ・嫌がらせは,職場内に限ったことではありません。

従業員が取引先からセクシャル・ハラスメントを受けている,嫌がらせを受けているといったケースもあります。

そのため,他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うことも重要です。

4 職場環境配慮義務に違反しないための対応の流れ

以下の図は,厚生労働省が公表している相談・苦情への対応の流れになります。

職場環境配慮義務に違反しないためにも,是非,確認しておくことをお勧めします。

引用:職場のハラスメント防止対策対応事例集|厚生労働省

5 職場環境配慮義務に関する裁判例とそのポイント

(1)福岡地裁平成4年4月16日判決(福岡セクシャル・ハラスメント事件)

日本の裁判で,初めて職場環境の配慮について言及した事案です。

<事案の概要>
男性編集長は,原告(女性社員)が雑誌の編集等の事務において重要な役割を果たすようになっており,女性である原告が宴会に出席するなど積極的に活動することを快く思っていませんでした。男性編集長は,原告の社会的評価が下がるような発言を繰り返し,転職を勧めるなどしたため,原告との関係が悪化しました。このような中で,会社は原告と面談し,男性編集長との話し合いがつかなければ退職してもらうことになる旨を述べたため,原告は退職する意思を表明しました。そこで,原告は,男性編集長及び会社に対して不法行為に基づく損害賠償請求をしたという事案です。

<裁判所の判断>
裁判所は,「使用者は,被用者との関係において社会通念上伴う義務として,被用者が労務に服する過程で生命および健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負う」としました。そのうえで,会社の行為について,「職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り,また,憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず,主として女性である原告の譲歩・犠牲において職場関係を調整しようとした」して,慰謝料合計150万円を認めました。

上記裁判例においては,会社が話し合いの場を設けたものの,主として女性社員である原告の譲歩・犠牲において職場関係を調整しようとした点がポイントといえるでしょう。

しっかりと事実関係を調査したうえで,適切な対応をとることが求められます。

(2)仙台地裁平成13年3月26日判決(仙台セクシャル・ハラスメント事件)

職場環境配慮義務につき,雇用契約上の付随義務と位置づけ,さらに内容を具体化した事案です。

<事案の概要>
原告(女性従業員)は,男子従業員がのぞき目的で営業所の女子トイレ内の掃除道具置場に侵入しているのを発見したことについて,被告(会社)に対し,早期かつ迅速な事実関係の調査を求めました。ところが,被告はこれを怠ったただけなく,原告に対し,様々な嫌がらせを行うなど不適切な対応を重ねたうえ,依願退職として退職願を提出するよう求めました。原告は被告から退職金も保証できないなどと言われたため,被告の求めに応じて退職願を提出し,退職するにいたりました。そこで,原告は被告に対し,不適切な対応(職場環境配慮義務違反)や不当解雇による不法行為に基づく損害賠償を求めたという事案です。 

<裁判所の判断>
裁判所は,「事業主は、雇用契約上、従業員に対し、労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、職場においてセクシャルハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合、誠実かつ適切な事後措置をとり、その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適正に対処する義務を負っているというべきである」と述べました。そして,被告は,男性従業員に対し、「電話などで、Aが原告に対し電話で話した内容、すなわちのぞき見目的で侵入していたか、人に頼まれて写真を撮ろうとしていたか、雑誌社に送っているのかどうか等について事情を聴取し、その上で、被害回復、再発防止のための適切な対処をする義務が存在した」と具体的な義務の内容を述べたうえで義務違反を認め,慰謝料合計350万円を認めました。

上記裁判例では,男性従業員がのぞき目的で営業所の女子トイレに侵入していたことが問題となっているのではなく,その後の会社の女性従業員に対する対応が不適切であったという点がポイントです。

会社内で問題が起こらないよう努めることも重要ですが,問題が起こってしまった場合にとるべき対応も重要となりますので注意しましょう。

(3)千葉地裁令和4年3月29日判決

近時の裁判例であり,ハラスメントの成立を否定しながらも,職場環境配慮義務(職場環境調整義務)の違反を認めた事案です。

<事案の概要>
被告は,テーマパークを経営,不動産賃貸等を目的とする会社であり,原告(従業員)は被告と労働契約を締結したキャラクター出演者を務めていました。原告は,上司及び同僚から「学校じゃない。てめえらは稼いでるんだから,ちょっとは我慢しろよ」,「我慢できねえなら,とっとと辞めちゃえよ。」と言われるなど,パワーハラスメントやいじめを継続的に受け,これによって精神的苦痛を受けたとして,被告に対し,労働契約上の債務不履行若しくは不法行為又は使用者責任に基づく損害賠償を求めた事案です。 

<裁判所の判断>
上司及び同僚らの発言については,「社会通念上相当性を欠き違法となるとまでいうことはできない。」と判断しました。一方で,被告は,「職場の人間関係を調整し,原告が配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務を負っていた」と述べ,「被告は,この義務に違反し,職場環境を調整することがないまま放置し,それによって,原告は,周囲の厳しい目にさらされ,著しい精神的苦痛を被ったと認めることができる」と判断し,慰謝料合計88万円を認めました。

上記裁判例では,ハラスメントの成立は否定していますが,職場環境配慮義務(職場環境調整義務)違反を認めている点がポイントです。

職場環境配慮義務が問題となるのは,ハラスメントやいじめ・嫌がらせといった場面です。

しかし,ハラスメントやいじめ・嫌がらせが認定されなくても,会社の責任が問われることがあることに留意する必要があります。

6 まとめ

今回は,職場環境配慮義務について解説しました。

職場環境配慮義務とは,使用者が労働者にとって働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務のことです。

会社は,従業員のハラスメントやいじめ・嫌がらせといった行為に関し,使用者責任が認められない場合であっても,職場環境配慮義務に違反するとして損害賠償責任を負う可能性があります。

職務環境配慮義務に違反しないためにも,しっかりと対策を講じ,従業員が気持ちよく働ける環境を整えましょう。もし,職場環境配慮義務の違反により,従業員から損害賠償請求されてしまったという場合には,当事務所までお気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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