2024.04.12 2024年4月12日

人事異動を拒否された!弁護士が解説する企業側の対応策

人事異動を拒否された!弁護士が解説する企業側の対応策

従業員に地方支社への転勤を命じたとしても,子どもが生まれたため行きたくないなどと拒否されてしまうケースがあります。

会社は,従業員が転勤を拒否した場合であっても,転勤させることができるでしょうか。

また,拒否されたことを理由に,会社が従業員を解雇することは許されるのでしょうか。今回は,人事異動について詳しく解説します。

1 人事異動の基本

人事異動とは,会社の命令により,従業員の配置や地位,職務内容を変更することをいいます。

具体的には,配転や出向,転籍,役職の任免,昇格,降格などが挙げられます。

日本の企業では,広く人事権が認められており,特に定期的に配転を行っているところが多く,配転(配置転換,転勤)の多さは日本企業の大きな特徴の1つといえるでしょう。

配転によって,多数の職場や仕事を経験させることで幅広い知識や技術をもち,多様に変化していく市場に対応できる雇用を維持することが可能になります。

しかし,このような人事異動は,従業員の私生活に少なからず影響を与えるという側面もあります。

そのため,裁判では会社による人事異動が認められない,言い換えれば,従業員が人事異動を拒否できるケースも存在するのです。

以下では,人事異動の中でも特に頻繁に行われる配転について解説します 。

2 人事異動(配転命令)の拒否が認められてしまうケースとは?

従業員による配転の拒否が認められてしまうケースは,以下の事情に該当する場合です。

(1)契約上の根拠がない
(2)配転命令が権利濫用にあたる
(3)強行法規に反する

以下では上記3つのケースについて,それぞれ詳しく解説します。

(1)契約上の根拠がない

具体的には,次に掲げる場合です。

① 配転命令を根拠づける規定がない
② 職務内容(職種)が限定されている
③ 勤務地(勤務場所)が限定されている

① 配転命令を根拠づける規定がない

会社が従業員に対し,有効に配転を命じるには,配転命令権が認められなければなりません。

配転命令権が認められるには,契約上の根拠が必要です。

例えば,労働協約や就業規則の定め,個別の労働契約上の合意などによって会社の配転命令権が根拠づけられていることが必要です。

配転命令が根拠づけられない場合,契約上の根拠がないものとして,従業員による配転命令の拒否が認められてしまいます。

② 職務内容(職種)が限定されている

配転命令を根拠づける規定があるとしても,当該従業員との間で職務内容(職種)を限定する合意がある場合,配転命令権はその合意の範囲内でしか認められません。

例えば,病院の看護師など専門性の高い事案では,職務内容の限定が認められやすいです。

当初の業務と配転先の業務の内容が大きく異なっている場合には,職務内容(職種)を限定する合意があるとして,配転命令の拒否が認められてしまう可能性があります。

③ 勤務地(勤務場所)が限定されている

職務内容(職種)が限定されている場合と同様に,勤務地の限定が認められる場合にも,配転命令の拒否が認められてしまう可能性があります。

勤務地限定社員など勤務地を限定したうえで正社員として採用している場合には,勤務地を限定する明示の合意があると認められる可能性があるでしょう。

また,採用段階で従業員が転勤には応じられない旨を明確に述べていた,希望勤務地が明確に記載されていたといった場合にも,勤務地を限定する合意があったと認められる可能性があります。

(2)配転命令が権利濫用にあたる

配転命令権が認められる場合であっても,配転命令権の行使が権利濫用にあたる場合は,配転命令の拒否が認められてしまいます。

判例上,次の①~③のいずれかに該当する場合は,配転命令が権利濫用にあたるとされています。

また,④は重要な判断要素として考慮される傾向にあります。

① 業務上の必要性がない
② 不当な動機・目的がある
③ 従業員に対して著しい不利益となる
④ 手続きが妥当でない

① 業務上の必要性がない

業務上の必要性がないにもかかわらず,配転命令権を行使することは認められません。

業務上の必要性があるかどうかの判断基準は,配転命令が会社の合理的運営に寄与するといえるかどうかです。

実際の裁判では,定期人事異動や欠員の補充,余剰人員の再配置,労働者の病状等を考慮した業務変更といった場合に,業務上の必要性が認められています。

② 不当な動機・目的がある

配転命令が,従業員への嫌がらせや退職に追い込むためなどといった不当な動機・目的をもってなされた場合には,配転命令権の行使が有効なものとして認められません。

例えば,退職勧奨を拒否した従業員に対する嫌がらせ,会社を批判する活動を行った従業員を排除する目的などに基づく場合です。

裁判では,内部通報者に対する業務上の必要性のない配転命令も,不当な動機・目的をもってなされたものと判断されています。

③ 従業員に対して著しい不利益となる

配転命令が,従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には,配転命令権の行使が認められません。

裁判では,転勤すると病気の家族を介護または看護できなくなるため拒否するというケースが多いです。

また,持病の治療のため遠くに離れることができないケースなども挙げられます。

一方で,保育園の送り迎えに時間がかかるようになる,通勤時間が長くなるといった理由のみで著しい不利益があると判断されることは,基本的にありません。

④ 手続きが妥当でない

配転にいたる手続きが妥当といえない場合には,他の事情と相まって権利濫用となる可能性があります。

例えば,従業員が拒否する理由を聴いたか,配転の必要性について労働者に具体的に説明したか。労働組合等と誠実に協議・交渉したかなどです。

(3)強行法規に反する

配転命令は,権利濫用以外の強行法規に反する場合も,従業員からの拒否が認められてしまいます。

強行法規とは,当事者の合意によっては適用を排除することができない規定のことです。

例えば,配転命令が公序良俗(民法90条)に反する場合や男女差別(雇用機会均等法6条)にあたる場合です。

3 会社による人事異動(配転命令)が権利濫用にあたるとされた裁判例

ここでは,会社による配転命令権の行使が権利濫用にあたるとされた裁判例をご紹介します。

(1)大阪高裁平成21年1月15日判決(NTT西日本事件)

