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2024.02.09 2024年4月4日

従業員(社員)を解雇、辞めさせたい!失敗しないための6つのステップ

従業員(社員)を解雇、辞めさせたい!失敗しないための6つのステップ

会社が従業員(社員)を解雇したい,辞めさせたいと考える理由は様々です。

代表的な例としては,会社が求める能力がない,問題行動ばかり起こして会社の秩序を乱す,人件費を削減したい場合などが挙げられます。

しかし,従業員を解雇するということは,従業員が収入を失う,言い換えれば,生活基盤を失うということです。

そのため,法律上,容易に認められるものではなく,解雇が無効と判断されるケースもあります。

では,どのようにして適法に従業員を解雇することができるのでしょうか。

本コラムでは,従業員を解雇する際に,失敗しないためのステップなどを解説します。

1 従業員(社員)を解雇したい時に注意すべき法的な制約

民法627条1項では,期間の定めのない雇用契約について,2週間に予告期間を置けばいつでも解約できると定められています。

しかし,解雇は労働者に対し,経済的にも精神的にも重大な影響を与えかねません。

そのため,従業員を解雇させる場合には,大きく分けて,以下のような制約が存在します。

(1)解雇手続に対する規制
(2)解雇理由に対する規制

(1)解雇手続きに対する規制

具体的には,①解雇予告による制限,②時期的な制限,③労働協約等による手続的制限があります。

①解雇予告による制限

例えば,基本的に,解雇は,少なくとも30日前に予告しなければなりません。

予告を行わない場合は30日以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

ただし,一定の場合には,労働基準監督署長の認定のもとで,解雇予告手当を支払う必要がなくなります。

(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
(略)

引用:労働基準法|e-Gov 法令検索

②時期的な制限

原則として,会社は,従業員が業務上の負傷・疾病による療養のため休業する期間と,その後の30日間は,解雇することができません。

産前産後,産休期間およびその後の30日間も解雇が禁止されています。

(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
(略)

引用:労働基準法|e-Gov 法令検索

③労働協約等による手続的制限

労働協約や就業規則により,使用者が解雇を行う際には,労働組合との事前の協議,または同意を要することが定められる場合があります。

この場合,事前の協議や同意が必要となります。

(2)解雇理由に対する制限

具体的には,①法令による制限,②就業規則や労働協約による制限,③判例による制限があります。

①法令による制限

労働基準法3条によって,国籍や信条,社会的身分を理由とした,差別的な解雇は禁止されています。

性別を理由とした解雇(雇用機会均等法6条)や労働基準監督署に法違反を申告したことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)なども認められません。

これらの他にも,法律で様々な解雇が禁止されています。

②就業規則や労働協約による制限

「解雇の事由」は,就業規則の作成義務がある常時10名以上の従業員がいる事業場では,就業規則に記載する必要があります(労働基準法89条3号)。

懲戒解雇の場合,使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するとされています(最判平成15年10月10日)。

③判例による制限

判例による規制の代表例は,解雇権濫用法理と整理解雇の法理です。

解雇権濫用法理とは,解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上(常識的に考えて)相当であると認められない場合には,権利の濫用として無効となる判例法理です。

平成15年の労働基準法改正で,労働契約法16条に明文化されました。

どのような場合に,客観的に合理的な理由があり,解雇が相当であるといえるかは,解雇の理由ごとに,裁判例などから検討する必要があります。

例えば,著しい能力不足や勤務態度の不良,業務命令違反などは,解雇の合理的理由となる可能性があります。

従業員が反省していない,過去に同じような事例で他の労働者を解雇しているなどの事情がある場合には,解雇が相当であると認められる可能性があります。

ただし,上に挙げた例に該当すれば,ただちに解雇が認められるというわけではありません。

また,会社側が客観的に合理的な理由の存在や解雇の相当性を証明しなければいけませんので,容易に認められるものではない点に留意しましょう。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用:労働契約法|e-Gov 法令検索

整理解雇の法理とは,会社が経営不振などの経営上の理由により,人員削減の手段として解雇(整理解雇)する場合には,一定の要件のもとで,解雇の合理性・相当性を判断する判例法理です。

一定の要件とは,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性という4つの要件をいい,「整理解雇の4要件」と呼ばれます。

