受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)
令和4年,全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案のうち,労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い,解決された件数は19,708件,対象労働者数は175,893人,合計金額は79億4,597万円にのぼります。
引用:賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)|厚生労働省
上記の賃金不払い事案には,未払い残業代の請求も含まれます。
未払い残業代の請求は,労働紛争の中でも,最も紛争になりやすい問題の1つといえるでしょう。
対処を間違えると,多額の金銭の支払いを求められたり,労働基準監督署から調査や是正勧告などを受けたりするリスクが生じます。本コラムでは,未払い残業代が請求された場合の対処方法などについて解説します。
目次
従業員から未払残業代を請求された場合,言ってることがよく分からないとか,納得がいかないなどといった理由で放置してはいけません。
もし,放置してしまうと,裁判所から付加金の支払いを命じられたり,遅延損害金が上乗せされたりと,残業代以上の支払いを命じられるリスクが生じます。
まずは,以下の点について,確認しましょう。
まずは,当該従業員と会社間における契約関係の実態を把握しましょう。
労働基準法(以下,「労基法」といいます)の保護の対象となり,労基法に従った残業代の請求が認められる「労働者」とは,「事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者」です。
雇用契約や請負契約といった形式的な名称は関係なく,実態として,会社に「使用される者」といえるのかが特に重要となります。
結果として,業務委託契約であったり,請負契約であったりする場合は,労基法に従った残業代の支払義務を会社が負わない可能性があります。
会社が残業することを禁止していた場合,従業員からの残業代請求が認められない可能性があります。
賃金が発生する労働時間とは,判例上,「使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいます。
一般的に,残業を禁止している場合,残業は従業員の自発的な意思に基づくものであり,使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することはできません。
ただし,残業を原則として禁止していることが従業員に周知されていなかった場合や,会社側が残業を黙認していた場合などには,従業員からの残業代請求が認められる可能性があるため注意しましょう。
一般的に,労基法41条2号が定める「監督若しくは管理の地位にある者」を管理監督者といいます。
管理監督者であると認められる場合には,深夜労働を除いて,割増賃金の対象となりません。
そのため,残業代は発生しないことになります。
「経営者と一体的な立場にある者」といえる場合には,管理監督者とされ,その判断は実態に即して行われます。
単に,店長や統括部長といった名称で決まるわけではありません。
従業員が残業代を計算するにあたり,労働時間の計算がそもそも間違っている可能性があります。
労働時間とは,判例上,「使用者の指揮命令下に置かれている時間」です。
通常,タイムカードや労働時間管理ソフト,入退館記録,シフト表などから労働時間を把握することが可能です。
もし,従業員が,会社の把握している労働時間よりも長時間労働していた旨を主張している場合には,実際に従業員が主張している労働時間が存在するのか検討する必要があります。
労働契約や就業規則,労働協約等の定めによって労働時間が決まるわけではなく,客観的に「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と評価できるかがポイントとなります。
勝手にタバコ休憩をとっていたなどの事情がある場合には,労働時間から除外できる可能性があります。
基本給とは別に,固定残業代を支払っている場合には,既に残業代が支払済みであると判断される場合があります。
固定残業代が有効に認められるには,通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外および深夜の割増賃金にあたる部分とを明確に判別できることが必要です。
固定残業代が無効とされると,支払っていたはずの残業代は支払われていなかったことになります。
執筆時点(2024年2月)において,残業代の支払いの消滅時効期間は 3年とされています。
請求されている残業代の支払期日から,既に3年が経過していないか確認しましょう。
残業代の請求を先延ばしにしている従業員は,意外に多いです。
退職する時にまとめて請求しようと考えていたり,行動を起こすことをためらっていたりするためです。
なお,3年という時効期間は,当面の間の経過措置であり,今後は5年へと伸長される可能性があります。