被告会社(NTT西日本)の従業員又は従業員であった原告らが,雇用形態を変更する会社の計画に基づく違法な配転命令を受けたとして,会社に対し慰謝料の支払を請求した事案です。

裁判所は,長時間の新幹線通勤又は単身赴任を余儀なくさせるものであったことを併せ考えると,大阪から名古屋への配転命令については。そのような負担を負わせてまで従業員を配転しなければならない程の業務上の必要性を認めることはできないとして,原告らの請求を一部認めました。

(2)大阪高裁平成25年4月25日判決(新和産業事件)

被告会社(新和産業)の営業職であった原告が,営業部から倉庫への配転と課長職からの降格を命じられ賃金が減額されたことに対し,配転命令の無効と配転先での就労義務不存在の確認などを求めた事案です。

裁判所は配転命令について,原告が退職勧奨を拒否したことへの報復として退職に追い込むため,又は合理性に乏しい大幅な賃金減額の正当化のために配転命令をしており,業務上の必要性とは別個の不当な動機及び目的によるものであった評価しました。

また、配転命令に伴い賃金を2分の1以下へと大幅に減額することも社会通念上、甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、本件配転命令は権利の濫用により無効というべきであると判断しました。

(3)東京高裁平成20年3月27日(ノース・ウエスト航空事件)

被告会社のフライト・アテンダント(FA)として雇われていた原告が,地上職である旅客サービス部への配転命令につき,職種をFAに限定する合意が存在していたとして,配転命令は権利濫用又は不当労働行為であるとして,航空会社に対し地位確認と不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。

第一審は,職種を限定する合意は存在せず,配転命令は権利濫用にあたらないと判断していました。

これに対し,第二審の東京高裁は,配転命令につき,余剰労働力の適正配置などを行う一般的な業務上の必要性があったことは肯定できるものの,地上職では得られないFA特有の収入であるインセンティブ・ペイを含む複数の手当てを得ることができなくなり,無視できない経済的不利益を受けたものであると認定しました。

また,FAの職位を確保することの障害を会社自身が作出し,本件配転命令を行うまでにとった手続きも充分でなく,会社の対応は誠実性に欠けるものと評価しました。

その上で,本件配転命令は,権利の濫用であったとして無効であると判断しました。

4 従業員に人事異動(配転命令)を拒否された場合の対応策

配転命令権の行使が権利濫用にあたらないにもかかわらず,従業員に人事異動を拒否された場合には,次のような対応をとることが考えられます。

(1)なぜ拒否するのか確認する
(2)十分に説明して説得する
(3)待遇について再検討する
(4)懲戒処分を検討する
(5)退職勧奨を検討する
(6)解雇を検討する

(1)なぜ拒否するのか確認する

まずは,従業員が拒否する理由を確認しましょう。

その理由が事実であるかも確認する必要があります。

当該配転命令が,従業員に著しい不利益を与えるものにあたるか判断することが可能になります。

(2)十分に説明して説得する

拒否する理由を確認し,正当な理由があるといえない場合には,当該従業員に対して配転命令の説明をして説得しましょう。

説明の具体的な内容としては,配転が必要な理由,対象者を選定する基準,勤務場所,職務内容,待遇面などです。

(3)待遇について再検討する

拒否する理由を確認した場合には,その理由を会社が協力して取り除く,あるいは負担を軽減させることができるかもしれません。

給与や単身赴任手当の支給,帰宅するための休日付与などを再検討し,説得に努めましょう。

(4)懲戒処分を検討する

十分に説明して説得にあたったにもかかわらず,従業員が配転命令を拒否する場合には,懲戒処分を検討することになります。

就業規則に懲戒の種別と事由が定められ,それが従業員に周知されている場合には,配転命令の拒否に対して懲戒処分を行うことが認められる可能性があります。

懲戒処分は労使間のトラブルに発展しやすいため,慎重に行う必要があるでしょう。

参考記事:懲戒解雇は最終手段!会社側が抱える3つのデメリットとは?

(5)退職勧奨を検討する

退職勧奨とは,社員に自発的な退職意思の形成を促すために,会社が社員に辞職を勧める,あるいは合意解約による退職を勧める行為です。

配転命令に従わない従業員に辞めてもらう一つの手段であり,解雇よりも穏便に解決できる可能性があります。

ただし,適切に行わないとトラブルになってしまう可能性がありますので,退職勧奨を行う方法やタイミングなどに注意しなければなりません。

(6)解雇を検討する

最終的には,解雇を検討せざるを得ません。

裁判例では,配転命令の拒否を理由に解雇したことが有効であると判断されたものもあります。

しかし,解雇は従業員の生活に大きな影響を与えるものであるため,容易に認められるものではありません。

配転命令について,業務上の必要性が高度なものであり,人選も適切で,待遇も好条件であったにもかかわらず,従業員が正当な理由なく拒否したといった例外的な場合に限られます。

解雇を検討する際には,弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

5 まとめ

今回は,人事異動について解説しました。

人事異動とは,会社の命令により,従業員の配置や地位,職務内容を変更することをいいます。

日本では,配転が頻繁に行われており,特に問題となりやすい人事異動の1つです。

会社による配転が権利濫用にあたり無効となってしまうケースもあるため,慎重に行う必要があるでしょう。もし,配転を含む人事異動についてご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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