労働紛争

【働き方改革】

企業にとって、労働者は、大きな財産です。
近年、雇用形態も変化し、従来の新卒一括採用、終身雇用、定年引退という画一的な働き方は、今の時代に合わなくなってきました。
また、非正規労働者が正社員を上回る勢いで増加しています。
こうした時代背景のもとで、2019年4月1日から、「働き方改革」が施行されました。
その内容は、以下のとおりです。

働き方改革 施行内容

①長時間労働の是正
②雇用形態にかかわらない公正な待遇
③柔軟な働き方がしやすい環境整備
④ダイバーシティ(多様性)の推進
⑤賃金引き上げ、労働生産性向上
⑥再就職支援、人材育成
⑦ハラスメント防止対策

このうち話題としてよく取り上げられるのが、①②③です。
①長期労働時間の是正については、残業時間の上限を原則として、月45時間、年360時間とするなどの残業時間の罰則付き上限が設けられました。
他方で、高年収(1075万円)の一部専門職を労働時間規制、残業代支払いの対象からはずす(高度プロフェッショナル制度)といった柔軟な働き方を推進しています(③)。
また、②の雇用形態にかかわらない公正な待遇では、正社員と非正規労働者の不合理な待遇差を解消および各種手当、福利厚生などを対象とする同一労働同一賃金の導入が行われました。

【法律による規制】

企業にとっての大きな財産である労働者については、求人・募集活動から始まって労働契約締結、入社、退職まで、主に労働基準法によって様々な法規制がなされています。
以下、各段階に沿って、その規制内容をみていきましょう。

企業は、自由に求人・募集活動ができるわけではありません。明示すべき労働条件も法律で定められており実際と異なる虚偽の労働条件での募集は、職業安定法に違反します。
また、セールスレディ募集というように男女間での差別的な募集は、男女雇用機会均等法に違反し、30歳までと年齢を限定する募集も雇用対策法に違反します。
 さらに、応募者の人権やプライバシーへの配慮も必要です。厚生労働省は、職業上の能力や技能、適格性に関係のない事項(思想や信条、宗教に関すること)、及び就職差別につながりかねない本籍や出生地に関する事項については、使用者側が調査することは避けるよう指導しています。

労働契約時に、書面で明示すべき以下の労働条件が定められています。
・従業員が従事すべき業務内容
・契約期間
・就業場所
・労働時間や休憩時間、休日に関する事項
・賃金
・退職に関する事項
そして、労働契約が締結されると、通常、以下の書類の提出が要求されます。
・住民票記載事項証明書
・年金手帳
・雇用保険被保険者証
・通勤経路図
・身元保証書
・誓約書
企業は、住民票記載事項証明書をもとに労働者名簿を作成しますが、その他に、毎月の給料支払いごとに賃金台帳、企業のルール本となる就業規則を作成します。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成と労働基準監督署への届出が義務付けられおり、常時、社内の見やすい場所に掲示、または備え付けられてなければなりません。

 雇用期間中におこる労働問題で、法律事務所へよく相談があるのは、残業代の未払い、セクハラ・パワハラ問題です。

①定額残業代制

(内容)
あらかじめ一定の時間外労働や深夜労働等を想定し、その労働に対する割増賃金を毎月固定の額で支払うものです。
たとえば、毎月支給する給与におい て「月に30時間分の残業代を営業手当として支払う」というように、残業時間を計算せずとも毎月同じ額で支払うことを内容とします。企業としては、残業代の削減や事務作業の負担軽減といったメリットがあります。
(リスク)
残業手当をあらかじめ固定することは、必ずしも違法ではありませんが、従業員の「長時間のタダ働き」を容認するものでは、決してありません。定めた定額残業代が無効とされた場合には、残業代は未払いと判断されます。そして、その定額残業代も基本給として扱われ、この基本給+定額残業代を基準とした割増賃金を、残業代として支払わなければなりません。
(有効性)
このような事態を避けるためには、以下の要件3つが必要です。 ・定額残業代が、それ以外の賃金と明確に区別されている ・賃金の中に定額残業代が含まれること、その金額、時間を就業規則等に明示して、従業員に周知させる ・実際の時間外労働割増金額が定額残業代を上回った場合には、差額を支払う

