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経営上の理由や従業員の能力不足といった理由などから、従業員に対して退職勧奨を行うことがあります。
退職勧奨は、従業員に退職を促し、従業員が納得したうえで退職の合意を得なければなりません。
しかし、従業員にとって退職は収入を失う重大な事柄であるため、スムーズに退職の合意に至らない場合もあるでしょう。
そこで、考えうる交渉材料の一つが退職金の上乗せです。今回は、退職勧奨における退職金の上乗せについて解説します。
目次
退職金を上乗せすることで、退職の合意を得やすくなるというメリットがあります。
基本的に、従業員は退職後の生活に不安を抱えています。
企業から得られる退職金が多いと、そのような従業員の不安はある程度取り除かれるでしょう。
結果として、従業員から退職の合意を得られやすくなり、退職勧奨がスムーズに進みます。
企業としては、退職金を低く済ませたい、できることなら支給したくないと考えたくなる場合もあると思います。
しかし、退職の合意が得られず、適切に手続きを進めないまま従業員を解雇してしまうと、従業員から不当解雇であると主張されてしまう可能性もあります。
また、退職勧奨の進め方が強引になってしまうと、従業員から損害賠償請求されてしまう可能性もあります。
退職金を上乗せしてスムーズに退職勧奨を進めることは、それらのリスクを回避することにも繋がります。
退職金の上乗せという一定の支出が、経営改善や社内秩序の適正化を図るうえで必要となる場面もあるのです。
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退職金と異なるものとして、解決金があります。
解決金は、退職金制度とは関係なく、退職勧奨に応じてもらう条件として企業から対象従業員に対して支払われるお金のことです。
企業の就業規則等に退職金規定がない場合、企業は退職金を支払う必要はありません。
そのため、退職金を上乗せするという方法ではなく、一定の解決金を支払うという方法によって退職を促し、従業員から退職の合意を得るのです。
退職金を上乗せする場合、決まった算定方法などはありません。
そのため、社内で検討し、従業員が納得できる額を設定する必要があります。
一般的には、賃金の3ヶ月分程度が目安となりますが、以下のような視点に基づいて個別の検討が必要となります。
解雇するだけの理由がある場合には、従業員としても退職勧奨に応じざるを得ないでしょう。
このような場合には、直ちに退職してもらう代わりに賃金の1ヶ月分程度を上乗せすることが穏当といえます。
仮に即時解雇する場合には、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払う必要があるためです。
再就職先や時期が決まっている場合、従業員としても早期解決を図らざるを得ません。
また、退職後の生活に対する不安というのも、ある程度解消されています。
そのため、退職金を上乗せするにしても、賃金の1ヶ月程度で足りるでしょう。
これに対し、再就職が決まっていない場合には、賃金の3か月程度が必要になります。
個人差はありますが、再就職期間として3ヵ月程度は必要と考えられるためです。
対象労働者の有給休暇が未消化の場合には、有給日数分の給与相当額を上乗せする退職金に加えて支払うことが考えられます。
退職する従業員から、有給休暇を買い取るよう提案された場合には、これを受け入れて買い取ることも可能です。
ただし、従業員が有給休暇を消化してから退職を希望するという場合には、企業がこれを拒否することは違法となりますので注意しましょう。
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退職金の上乗せをしなかった場合、以下のようなリスクが生じます。
従業員が抱く退職後の不安を取り除くことができないと、退職の合意を得ることは難しいでしょう。
退職の合意が得られないにもかかわらず、対象となる従業員にどうしても退職してもらいたい場合、企業は解雇という手段を選択するしかありません。
しかし、解雇は従業員の生活基盤を失わせるものですから、容易には認められません。
もし、解雇が違法で無効とされると、解雇時から解雇が無効と判断されるに至るまでの賃金を支払わなくてはなりませんし、従業員から損害賠償請求されてしまう可能性もあります。
結果として、企業に対する信用の低下、職場や他の従業員に対する悪影響を生じさせることもあるでしょう。
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仮に、退職の合意を得ることができたとしても、退職金を上乗せしなかった場合には、有効な合意がなかったと判断される場合があります。