これらの要件をもとに,解雇の合理性・相当性が否定される場合には,解雇が無効となります。

2 法的な制約に違反して従業員(社員)を解雇した場合のリスク

(1)経済的なリスク

従業員から,解雇をしてから現在に至るまでの賃金や賠償金を求められる可能性があります。

法的な制約に違反してなされた解雇は,権利の濫用として無効となります。

解雇が無効と判断された場合には,労働契約は解約されないまま有効に存続していたものとして扱われます。

労働契約が有効に存続していたということは,従業員が働くことができたにもかかわらず,会社側が従業員の就労を拒否していたということになります。

そのため,民法536条2項によって,制約に違反してなされた解雇から無効と判断されるにいたるまでの期間について,従業員の賃金請求権が認められる可能性があります。

また,従業員が違法な解雇によって賃金以外にも損害を受けたことを立証すれば,不法行為として,会社に対する損害賠償請求が認められる場合もあります。

(2)経営上のリスク

不当な解雇がなされたという事実は,大きな注目を浴びることによって,会社の信用低下を招く危険性があります。

また,従業員の士気の低下や,人材流出にも繋がりかねません。

3 従業員(社員)を解雇したい場合に採りうる2つの方法

従業員を解雇したい,辞めさせたいと考える場合に採りうる方法は,退職勧奨と解雇の2つです。

(1)退職勧奨

会社が従業員に退職を促し,従業員が自主的に退職届を提出して辞めてもらう方法です。

既に述べた通り,解雇には様々な法的制約があります。

他方で,退職勧奨は,本人による同意を得て退職となるため,法的な制約はありません。

そのため,基本的に,自由に行うことが可能です。

ただし,退職を促す方法や言動によっては,退職勧奨行為が違法と判断され,退職自体が無効とされたり,従業員からの損害賠償請求が認められたりするケースもあるため注意が必要です。

(2)解雇

従業員に対して,散々退職を促したにもかかわらず,従業員が自ら辞めようとしない場合には,解雇するしかありません。

解雇には,大きく分けて,懲戒解雇と普通解雇があります。

懲戒解雇とは,懲戒処分としての解雇であり,就業規則等に懲戒の種別と事由が定められていなければ,解雇は認められません。

普通解雇とは,懲戒処分以外の解雇であり,著しい能力不足など,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められる場合に限って認められます。

