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みなし残業制(固定残業制)は,企業や従業員に一定のメリットをもたらす制度です。
しかし,適切に運用しなければトラブルのもとになりかねません。
今回は,みなし残業制を導入するメリットや注意点などについて解説します。
目次
みなし残業制とは,あらかじめ定めた一定時間分の時間外労働,休日労働および深夜労働に対して,一定額の残業代(みなし残業代)を支払う制度のことです。固定残業制ともいいます。
似た言葉に「みなし労働時間制」がありますが,これは外回りの営業職など,労働時間の管理が難しい業務について,就業規則で定めた労働時間を働いていたとみなして賃金が支払われる制度です。
両者は全く異なりますので注意してください。
みなし残業制は,使用者と労働者の間で誤解が生じやすく,トラブルに発展することも少なくありません。
制度をしっかり理解したうえで,適切に導入・運用されることが望まれます。
関連コラム:【使用者必見】36協定の残業45時間を超えたら違反?超える場合の対処法
関連コラム:残業許可制は違法ってホント?無駄な残業をなくす会社側の対策を解説
みなし残業制を導入するにあたって,メリット・デメリットを理解しておきましょう。
みなし残業制では,あらかじめ一定時間内の残業代を支払います。
そのため,一定時間内の残業であれば,残業代の計算が不要になります。
結果として,経理の負担が軽減されるでしょう。
あらかじめ一定の残業代を決めているため,残業代の範囲で残業をしている場合には,想定外の人件費がかかりにくくなります。
そのため,人件費の見通しが立てやすくなるでしょう。
結果として,資金繰り計画が立てやすくなって会社経営が安定する可能性があります。
みなし残業を導入した場合,社員(従業員)からすれば,残業してもしなくても支給される給与額はほとんど変わりません。
「少しでも残業代を稼ごう」と考える社員が減り,無駄な残業が減ります。
また,「残業しても支払われる給与額は同じだから」と所定労働時間内に仕事を終わらせようと考える社員が増えます。
そのため,みなし残業制を導入することで,業務効率が改善される可能性があります。
みなし残業制を導入すると,実際に残業が発生していなくても,あらかじめ定めた残業代を支払わなければなりません。
導入前よりも支払う残業代が多くなり,結果として人件費が高くなってしまう可能性があります。
あからじめ定めた残業代を超える残業をした場合には,差額の残業代を支払わなければなりません。
そのため,残業の量次第では,計算は複雑で煩雑なものとなり,経理の負担が逆に増えることもありえます。
規定されている時間は残業しないといけないという誤解を生じさせる可能性があります。
従業員がみなし残業制についての正確な理解を欠いていると,制度に対して不満を持つかもしれません。
就業希望者に対しては,定められた時間分の残業が前提となっているといったように,ネガティブに受け止められる可能性があります。
そのため,会社には丁寧な説明と徹底した周知が求められるでしょう。
みなし労働制は,企業が正確に理解したうえで,適切に運用される必要があります。
正確な理解と適切な運用を怠ると,社員との間で食い違いが生じてトラブルになる可能性があります。
みなし残業制に基づいた残業代の支払いが認められず,社員から未払いの残業代を請求されるかもしれません。
みなし残業制は,適切に導入・運用される必要があります。
会社としては,以下の点に注意しましょう。
みなし残業制度を導入するにあたっては,あらかじめ就業規則や賃金規程を変更し,当該事業場の労働者に周知しなければなりません。
新たに社員を雇う際にも,みなし残業制が記載された雇用契約書や労働条件通知書を交付して知らせる必要があります。
みなし残業代が,残業代の支払として認められるには,みなし残業代にあたる割増賃金と基本給が明確に区別されている必要があります。
過去に問題となった記載としては,「基本給25万(残業代含む)」といったものです。
このように基本給と残業代とが明確に区別できない書き方をしてしまうと,残業代を支払ったことにならず,別途割増賃金の支払いが認められてしまいます。
みなし残業の具体的な残業代と時間数は,必ず記載するようにしましょう。
労使協定(36協定)による残業時間の上限は,月45時間までとされています。
そのため,みなし残業時間が月45時間を超えないように規定するのが一般的です。
あまりに長時間の残業時間を設定すると,みなし残業制自体の効力が認められない場合もありますので注意してください。
みなし残業制(固定残業制)を導入していると,いくら残業させても支払う金額は変わらないと誤解している方がいます。
みなし残業制は,あらかじめ決めた時間分につき,一定の残業代(みなし残業代)を支払うものです。
実際に支払うべき残業代が,みなし残業代を超える場合には,別途超えた分について支払う必要があります。
例えば,あらかじめ定めたみなし残業時間が20時間で,実際に労働者が30時間の残業をした場合には,みなし残業時間を超えた10時間分の割増賃金を別途支払わなければなりません。
ここでは,みなし残業制が問題となった代表的な裁判例をご紹介します。
歩合給制の賃金制度が採られていたタクシー会社において,タクシー運転手が割増賃金の請求をした事案です。
この事案は,みなし残業制(固定残業制)ではなく,歩合給制度における割増賃金が問題となっています。
しかし,みなし残業制で定められた残業代と基本給とが明確に区別されなければならないという明確区分性を有効要件としたものと位置づけられています。
裁判所は,以下のように述べ,歩合給以外に割増賃金を払うべきであると判断しました。
基本給を月額41万円として,月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり2560円を基本給に加えて支払うが,月間総労働時間が140時間に満たない場合には1時間当たり2920円を基本給から控除する旨の約定が結ばれていた事案です。
月間総労働時間が180時間以内の場合の割増賃金が,基本給に含まれるか否かが争点となりました。
裁判所は,以下のように基準を示して詳細な認定を行ったうえで,みなし残業代の有効性を否定しました。
保険調剤薬局の運営を主たる業務とする会社と雇用契約を締結していた原告が,未払いの時間外,深夜割増賃金と付加金の各支払いを求めた事案です。
実際の事案では,雇用契約書や採用条件確認書,賃金規程において,「業務手当」が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていました。
「業務手当」は,実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではありませんでした。
裁判所は,「業務手当」が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたとし,残業代は支給されていたと判断しました。
今回は,みなし残業制を導入するメリットや注意点などについて解説しました。
残業代の計算が不要になるといったメリットもありますが,適切な導入と運用を怠ればトラブルになりかねません。
みなし残業制を導入する際には,みなし残業代と基本給を明確に区別し,あらかじめ定めた残業時間を超えた場合には,別途割増賃金を支払うようにしましょう。もし,みなし残業制のもとで未払い残業代を請求されてしまったという場合には,当事務所までお気軽にお問い合わせください。
このコラムの監修者
弁護士法人 法律事務所ロイヤーズ・ハイ
金﨑 正行弁護士(大阪弁護士会) 弁護士ドットコム登録
交渉や労働審判、労働裁判などの全般的な労働事件に対応をしてきました。 ご相談いただく方にとって丁寧でわかりやすい説明を心がけ、誠心誠意、対応させていただきます。 お困りの方はお気軽にご相談ください。
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