2024.02.27 2024年4月4日

役員(取締役)解任の正当な理由とは?5つの判断チェックリスト

役員(取締役)解任の正当な理由とは?5つの判断チェックリスト

取締役などの役員を解任したいと考える場面は様々です。

「経営方針が合わない」

「能力が欠如していると感じる」

こういった場面で,会社は自由に役員を解任することができるのでしょうか。

また,役員を解任するにあたって,どのようなリスクがあるのでしょうか。今回は,役員の解任について解説します。

1 役員(取締役)の「解任」とは?「退任」や「辞任」との違い

役員の「解任」とは,役員の意思に関係なく,会社が任期の途中で役員をやめさせることです。

役員が任期満了を理由に地位を失う「退任」や,役員の任期満了前に役員が自発的に辞める「辞任」とは異なります。

役員とは,取締役や会計参与,監査役を意味します。

具体的には,経営方針の決定,業務の執行,業務や会計の監査などを担う人です。

役員は,権限が大きいため不正を働きやすく,会社に対する影響も大きいことから,選任や解任は会社にとって非常に重大な関心事であると言えるでしょう。

特に,取締役の解任については紛争になりやすいため,解任のリスクや手続きなどをしっかり理解しておくことが重要です。

2 役員解任には「正当な理由」が必要?役員解任におけるリスク

(1)役員解任に理由は必要ない

議決権を行使できる株主の過半数が賛成すれば,いつでも,株主総会決議によって解任することが可能です。

役員を自由に解任できない場合,会社は一向に利益を追及できなくなる可能性があります。

そのため,会社(株主総会)には役員解任の自由が認められています。

役員を解任するにあたって,理由は必要ありません。

(2)「正当な理由」がなければ損害賠償請求される可能性がある

役員の解任自体は理由なしに認められますが,「正当な理由」がない場合には,役員から損害賠償を請求される可能性があります。

役員には任期に対する期待があり,これを保護する必要があります。

一方で,前述の通り,会社(株主総会)には役員解任の自由が認められます。

そこで,両者の調和を図るため,解任された者は,その解任について「正当な理由」がなければ,株主会社に対して損害賠償を請求できることが定められています。

(解任)
第三百三十九条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

引用:会社法|e-Gov 法令検索

3 役員解任の「正当な理由」とは?

以下のような事情がある場合には,解任について,「正当な理由」が認められる可能性があります。

(1)法令や定款に違反する行為が認められる
(2)心身の故障が認められる
(3)職務への著しい不適任が認められる
(4)経営能力の欠如が認められる
(5)経営判断の失敗が認められる

(1)法令や定款に違反する行為が認められる

役員は,法令や定款を遵守する義務があります。

法令や定款に反する行為が認められる場合には,正当な理由が認められる可能性があります。

(2)心身の故障が認められる

心身の故障が認められる場合,役員として業務を遂行することが難しい場合があります。

このような場合には,正当な理由が認められる可能性があります。

(3)職務への著しい不適任が認められる

役員は,委任契約に基づき,会社の利益のために職務を遂行します。

しかし,自身の利益を追求しようと,会社の利益を無視して行動することも珍しくありません。

職務への著しい不適任が認められる場合には,正当な理由が認められる可能性があります。

(4)経営能力の欠如が認められる

経営能力が欠如しており,将来的に会社に対して損害を与える可能性が高い場合,このような役員を会社が放置しておくことはできません。

取締役に経営能力の欠如が認められる場合には,正当な理由が認められる可能性があります。

(5)経営判断の失敗が認められる

取締役は,自身の経験や知識に基づいて会社を経営するプロです。

経営判断の失敗は,会社から批難される理由としては十分でしょう。

しかし,成功には失敗がつきものです。

経営上の判断に失敗したからといって,常に正当な理由が認められては,経営者としてリスクを冒すことができません。

基本的に,経営上の判断の失敗だけで正当な理由が認められる可能性は低いです。

4 役員解任で企業が参考にすべき裁判例を紹介

損害賠償を請求されないためには,具体的にどのような場合に正当な理由が認められるのか,あるいは認められないのか理解しておくことが重要です。

ここでは,特に参考となる裁判例をご紹介します。

(1)正当な理由の内容を示した裁判例

正当な理由の内容につき,裁判所は以下のように述べています。

【東京地裁平成29年1月26日判決】会社・株主の利益と当該役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり,具体的には,会社において,当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情があることをいうものと解するのが相当である。
【東京地裁平成25年5月30日判決】「正当な理由」が存在する場合とは,当該取締役の職務の執行にあたり,①不正の行為や定款又は法令に違反する行為があった場合,②取締役が経営に失敗して会社に損害を与えた場合,③当該取締役の経営能力の不足により客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合には認められるが,単に株主と取締役との間で経営方針が異なるというだけでは,・・・認められない。