解雇は最終手段であると認識することが肝要です。

問題行動を起こす社員に対する場合は,まずは,注意や指導,比較的軽い処分を行い,それでも改善されない場合に,解雇の手続きへと移行します。

人員削減の必要から整理解雇を行う場合も,解雇を回避するため,可能な限り努力しなければなりません。

4 従業員(社員)を解雇したい場合の具体的な6つのステップ

従業員を解雇したい,辞めさせたいと考えた場合には,以下のような手順で進めましょう。

(1)解雇事由や手続きを確認する
(2)事実関係を調査する
(3)注意や指導を行う
(4)軽微な処分を行う
(5)退職勧奨を行う
(6)解雇手続きを行う

(1)解雇事由や手続きを確認する

まずは,就業規則の解雇事由に該当するか確認しましょう。

普通解雇と懲戒解雇とで,必要となる手続きも異なってきますので,事前にチェックしておきましょう。

(2)事実関係を調査する

今回のケースが懲戒事由にあたるのか,あるいは解雇する客観的合理的な理由があるのかといった判断をしなければなりません。

判断をするためには,事実関係を調査する必要があります。

(3)注意や指導を行う

従業員に問題がある場合でも,原則として,社員を即時解雇することは認められません。

実際の裁判でも,会社側の注意や指導が不十分であったとして,解雇が無効と判断されるケースが存在します。

解雇は,どうしようもない場合の最終手段という位置付けです。

解雇を検討するにあたっては,まず先に,注意や指導を行うようにしてください。

注意や指導を行った際には,書面やメールなどの証拠を残しておきましょう。

(4)軽微な処分を行う

懲戒解雇を行う場合,いきなり懲戒解雇することは,基本的に認められません。

懲戒解雇は,懲戒処分の中でも最も重い処分です。

退職金の全部または一部が支給されず,解雇予告や解雇予告手当の支払いを伴わずに即時解雇されるのが一般的です。

そのため,注意や指導に相当する戒告やけん責を選択し,減給,出勤停止,降格などといった段階を踏むことが求められる場合があります。

解雇させたいと考えている場合であっても,先に軽微な処分を選択することが重要です。

(5)退職勧奨を行う

従業員が自主的に退職に応じるのであれば,解雇手続きを踏まずに済みます。

しかし,あまりに早い段階で退職勧奨を行うことは,退職の強要と判断されかねません。

退職勧奨を行うこともやむを得ないと考えられるこのタイミングで,交渉を持ちかけることをお勧めします。

(6)解雇手続を行う

注意や指導,軽い処分,退職勧奨などを行ってきたにもかかわらず,問題が改善されず,従業員を解雇したいという気持ちも変わらなければ,解雇手続を行います。

事前に確認した解雇手続を行いましょう。

例えば,解雇通知書の作成や解雇予告あるいは解雇予告手当の支払いなどです。

懲戒解雇の場合は,解雇する前に,本人に懲戒事由を伝え,弁明の機会を与える必要があります。

5 従業員(社員)の解雇を有効とした裁判例(マイクロソフト事件)

従業員を解雇するには,いくつかのステップを踏み,解雇に向けて準備する必要があります。

裁判で解雇が有効とされた裁判例として,日本マイクロソフト事件(東京地裁平成29年12月15日判決,労判1182.54)が非常に参考となるでしょう。

実際の判決文は非常に長く,社員の態度や会社側の対応が非常に事細かく説明されていますが,ここでは,簡略化してお伝えします。

また,裁判では,会社内で起こった転倒による労災事故の有無も争点となりましたが,解雇の有効性のみに絞っています。

(1)事案の概要

被告である日本マイクロソフト(株)(以下,「Y社」)に正社員として雇用されていた原告(以下,「X」)が,平成25年6月29日付の解雇は不当であると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。

Xは,顧客から受けた質問に回答を行わなかったり,顧客への請求を確定するために必要な作業を行わなかったりしたため,業務改善プログラムが課されていました。

そのため,業務へのアサインを要求して,業務評価の対象となる稼働率を上げようと,同僚に無理な要求をし,自分が関与を断られた案件についても,関与を要求し続けるなどしました。

その後も,Xは業務関与へのプロセスを無視し,関係者にメールを送信するなどを続けたため,Xの直属上長や,その上司は注意指導を繰り返し,平成24年12月26日,「勤務改善指導書」を交付しました

Xは,これに対する言い分を記載した書面を提出しましたが,指摘事項のすべてについて思い当たらない旨が記載されていました。

勤務改善指導書の交付後も,勤務態度の改善が見られず, 2回目の「勤務改善指導書」の交付が行われました。

2回目の指導書に対するXが提出した書面にも,Xの改善意欲を示す内容は記載されていませんでした。

これらの他,Y社の指示が繰り返し行われていたにもかかわらず,必要な事前承認を受けないまま残業や休日出勤を繰り返し行うなどしていました。

平成25年2月9日,三連休の初日であった休日の午後10時,勤務していたXはY社内で転倒し,左足を骨折する事故に遭いました。

平成25年5月29日,Y社は,解雇予告通知書をもってXを解雇する旨を通知しました。

解雇通知書によると,解雇事由は,「勤務態度が悪く,業務命令に従わない等,会社からの再三の注意,指導にも応えようとしないこと。また,その改善の見込みがないこと。」と記載されていました。

(2)裁判所の判断

労働契約法19条の解雇規制(本コラム「1(1)②時期的な制限」参照)につき,「原告の主張する日は,所定休日あるいは,所定労働日に所定労働時間7.5時間以上の勤務実績がある日であり,休業の事実が認められない」と述べ,「労働基準法19条1項の解雇制限の適用はない」としました。

その上で,「Y社は,・・・「勤務改善指導書」を交付する等,再三にわたってXに対する注意指導を行ったが,XはY社が指摘した事項に該当する事態については思い当たらないとしており,Y社がいくつか具体的なエピソードを指摘して業務遂行上・勤務態度につき重大な指摘を受けているにもかかわらず,Xからは反省の言がなく,Xにおいて上司等の教育指導に真摯に向き合っていないと言わざるを得ない」と述べ,「本件解雇は,客観的合理的理由があり,社会通念上相当であるから,有効である」と判断しました。

6 まとめ

今回は,従業員を解雇する際に,失敗しないためのステップなどを解説しました。

従業員(社員)の解雇には,様々な制約が存在します。

制約に違反して解雇した場合,従業員から,解雇後の賃金や賠償金を求められる可能性があります。

また,会社の信用低下に繋がるなどの危険性もあります。

解雇を検討の際には,慎重に手続きを進めましょう。もし,従業員(社員)の解雇でご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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