②残業の申請・承認制

(内容)
残業について事前に申請するもので、上司が承認した場合のみ残業を認めるというものです。
申請の都度、上司は残業の要否を判断するため仕事の効率化を意識できること、
また、残業代目当てのいわゆる「生活残業」を減らすという点で、メリットがあります。
残業の承認制については、通常、承認者、申請が必要とされる残業の内容、申請期間等を、就業規則で定めます。申請は書面やWEB上でなされるのが一般です。
(注意点)
注意すべき点は、許可を受けていない場合でも、残業の默示の指示があったとみなされうることです。
たとえば、所定労働時間内でこなし切れない量の業務を命じられた従業員がやむなく残業せざるを得なかったというような状況では、申請がなくとも默示の指示があったとされます(東京地裁H11.7.13)。

【セクハラ・パワハラ問題】

セクハラとは、職場で行われる性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件につき不利益を受け、またはその労働者の就業環境が害されることをいいます。
セクハラには、性的言動に対する従業員の対応がきっかけとなって解雇や配置転換、降格、昇給停止などの不利益をうける「対価型」セクハラと、性的な言動で就業環境が不快なものとなり、業務の遂行に重大な悪影響が生じる「環境型」セクハラがあります。

また、パワハラとは、職権などの力関係を利用して部下などの人格や尊厳を侵害する言動を繰り返し行い、精神的な苦痛を与えてその働く環境を悪化させたり、雇用不安を与えることをいいます。
セクハラもパワハラも秘密裏になされ、被害者側は、悩みを打ち明けられず、精神的に追い込まれ、退職まで追い込まれることが多く、現代において極めて深刻な問題です。

このような事態をうけて、2019年5月に企業、職場でのパワハラ防止を義務付ける法案(パワハラ防止法)が成立しました。大企業では2020年6月から、中小企業では2022年から対応が義務付けられます。罰則規定はありませんが、企業に相談窓口の設置や再発防止対策を求めるほか、パワハラが状態化して改善されない場合は企業名が公表されることを内容としています。

さらに、同時に、男女雇用機会均等法の一部も改正されました。
セクハラ防止に関する国や事業主・労働者の責務の明確化、セクハラを相談した労働者への不利益取り扱い禁止、自社の労働者が他社の労働者に対してセクハラを行った場合、事実確認等の協力を求められたら応じる努力義務があること、といった内容で、セクハラ防止に向けた規制が強化されました。

残業代未払い、セクハラ・パワハラは、近年になって出てきた問題ですが、解雇についてのトラブルは、従来から企業がかかえている問題であります。
退職と異なり突然の労働の一方的な解除である解雇は、労働者にとっては、収入を打ち切られるものであることから、非常に重要な問題です。
解雇にあたりよく問題となるのは、企業側に解雇を行った経緯、理由について正当性があるかどうかです。

解雇された労働者が、不当解雇だと労働基準監督署に訴えても、同監督署は、労働基準法違反の是正はできますが、解雇の有効・無効の判断・決定をすることはできず、この判断は、最終的には裁判所に委ねられます。
そして、解雇に正当性があると認められるための要件としては、

①客観的に合理的な理由があり、

②社会通念上相当であることとなります。

この要件は、とても抽象的なものであり、画一的に決まるものでなく、労使関係、各業務内容によって何が合理的か、時代の変化に応じて何が社会通念上相当かどうかによって決まってきます。
また、弁護士が裁判で解雇の正当性を争っていくにしても、企業側に立つのか、労働者側に立つのかによって立証方法も異なり、弁護士の力量にもかなり影響されるものでありますので、経験豊富な弁護士に依頼することが大切となります。