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2024.03.18 2024年4月4日

従業員離職・訴訟リスクを招く!就業規則の不利益変更4つの落とし穴

従業員離職・訴訟リスクを招く!就業規則の不利益変更4つの落とし穴

会社が労働条件を変更するには,原則として,従業員(社員)の合意を必要とします。

しかし,個々別々に交渉し対応することが現実的でない場合もあるでしょう。

就業規則を変更することで,集団的に統一して労働条件を変更することが可能です。

では,就業規則の変更はどのような場合に認められるのでしょうか。

一部の従業員が反対している場合であっても,就業規則の変更が認められるのでしょうか。今回は,就業規則の不利益変更について詳しく解説します。

1 就業規則の不利益変更4つの落とし穴

(1)原則として不利益変更は認められない

従業員に不利益となる就業規則の変更は,原則として認められません。

不利益変更を行う場合には,従業員の同意が必要となります。

就業規則の変更には,就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか,新たに条項を作成することも含まれます。

(2)例外的に不利益変更が認められる場合がある

一定の条件を満たす場合には,従業員に不利益な就業規則の変更が認められます。

具体的には,①就業規則の変更に合理性が認められること,②変更後の就業規則を従業員に周知させることが必要となります。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(略)

※太字は執筆者による

引用:労働契約法|e-Gov 法令検索

(3)不利益変更が認められる場合でも労働条件を変更できない場合がある

不利益変更が認められる条件を満たす場合であっても,就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、基本的にその合意内容が優先します。

(4)条件を満たさない不利益変更は無効となる

仮に,労働契約法10条が定める条件を満たさずに就業規則の不利益変更を行った場合,変更後の就業規則の効力は認められません。

変更後の無効な懲戒規程に基づく解雇や賃金規程に基づく給与の支払いなどについて,従業員から訴えられるリスクが生じるでしょう。

例えば,変更後の賃金が変更前の賃金を下回る場合には,会社従業員に対し,差額の賃金を支払う必要が生じます。

また,従業員の会社に対する信頼も失われるリスクがあります。

2 就業規則の不利益変更の落とし穴を回避!2つのポイント

不利益変更が認められるための2つの条件について,そのポイントを解説します。

(1)就業規則の変更に合理性が認められること
(2)変更後の就業規則を従業員に周知させること

(1)就業規則の変更に合理性が認められること

労働契約法10条の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は,合理性を判断するうえでの判断要素となります。

もっとも,これらの判断要素は例示であって,個別具体的な事案に応じて総合的に判断されることに注意しなければいけません。

参考となる判例をご紹介します。

【最高裁平成9年2月28日(第四銀行事件)】

銀行で,定年年齢を延長する代わりに,賃金を減額するため就業規則を変更した事例です。

裁判所は,以下のような点を総合的に判断し,変更後の就業規則の合理性を認めました。

・従前の定年後在職制度の下で得られると期待することができた金額を2年近くも長く働いてようやく得ることができるというのであるから、不利益はかなり大きい
・特に,特定の行員に対しては,相当な不利益が認められる
・しかしながら、60歳定年制の実現が国家的な政策課題とされ、社会的に強く要請されていた
・定年延長の高度の必要性があったことは十分に認められる
・中髙年齢層行員の比率が地方銀行の平均よりも高く、今後更に高齢化が進み、役職不足も拡大する見通しである反面、経営効率及び収益力が十分とはいえない状況にあったため,変更する必要性が高かった
・変更後の就業規則に基づく55歳以降の労働条件の内容は、55歳定年を60歳に延長した多くの地方銀行の例とほぼ同様の態様であった
・変更後の賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いものであった
・定年が延長されたことは、女子行員や健康上支障のある男子行員にとっては、明らかな労働条件の改善である
・健康上支障のない男子行員にとっても、2年間定年が延長され、健康上多少問題が生じても60歳まで安定した雇用が確保されるという利益は小さくない
・福利厚生制度の適用延長や拡充、特別融資制度の新設等の措置が採られていることは、直接的な代償措置とはいえないが、不利益を緩和するものということができる
・本件就業規則の変更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものである
・変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができる。
・統一的かつ画一的に処理すべき労働条件に係るものであることを考え合わせると、就業規則による一体的な変更を図ることの必要性及び相当性を肯定することができる。