実際に未払い残業代が請求された場合,以下のような対処をとることになります。
従業員からの請求内容や,上で述べた実際の労働時間の確認などによって,具体的な未払い残業代を計算することができるでしょう。
具体的な未払い残業代を計算することによって,そもそも未払い賃金が発生しているのか,どこで食い違いが生じているのか,賃金体制に見直しが必要かなど,様々な点が見えてくる可能性があります。
未払い賃金があると判断される場合には,和解するという選択肢があります。
一方で,未払い賃金があると判断できても,従業員からの請求額とかけ離れている場合や,そもそも未払い賃金が発生していないと判断される場合には,反論するという選択肢があります。
和解する場合には,従業員と話し合うことによって,双方が納得した解決を図ることが可能です。
反論する場合は,労働審判や訴訟といった紛争に発展する可能性があります。
他の従業員への影響も懸念されますので,慎重な判断が求められるでしょう。
従業員が労働基準監督署に通報し,労働基準監督者から調査や指導を受けることがあります。
この場合,調査に協力しなかったり,指導に従わなかったりすることはお勧めしません。
悪質であると判断されると,刑事罰の対象となる可能性もあります。
労働基準監督署から対応を求められた場合は,誠実に対応しましょう。
誠実に対応するということは,相手の主張を素直に受け入れるということではありません。
会社側の主張をしっかり伝えることも重要です。
未払い残業代を請求されたら気をつけるべきポイントは,以下の通りです。
内容証明郵便などによって,従業員から未払い残業代を請求されると,慌ててすぐに連絡してしまうことがあります。
何の確認もせずに,いきなり連絡してしまうと,こちらが不利となってしまうような発言をしてしまう可能性があります。
まずは一旦落ち着いて内容を確認し,どのような対応を採るべきかよく考えて行動しましょう。
どうすればいいか分からない場合には,弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
未払い賃金など存在しない,払う必要はないなどと一方的に考え,従業員からの請求を無視することは絶対にやめましょう。
従業員からの要求に対応をしない会社と判断され,労働基準監督署から調査や指導を受ける可能性があります。
また,訴訟となって敗訴し,無視していたことが悪質であると判断された場合には,,結果として払う必要のなかった支払いまで求められてしまう可能性があります。
従業員からの要求には,真摯に対応しましょう。
従業員からの請求に対して,トラブルは御免だと,内容をきちんと確認せず支払いに応じることはやめましょう。
従業員の請求が必ずしも正しいとは限りません。
また,他の従業員がそのことを知った場合,同様の請求を求められてしまう可能性もあります。
必ず請求額が正しいのか確認し,話し合いに応じて支払う場合には,合意書(示談書)を作成することをお勧めします。
会社ができる主な対策としては,以下の3点が挙げられます。
会社が従業員の労働時間を正確に管理できていれば,未払い残業代が発生するリスクが減少します。
例えば,スアホやタブレットによる操作が可能な,クラウド型の勤怠管理システムの導入です。
システムを活用すれば,リアルタイムで従業員の労働時間を把握することができまず。
また,勤怠がデータとして残るため,紛失の心配もいりません。
外回りが多い営業職などでも,出先で操作することが可能です。
賃金制度が実情に合っていない,あるいは分かりにくいと,未払い残業代が発生するリスクが生じます。
未払い残業代が発生しない賃金制度を構築することが求められます。
就業規則や雇用契約書に記載された賃金制度を見直し,未払い残業代の発生リスクを減らしましょう。
そもそも,残業代は,残業がなければ発生しません。
残業を承認制にし,原則として残業を禁止することも1つの対策です。
残業する際には,上司に残業を申請しなければならないため,労働時間の管理も容易になります。
ただし,残業なしでは処理できないような業務を任せている場合には,黙示の残業命令があるとみなされることがありますので注意が必要です。
関連コラム:残業許可制は違法ってホント?無駄な残業をなくす会社側の対策を解説
今回は,未払い残業代が請求された場合の対処方法などについて解説しました。
従業員から未払残業代を請求された場合,絶対に放置してはいけません。
本当に未払い残業代が発生しているのか,請求額は正しいのかを確認し,真摯に対応するよう心掛けましょう。
対処を間違えてしまうと,裁判で多額の金銭の支払いを求められたり,労働基準監督署から調査や是正勧告などを受けたりするリスクが生じます。
従業員から未払い残業代を請求された場合には,できる限り早く,弁護士などに相談することをお勧めします。もし,残業代請求に関してご不明な点がございましたら,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
ご相談など、お気軽にお問い合わせください。
06-4394-7790受付時間:8:30~19:00(土日祝日も営業)