(2)正当な理由が肯定された裁判例

解任の正当な理由が肯定され,役員の会社に対する損害賠償請求が認められなかった裁判例です。

① 法令や定款に違反する行為

【東京地裁平成26年12月18日判決】
善管注意義務に違反する行為があって解任された以上,被告の任期に対する期待を保護する必要は乏しいから,・・・原告が被告を解任したことにつき「正当な理由」(会社法339条2項)があると認めるに十分である。

② 心身の故障

【最高裁昭和57年1月21日判決】
(持病の療養に専念していた)取締役の解任につき・・・正当な事由がないとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

③ 職務への著しい不適任

【東京地裁平成30年3月29日判決】
総合勘案すれば,本件事業について本件取締役会決議などがされていることなどを踏まえても,原告は,被告らの取締役として著しく不適任であるとされてもやむを得ないといえ,本件解任には正当な理由があるというべきである。

④ 経営能力の欠如

【横浜地方裁判所平成24年7月20日判決】
原告にはボウリング事業を展開していくだけの能力がなかったものといわざるを得ない。被告は、上記の状態を踏まえてボウリング事業から撤退するとの経営判断をしたものであり、原告を解任するについては正当な理由があったというべきである。

⑤ 経営判断の失敗

以下の裁判例では,経営判断の誤りが正当な理由にあたることを認めています。

しかし,実際には,経営者としての適格性などについても判断を下しており,経営判断の失敗のみによって正当な理由を認めたわけではない点に注意が必要です。

【広島地裁平成6年11月29日判決】
正当事由には、取締役として不適格であったり、業務執行に支障を生じるような事情があることは勿論、経営判断の誤りによって会社に損害を与えた場合も含まれるものというべきである。・・・右取引による損失の大部分は原告の経営判断の誤りに帰するものというべきである。・・・以上によれば、原告を取締役から解任したことに正当の事由があるものということができる。

(3)正当な理由が否定された裁判例

解任の正当な理由が否定され,役員の会社に対する損害賠償請求が認められた裁判例です。

① 会社との折り合いが悪い

【東京地裁昭和57年12月23日】
原告が被告会社内で顕著に孤立するようになったのは、次第に被告会社代表者との折合いが悪くなったことに最大の原因があるものと推認されるのである。
・・・前記のとおり見るべき成果をあげえていないのであるが、これは、・・・会社内で孤立し、また、何かと原告の営業活動に支障を来すような出来事に遭遇することもあったことが大いに関係しているものと認められるのであって、決して原告のみの責任に帰せしめうるものではない。
・・・以上検討したところによれば、結局原告の取締役解任には正当な事由がないものというほかはないから、被告は原告に対し、右解任により原告の被った損害を賠償しなければならない。

② 会社との信頼関係が失われた

【東京地裁平成27年6月22日判決】
会社経営に当たって大株主の意向を踏まえる必要があることまで否定するものではないが,大株主の信頼を失ったからといって,当然に取締役解任に当たっての正当な理由があるとはいえないと解される。

5 役員解任の「正当な理由」を判断するための5つのチェックリスト

以下は,役員解任の「正当な理由」を判断するための5つのチェックリストになります。

役員を解任したい場合には,以下のいずれかに当てはまらないかチェックしてみてください。

□ 行為が法令・定款に違反していないか
□ 心身の故障が認められないか
□ 職務への著しい不適任が認められないか
□ 経営能力が欠如しているといえないか
□ 経営上の判断に失敗したといえないか

6 役員解任に伴う法的な手続きと注意点

役員を解任するためには,株主総会で解任決議を経る必要があります。

具体的には,以下のような手続きになります。

(1)株主総会の招集
(2)株主総会での解任決議
(3)役員解任の登記

(1)株主総会の招集

役員の解任は,株主総会決議で行う必要があります。

まずは,株主総会を招集しましょう。

取締役会設置会社の場合は,取締役会を招集し、解任決議を行うための株主総会を招集することを決議します。

取締役会非設置会社の場合は,取締役の過半数によって株主総会を招集することを決定します。

(2)株主総会での解任決議

役員の解任は,株主総会の普通決議で行われます。

基本的には,株主総会で議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います。

ただし,累積投票によって選任された取締役を解任する場合には,株式会社の特別決議が必要です。

解任決議が成立すると,解任の効力が発生します。

(3)役員解任の登記

役員の解任決議が成立した場合には,解任日の翌日から2週間以内に,役員解任の登記をする必要があります。

解任の登記を怠った場合には,解任後に当該役員が行った取引について,会社が責任を追及されてしまう可能性もあるため注意してください。

7 役員解任でお悩みの方は弁護士にご相談を

今回は,役員(取締役)の解任について解説しました。

役員の「解任」とは,役員の意思とは関係なく,任期の途中で役員をやめさせることです。

会社が役員を解任するにあたって,理由は必要ありません。

ただし,解任に「正当な理由」がない場合には,役員から損害賠償を請求される可能性があります。

損害賠償を請求されないためには,どのような場合に「正当な理由」が認められるのか理解してことが重要となるでしょう。もし,役員解任でお悩みでしたら,当事務所までお気軽にご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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