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懲戒処分とは、会社が業務命令や服務規律に違反した従業員に対して制裁として行う不利益処分のことです。
従業員が企業秩序に違反する行為をした場合に、会社がとり得る手段の1つです。
企業活動において、職場規律や企業秩序の維持は非常に重要といえるでしょう。
しかし、適切でない懲戒処分は無効と判断されてしまう可能性があります。今回は、従業員に対する懲戒処分について解説します。
目次
懲戒処分の主な目的は、次の2つにあります。
従業員が会社の就業規則や法律に違反する行為を行った場合、これに対して制裁を加えることで、同様の行為を繰り返させないという効果が期待できます。
また、懲戒処分が実際に下されることで、他の従業員に対して規範意識を高めることができ、企業全体の秩序を維持することが可能になるでしょう。
会社には、社会の一員として、法律を順守することや倫理的に行動することが求められます。
従業員がこれらに反するような問題行動を起こした場合、従業員に対して適切な処分を行うことで、企業イメージの低下を抑えることができるでしょう。
会社が懲戒処分を行う権限は、懲戒権と呼ばれます。
会社に懲戒権が認められる根拠は、法律に明記されていません。
しかし、判例は、会社が企業秩序維持の観点から懲戒権を認めています。
法律も会社が懲戒権を有することを前提としています。
もっとも、会社が実際に懲戒処分を行うには、就業規則において、懲戒の種別や事由を定めておかなければなりません。
また、合理的な理由がなく、社会的に相当といえない懲戒処分は、無効と判断される可能性があります。
引用:e-Gov 法令検索|労働基準法
引用:e-Gov 法令検索|労働契約法
懲戒処分には、次の7種類があります。
数字が大きくなるにつれ、従業員にとって重い処分になります。
戒告とは、将来を戒める処分です。
従業員が就業規則に違反したり、会社の秩序を乱すような不適切な行為を行ったりした場合に、その行為を注意し、改善を促すために行います。
従業員にとって、直ちに実質的な不利益を伴うものではありませんが、会社は考課査定で不利に考慮することができます。
けん責とは、始末書の提出を伴って、将来を戒める処分です。
戒告との違いは、始末書の提出を伴う点にあります。
始末書の提出を求めたにもかかわらず従業員がこれに従わなかった場合には、考課査定で不利に考慮することができます。
減給とは、賃金額から一定額を控除する処分です。
従業員にとっては、賃金額が減少するため影響が大きい処分といえるでしょう。
そのため、1回の額が平均賃金の半額を超えてはいけません。
また、総額が一賃金支払期のおける賃金総額の10分の1を超えてはいけません。
出勤停止・停職とは、雇用契約を継続しつつ、労働者の就労を一定期間禁止する処分です。
就労を禁止している間は、賃金が発生せず無給となります。
また、その間は勤続年数に参入しないことが一般的です。
従業員に対する影響が大きく、禁止期間があまりに長い場合には、懲戒処分が無効と判断される場合があるため注意しましょう。
降格とは、従業員の職能資格といった格付けを引き下げる処分です。
降職とは、従業員の役職を免ずる、あるいは引き下げる処分です
降格・降職によって賃金額が下がる場合が多いでしょう。
その場合、従業員に対して、将来にわたって賃金額の減少という不利益を課すことになります。
論旨解雇(論旨退職)とは、会社側がが従業員に退職を勧告し、労働者に退職願を提出させたうえで解雇または退職扱いとする処分です。
退職金を支給することが多いですが、その一部または全部を支給しないことが認められる場合もあります。
論旨解雇(論旨退職)は、懲戒解雇に次ぐ重い懲戒処分であることから、トラブルとなる可能性が高く、慎重な判断が求められるでしょう。
懲戒解雇とは、懲戒処分としての解雇であり、雇用契約を一方的に解約する処分です。
退職金の全部又は一部が支給されず、また、解雇予告を伴わないで即時解雇されるのが通常です。
従業員にとって、最も重い処分となります。
関連記事:普通解雇と懲戒解雇の違いは?トラブルを未然に防ぎ企業を守る!