上で挙げた点からも分かるように,就業規則変更の合理性は具体的事情に基づいて総合的に判断されます。

就業規則の不利益変更は,労働者の労働環境や生活に大きな影響を与えます。

容易に認められるわけではない点に留意しましょう。

(2)変更後の就業規則を社員(従業員)に周知させること

就業規則の効力が認められるには,従業員に周知させる必要があります。

会社は,就業規則を各作業場の見やすい場所に常時掲示するなどの方法により,従業員に周知させなければなりません。

第五十二条の二 法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

引用:労働労働基準法施行規則|e-Gov 法令検索

3 就業規則変更後のトラブルを防ぐための予防策4つ

変更後の就業規則を周知していても,トラブルになってしまうケースは少なくありません。

就業規則変更後のトラブルを防ぐために,以下のような予防策をとりましょう。

(1)変更内容をわかりやすく明確にする
(2)従業員などの意見も取り入れる
(3)徹底した周知を行う
(4)研修などを実施する

(1)変更内容をわかりやすく明確にする

変更後の就業規則の内容が従業員にとってわかりにくいものであると,従業員に誤解を生じさせてしまい,トラブルに発展しかねません。

変更内容をわかりやすく明確にしておくことで,そのようなトラブルを未然に防ぐことが可能になります。

(2)従業員などの意見も取り入れる

就業規則の変更に合理性が認められるとしても,変更後の就業規則の内容が従業員にとって受け入れがたいものであると,規程が守られずにトラブルとなるケースがあります。

変更内容に労働者や労働組合からの意見を取り入れることで,従業員に受け入れられやすくなります。

変更手続では,可能な範囲で従業員などの意見を取り入れることをお勧めします。

(3)徹底した周知を行う

会社が周知したつもりであっても,形式的に周知しただけでは,従業員が正確な内容を把握できません。

結果として,トラブルになってしまいます。

従業員のパソコンやスマホなどから容易にアクセスできる方法で,徹底した周知を図りましょう。

(4)研修などを実施する

徹底した周知を行い,従業員が理解したつもりであっても,実際には正しく理解しておらず,変更後の就業規則に沿った適切な行動ができていない場合があります。

そのような場合には,トラブルに発展しかねません。

従業員に対して研修やトレーニングといった教育を行うことで,変更内容を正しく理解させ,変更後の就業規則に沿った適切な行動をとることが期待できます。

4 就業規則の変更を円滑に実現するための4つのステップ

就業規則の作成・変更は,しっかりと順序立てて行えば,円滑に実現することが可能です。

次の4つのステップを踏みましょう。

(1)変更案を検討・作成する
(2)従業員側の意見を聴取する
(3)労働基準監督署へ届出手続を行う
(4)変更後の就業規則を周知する

(1)変更案を検討・作成する

まずは,就業規則の変更点を明確にし,変更案をとりまとめます。

その際には,対象従業員や効力発生日も検討する必要があるでしょう。

パートやアルバイトを対象従業員に含めないのであれば,別途パートやアルバイトに適用される就業規則を作成する必要もでてきますので,注意する必要があります。

(2)従業員側の意見を聴取する

労働基準法は,就業規則の作成・変更について,労働組合あるいは代表者の意見を聴く義務を会社に課しています。

そのため,必ず従業員側の意見を聴取しなければなりません。

意見を聴取した際には,その意見を記した書面を作成しておく必要があります。

(3)労働基準監督署へ届出手続を行う

変更届と変更後の就業規則を準備し,労働者の意見を記した書面を添付して,労働基準監督署に提出します。

基本的に,不備なく書類が揃っていれば受理されます。

ただし,労働基準監督署は,就業規則の内容をチェックするわけではありません。

そのため,就業規則の届出が受理されたからといって,内容が有効なものとして認められるわけではない点に注意する必要があります。

(4)変更後の就業規則を周知する

周知は,変更後の就業規則の効力が認められるために必要です。

労使協定の変更を伴うのであれば,変更後の労使協定についても周知する必要があります。

5 まとめ

今回は,就業規則の不利益変更について解説しました。

就業規則を変更することで,集団的に統一して労働条件を変更することが可能です。

しかし,従業員に不利益となる就業規則の変更は,原則として認められません。

就業規則の変更に合理性が認められること,変更後の就業規則を従業員に周知させることの2つの条件を満たす必要があります。

また,変更手続では,従業員側の意見を聴き,必要な書類を揃えたうえで労働基準監督署へ届出を行う必要もあります。

トラブルを回避するためにも,就業規則の不利益変更は,事前に順序立てて行うようにしましょう。もし,就業規則の不利益変更に関してお悩みである場合には,当事務所までお気軽にお問い合わせください。

このコラムの監修者

弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ

金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録

交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。

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