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会社が労働条件を変更するには,原則として,従業員(社員)の合意を必要とします。
しかし,個々別々に交渉し対応することが現実的でない場合もあるでしょう。
就業規則を変更することで,集団的に統一して労働条件を変更することが可能です。
では,就業規則の変更はどのような場合に認められるのでしょうか。
一部の従業員が反対している場合であっても,就業規則の変更が認められるのでしょうか。今回は,就業規則の不利益変更について詳しく解説します。
目次
従業員に不利益となる就業規則の変更は,原則として認められません。
不利益変更を行う場合には,従業員の同意が必要となります。
就業規則の変更には,就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか,新たに条項を作成することも含まれます。
一定の条件を満たす場合には,従業員に不利益な就業規則の変更が認められます。
具体的には,①就業規則の変更に合理性が認められること,②変更後の就業規則を従業員に周知させることが必要となります。
※太字は執筆者による
引用:労働契約法|e-Gov 法令検索
不利益変更が認められる条件を満たす場合であっても,就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、基本的にその合意内容が優先します。
仮に,労働契約法10条が定める条件を満たさずに就業規則の不利益変更を行った場合,変更後の就業規則の効力は認められません。
変更後の無効な懲戒規程に基づく解雇や賃金規程に基づく給与の支払いなどについて,従業員から訴えられるリスクが生じるでしょう。
例えば,変更後の賃金が変更前の賃金を下回る場合には,会社従業員に対し,差額の賃金を支払う必要が生じます。
また,従業員の会社に対する信頼も失われるリスクがあります。
不利益変更が認められるための2つの条件について,そのポイントを解説します。
労働契約法10条の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は,合理性を判断するうえでの判断要素となります。
もっとも,これらの判断要素は例示であって,個別具体的な事案に応じて総合的に判断されることに注意しなければいけません。
参考となる判例をご紹介します。
【最高裁平成9年2月28日(第四銀行事件)】
銀行で,定年年齢を延長する代わりに,賃金を減額するため就業規則を変更した事例です。
裁判所は,以下のような点を総合的に判断し,変更後の就業規則の合理性を認めました。
上で挙げた点からも分かるように,就業規則変更の合理性は具体的事情に基づいて総合的に判断されます。
就業規則の不利益変更は,労働者の労働環境や生活に大きな影響を与えます。
容易に認められるわけではない点に留意しましょう。
就業規則の効力が認められるには,従業員に周知させる必要があります。
会社は,就業規則を各作業場の見やすい場所に常時掲示するなどの方法により,従業員に周知させなければなりません。
引用:労働労働基準法施行規則|e-Gov 法令検索
変更後の就業規則を周知していても,トラブルになってしまうケースは少なくありません。
就業規則変更後のトラブルを防ぐために,以下のような予防策をとりましょう。
変更後の就業規則の内容が従業員にとってわかりにくいものであると,従業員に誤解を生じさせてしまい,トラブルに発展しかねません。
変更内容をわかりやすく明確にしておくことで,そのようなトラブルを未然に防ぐことが可能になります。
就業規則の変更に合理性が認められるとしても,変更後の就業規則の内容が従業員にとって受け入れがたいものであると,規程が守られずにトラブルとなるケースがあります。
変更内容に労働者や労働組合からの意見を取り入れることで,従業員に受け入れられやすくなります。
変更手続では,可能な範囲で従業員などの意見を取り入れることをお勧めします。
会社が周知したつもりであっても,形式的に周知しただけでは,従業員が正確な内容を把握できません。
結果として,トラブルになってしまいます。
従業員のパソコンやスマホなどから容易にアクセスできる方法で,徹底した周知を図りましょう。
徹底した周知を行い,従業員が理解したつもりであっても,実際には正しく理解しておらず,変更後の就業規則に沿った適切な行動ができていない場合があります。
そのような場合には,トラブルに発展しかねません。
従業員に対して研修やトレーニングといった教育を行うことで,変更内容を正しく理解させ,変更後の就業規則に沿った適切な行動をとることが期待できます。
就業規則の作成・変更は,しっかりと順序立てて行えば,円滑に実現することが可能です。
次の4つのステップを踏みましょう。
まずは,就業規則の変更点を明確にし,変更案をとりまとめます。
その際には,対象従業員や効力発生日も検討する必要があるでしょう。
パートやアルバイトを対象従業員に含めないのであれば,別途パートやアルバイトに適用される就業規則を作成する必要もでてきますので,注意する必要があります。
労働基準法は,就業規則の作成・変更について,労働組合あるいは代表者の意見を聴く義務を会社に課しています。
そのため,必ず従業員側の意見を聴取しなければなりません。
意見を聴取した際には,その意見を記した書面を作成しておく必要があります。
変更届と変更後の就業規則を準備し,労働者の意見を記した書面を添付して,労働基準監督署に提出します。
基本的に,不備なく書類が揃っていれば受理されます。
ただし,労働基準監督署は,就業規則の内容をチェックするわけではありません。
そのため,就業規則の届出が受理されたからといって,内容が有効なものとして認められるわけではない点に注意する必要があります。
周知は,変更後の就業規則の効力が認められるために必要です。
労使協定の変更を伴うのであれば,変更後の労使協定についても周知する必要があります。
今回は,就業規則の不利益変更について解説しました。
しかし,従業員に不利益となる就業規則の変更は,原則として認められません。
就業規則の変更に合理性が認められること,変更後の就業規則を従業員に周知させることの2つの条件を満たす必要があります。
また,変更手続では,従業員側の意見を聴き,必要な書類を揃えたうえで労働基準監督署へ届出を行う必要もあります。
トラブルを回避するためにも,就業規則の不利益変更は,事前に順序立てて行うようにしましょう。もし,就業規則の不利益変更に関してお悩みである場合には,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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