退職勧奨に対する退職の合意は、従業員の自由な意思に基づいて行われる必要があります。
しかし、企業と従業員との間には、交渉力の差が存在するため、いくら従業員が退職に合意していたとしても、従業員が企業に従うしかなかったとか、合意を強制させられたと判断される場合には、自由な意思に基づいていないとして合意が無効と判断されてしまう可能性があります。
退職金の上乗せがないと、本当に従業員がそのような不利な条件で合意したのかという点に疑問が生じ、退職の合意が従業員の自由な意思に基づくものでないと判断されかねないのです。
もちろん退職金の上乗せがないことが、ただちに退職の合意が従業員の自由な意思に基づいていないと判断されるわけではありません。
しかし、退職金の合意が自由な意思に基づくか否かを判断する上で、一つの判断要素となりうることに留意する必要があります。
退職勧奨は、企業が従業員と交渉を行い、従業員から承諾を得て退職してもらうものです。
あくまで任意の交渉に基づくため、どのような条件やタイミングで退職勧奨を行うかについては、基本的に企業の自由です。
ただし、退職勧奨自体が違法と判断されてしまう場合もあるため、どのように交渉すればよいのか知っておくことが重要となるでしょう。
退職勧奨の交渉を行う上で、以下の点を押さえておきましょう。
実態に即した適切なタイミングで条件を提示することが、交渉をスムーズに進める上でのポイントとなります。
退職勧奨を行う上で、初めから退職金の上乗せを条件にして交渉する必要はありません。
交渉開始時には退職金の上乗せを提示せず、交渉が難航したところで退職金の上乗せを提示することも可能です。
一方で、退職勧奨に至った原因が、従業員の能力不足や勤怠不良などではなく、経営上の必要性など企業側にあるといえる場合には、交渉開始の時から退職金の上乗せを提示することで、スムーズに退職手続きを進めることができる可能性があります。
条件を提示する適切なタイミングを見定めましょう。
交渉にあたっては、あらかじめ上乗せする金額の上限を設定しておくことが重要です。
従業員によっては、企業の足元を見て、高額な退職金の上乗せや解決金を要求してくることも少なくありません。
あらかじめ解決金の上限を設定し、段階的に従業員に有利な条件を提示することで、不当な金額に吊り上げられることを回避できるでしょう。
退職勧奨は適切な方法で行わなければ、紛争へと発展しかねません。
企業が従業員に退職を執拗に求めるなど、従業員の自由な意思形成を妨げてはいけません。
また、言うまでもなく暴力を伴ってはいけませんし、名誉を傷つけるような言動や仕事を割り当てないといった嫌がらせを伴う退職勧奨も許されません。
方法によっては違法な退職勧奨として退職が無効と判断されるだけでなく、従業員から損害賠償請求される可能性もあります。
弁護士に相談することで、退職勧奨を適切かつスムーズに進めることが可能になります。
個々の実態に即した適切な交渉を行うためには、それなりの準備やサポートが必要になります。
退職金の上乗せや解決金を含めた条件の設定、それらの条件を提示するタイミング、退職勧奨の方法など、弁護士に相談することで必要な準備を行うことが可能となり、交渉初期段階から退職に至るまでの適切な助言・指導を受けることが可能となるでしょう。
また、万が一紛争となってしまった場合に備えて必要となる証拠や、その証拠の集め方、具体的な対処法などの助言も受けることができるでしょう。
今回は、退職勧奨における退職金の上乗せについて解説しました。
しかし、退職金を上乗せする場合に決まった算定方法などはありません。
賃金の3ヶ月分程度が一つの目安となりますが、個々の実態に即して従業員が納得できる額を設定する必要があるでしょう。
退職金を上乗せしなかった場合には、一定のリスクが伴いますので注意してください。
また、交渉にあたっては、適切な条件やタイミングが重要となります。
違法な退職勧奨とならないよう、その方法・態様には十分注意してください。もし、退職勧奨や退職金の上乗せについて、ご不明な点等ございましたら、労働紛争に強い弁護士である弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイまでお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズハイ
金﨑 正行弁護士(兵庫県弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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