関連記事:懲戒解雇は最終手段!会社側が抱える3つのデメリットとは?
懲戒処分は、無効と判断される場合があります。
無効と判断されると、従業員から会社に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。
そのため、どのような場合に無効と判断されてしまうのか知っておくことは非常に重要です。
具体的には、以下のような場合です。
就業規則に懲戒処分の種別と事由が規定されていなければなりません。
種別とは、戒告やけん責、懲戒解雇などのことです。
事由とは、勤怠不良や業務命令違反など、従業員の非違行為のことです。
就業規則に規定される前に行われた非違行為に対して、後に就業規則で規定されたとしても懲戒処分は認められないため、会社はあらかじめ就業規則に規定し、これを周知しておく必要があります。
関連記事:従業員が10人未満の会社も要チェック!就業規則がないと違法?
同じ事由について繰り返し懲戒処分を行うことはできません。
このようなルールを「二重処罰の禁止」や「一事不再理効」といいます。
すでに懲戒処分を受けた従業員が、懲戒処分後に再び同様の行為を繰り返した場合には、新たに懲戒処分を行うことが可能です。
懲戒処分が従業員の非違行為の内容と比べて重すぎると判断される場合には、懲戒権の濫用と判断される可能性があります。
従業員の行為の内容や悪質性の程度と処分の重さとのバランスを図りましょう。
同等の非違行為については、同等の処分がなされる必要があります。
また、会社が認識していたにもかかわらず黙認していた行為に対し、突然に懲戒処分することも不平等な取扱いとしても認められない可能性があります。
懲戒処分は、従業員に対して不利益を課すものであるため、適正な手続きを踏むことが求められます。
まずは、事実関係を調査することから始めましょう。
就業規則や労働協約に、懲戒処分を行う場合には、従業員に対して弁明の機会を与える旨の規定が設けられている場合には、従業員に対し必ず弁明の機会を与えましょう。
従業員に弁明の機会を与えなかった場合には、懲戒処分が無効と判断される可能性があるため注意してください。
仮に規定がなくとも、紛争を防ぐため、従業員に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることをお勧めします。
会社が適切な処分を行わないと、懲戒処分が無効と判断され、損害賠償を請求される可能性があります。
適切な処分をするために、以下のような手続きを踏みましょう。
懲戒処分の前提となる事実に誤りがないか、調査します。
処分後に事実関係につき争いとなる可能性もあります。
他の従業員の供述などを録音するなどして、必ず証拠を残しておきましょう。
従業員の言い分を知ることは、適切な処分を行う上で非常に重要です。
調査した事実に誤りがあることが発覚するかもしれません。
就業規則や労働協約に規定がなくとも、従業員に対して処分理由を告知して弁明の機会を与えることで、適切な処分を下すことが可能になります。
従業員の非違行為に対し、処分することが適切か、どのような処分を下すべきか検討しましょう。
非違行為の内容や程度、反省の程度など様々な事情を考慮する必要があります。
これまでの処分と比べて重い処分をくだそうとしていないか、慎重に判断しましょう。
懲戒処分の内容が決定したら、処分通知書を作成して本人に通知します。
処分通知書には、根拠となる就業規則の規定などを明記し、処分の内容や該当事由、効力発生日などを記載します。
処分を公表することで、企業の秩序維持や従業員の意識向上といった効果が見込めるでしょう。
しかし、従業員のプライバシーや個人情報の取り扱いには十分注意する必要があります。
今回は、懲戒処分について解説しました。
会社には、非違行為を行った従業員に対して懲戒処分をすることが認められます。
しかし、実際に懲戒処分が有効と認められるには、就業規則に懲戒処分の種別と事由が規定されている必要があります。
また、適正な手続きを踏む必要もあります。もし、懲戒処分についてご不明な点がございましたら当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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